前回の記事の続きです。
この記事では、性的影像記録提供等罪(性的姿態撮影等処罰法4条)と
- わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)
- 児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪、同法7条2項・6項)
- リベンジポルノ防止法違反(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条1項・2項)
との罪数関係を説明します。
① わいせつ物頒布等の罪との関係
性的影像記録提供等罪の行為が行われ、その行為がわいせつ物頒布等の罪(刑法175条)にも当たる場合、性的影像記録提供等罪とわいせつ物頒布等の罪の両罪が成立します。
これは、
- 性的影像記録提供等罪の保護法益が「性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」という個人的法益
であるのに対し、わいせつ物頒布等の罪の保護法益は、
- 「性道徳・性秩序の維持、健全な性風俗・公衆の性的感情」という社会的法益
であり、両者の保護法益が異なることから、性的影像記録提供等罪とわいせつ物頒布等の罪の両罪が成立すると考えられているものです。
そして、この場合の罪数の考え方は、
- 法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価されるのであれば、性的影像記録提供等罪とわいせつ物頒布等の罪は観念的競合となり、一罪となる
- そのように評価されなければ、性的影像記録提供等罪とわいせつ物頒布等の罪は併合罪となる
とされます。
② 児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)との関係
性的影像記録提供等罪の行為が行われ、その行為が児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪、同法7条2項・6項)にも当たる場合、性的影像記録提供等罪と児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)の両罪が成立します。
これは、
- 性的影像記録提供等罪の保護法益が「性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」という個人的法益
であるのに対し、児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)の保護法益(様々な見解がある)は、
- 児童ポルノの被写体とされた児童個人の利益(個人的法益説)
- 将来の被害児童の保護(一般児童保護説)
- 児童一般の健全な生育のために良好な社会環境を維持すること(社会的法益説)
- 児童の個人的法益と社会的法益(混合説)
であり、両者の保護法益が異なることから、性的影像記録提供等罪と児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)の両罪が成立すると考えられているものです。
そして、この場合の罪数の考え方は、
- 法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価されるのであれば、性的影像記録提供等罪と児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)は観念的競合となり、一罪となる
- そのように評価されなければ、性的影像記録提供等罪と児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供罪)は併合罪となる
とされます。
③ リベンジポルノ防止法違反との関係
リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)は、プライベートな性的画像を、その撮影対象者の同意なく、不特定又は多数の者に提供し、又は公然と陳列する行為を禁止する法律で、被害者個人の性的名誉及び性的プライバシーを保護することを目的として制定されたものです。
性的影像記録提供等罪の性的影像記録の提供行為が行われ、その行為がリベンジポルノ防止法違反(法3条1項・2項)の提供行為にも当たる場合、性的影像記録提供等罪とリベンジポルノ防止法違反の両罪が成立します。
これは、
- 性的影像記録提供等罪の保護法益が「性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」
であるのに対し、リベンジポルノ防止法違反の保護法益は、
- 「私生活の平穏、被害者個人の性的名誉及び性的プライバシー」
であり、両者の保護法益が異なることから、性的影像記録提供等罪とリベンジポルノ防止法違反の両罪が成立すると考えられているものです。
そして、この場合の罪数の考え方は、
- 法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価されるのであれば、性的影像記録提供等罪とリベンジポルノ防止法違反は観念的競合となり、一罪となる
- そのように評価されなければ、性的影像記録提供等罪とリベンジポルノ防止法違反は併合罪となる
とされます。