性的姿態撮影等処罰法

性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収(性的姿態撮影等処罰法8条)を説明

 性的姿態撮影等処罰法8条の「性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収」の規定を説明します。

「性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収」とは?

 性的姿態撮影等処罰法8条は、性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪に犯罪行為により生じた複写物を没収できるとした規定です。

 8条の内容は、

1項 次に掲げる物は、没収することができる

1号 第2条第1項又は第6条第1項の罪の犯罪行為により生じた物を複写した物

2号 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第3条第1項から第3項までの罪の犯罪行為を組成し、若しくは当該犯罪行為の用に供した私事性的画像記録(同法第2条第1項に規定する私事性的画像記録をいう。次条第1項第2号及び第10条第1項第1号ロにおいて同じ。)が記録されている物若しくはこれを複写した物又は当該犯罪行為を組成し、若しくは当該犯罪行為の用に供した私事性的画像記録物(同法第2条第2項に規定する私事性的画像記録物をいう。第10条第1項第1号ロにおいて同じ。)を複写した物

2項 前項の規定による没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って保有するに至ったものであるときは、これを没収することができる

というものです。

立法趣旨

 没収の規定は、刑法19条1項に定めがあり、「犯罪行為によって生じ…た物」(刑法19条1項3号)などは没収できるとさます(没収の詳しい説明は刑罰(6)~没収①の記事参照)。

 ここで、刑法19条1項の没収の規定により、性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪の犯罪行為によって生じた性的姿態影像記録などの原本は、犯罪生成物件(刑法19条1項3号)として没収できますが、

その複写物は、刑法19条1項の没収の規定では没収の対象とならない

とされます。

 そこで、性的姿態撮影等処罰法8条において、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収の規定が設けられ、複写物が没収できるようになりました。

 性的姿態撮影等処罰法8条は、刑法19条1項の補充規定という位置付けにあります。

没収対象物

 性的姿態撮影等処罰法8条の没収対象物は、

  1. 性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪の犯罪行為により生じた物を複写した物(8条1項1号)
  2. 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条1項から3項までの罪(いわゆるリベンジポルノ防止法違反)の犯罪行為を組成し、若しくは当該犯罪行為の用に供した私事性的画像記録が記録されている物(8条1項2号)
  3. ②を複写した物(8条1項2号)
  4. 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条1項から3項までの罪の犯罪行為を組成し、若しくは当該犯罪行為の用に供した私事性的画像記録物を複写した物(8条1項2号)

です。

8条1項1号の「生じた物」「複写した物」とは?

1⃣ 8条1項1号の「生じた物」とは、例えば、

  • 性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪の犯罪行為によって生成された性的姿態影像を記録した記録媒体(スマートフォン、パソコン、USBメモリなど)

が該当します。

 8条1項1号の「複写した物」とは、例えば、

  • 上記記録媒体に記録された性的姿態影像データを別の記録媒体(スマートフォン、パソコン、USBメモリなど)に複写したときに、その複写データを記録した電磁的記録

が該当します。

2⃣ 「複写した物」は、複写物を更に複写した物(二次複写物)も含まれます。

3⃣ 「複写した物」には、性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪の犯罪行為によって生成された性的姿態影像の一部を複写したものも含まれますが、その複写された一部に性的姿態影像が含まれていることを要します。

 性的姿態影像が記録されていない電磁的記録(スマートフォン、パソコン、USBメモリなど)は没収できません。

4⃣ 「生じた物」「複写した物」は、刑法19条1項の「物」と同様、有体物に限られますがが、電磁的記録(スマートフォン、パソコン、USBメモリなど)も、有体物である記録媒体の一部として没収の対象に含まれることとなります。

没収対象物となる性的姿態影像が加工されたものであった場合の没収の可否

 没収対象物となる性的姿態影像がされたものであった場合は、加工によって影像の同一性が失われたか否かによって没収できるか否かが判断されると考えらえています。

 同一性が失われていなければ、加工したものは「犯罪行為により生じた物」に該当するので没収ができると判断されるのに対し、同一性が失われていれば、加工したものは「犯罪行為により生じた物」に該当しないので没収ができないと判断されることになります。

 同一性の判断に当たっては、性的姿態等撮影罪などの2条~6条の罪の保護法益が「自己の性的な姿態を他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」であることを踏まえ、

性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるかどうか

が重視されるとされます。

 加工がされていても同一性が失われないとされる場合として、例えば、

  • 撮影対象者の顔にはモザイク処理がされているが、性器や乳房にはモザイク処理がされていない場合

は、性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるとはいえないので、同一性が認められ、没収ができると考えられています。

 反対に、加工により同一性が失われているとされる場合として、例えば、

  • 撮影対象者の性的部位を他人の性的部位を置き換える加工がされている場合

は、性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるといえるので、同一性が認められず、没収ができないと考えられています。

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反の私事性的画像記録が記録されている物等が没収対象とされている理由(8条1項2号)

 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(略称:リベンジポルノ防止法)は、プライベートな性的画像を、その撮影対象者の同意なく、不特定又は多数の者に提供し、又は公然と陳列する行為を禁止する法律で、被害者個人の性的名誉及び性的プライバシーを保護することを目的として制定されたものです。

 リベンジポルノ防止法の客体は、

  • 無体物である「私事性的画像記録」(例えば、性的画像データ)
  • 有体物である「私事性的画像記録物」(例えば、性的画像データを印刷した紙媒体)

とに分かれている(区別されている)と解されています。

 そのため、例えば、私事性的画像記録である電磁的記録に係る3条1項の罪は、性的画像データの提供行為を処罰するものですが、提供された性的画像データは有体物ではなく無体物であることから、刑法19条1項1号の犯罪組成物件に該当しないため、刑法19条1項1号により没収することができません。

 さらに、行為者(犯人)が、提供する目的をもって、自身のパソコンに記録されていた私事性的画像記録である画像データを自身のスマートフォンにコピーし、そのスマートフォンを使用してその画像データのコピーの提供行為に及んだ場合は、そのスマートフォンについては、刑法19条1項2号の犯罪供用物件に該当し、刑法19条1項2号により没収することができますが、パソコンに記録して残されている画像データについては、犯罪を組成した画像データはこれを複写したものであるため、犯罪行為の用に供したといい得るものの、有体物ではないことから、刑法19条1項2号の犯罪供用物件には該当しないため、刑法19条1項2号により没収することはできず、パソコン自体についても犯罪供用物件として没収することに問題なしとはいえないとされます。

 そこで、上記の

  1. 性的画像データ自体は無体物であるため没収できないこと
  2. 性的画像データの複写物が犯罪に使用された場合に、性的画像データの原本が没収できない可能性があること

の問題を解決するため、性的姿態撮影等処罰法8条の1項2号で、

  • 犯罪行為を組成したりその用に供した「私事性的画像記録」が「記録されている物」を没収対象

とする規定を設け、

  • 提供された性的画像データが記録されている記録媒体(スマートフォンやパソコン自体)

を没収できるようにし、上記①②の問題を解決したものです。

第三者に属する複写物の没収(8条2項)

 性的姿態撮影等処罰法8条の2項は、

  • 前項(※8条1項)の規定による没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って保有するに至ったものであるときは、これを没収することができる。

と規定します。

 8条2項は、没収の対象物たる8条1項の複写物等が、犯人以外の第三者に属する場合でも、その第三者が情を知って保有するに至ったものであるときは、刑法第19条第2項ただし書に該当する場合と同様、没収できるとしたものです。

 没収の対象物たる8条1項の複写物等が、犯人以外の第三者に属する場合とは、例えば、

  1. 犯人が撮影した性的姿態影像を複写したデータをを第三者が取得した場合
  2. 犯人が撮影した性的姿態影像データを記録したUSBメモリを第三者が取得し、そのデータを複写した場合

が挙げられます。

性的姿態撮影等処罰法の記事一覧