刑事訴訟法(公判)

訴因変更①~「訴因変更とは?」「訴因の追加」「訴因の予備的追加」「訴因の択一的追加」を説明

 前回の記事の続きです。

訴因変更とは?

 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条(例えば、窃盗罪であれば、「刑法235条」の記載が罰条となる)の

  • 追加
  • 撤回
  • 変更

を許さなければなりません(刑訴法312条1項)。

 訴因の追加、撤回、変更を総称して、

訴因変更

といいます。

裁判所は訴因に拘束されるため、訴因以外の事実を認定するには訴因変更が必要となる

 裁判所が犯罪事実を判決で認定するに当たり、検察官が起訴状の公訴事実に掲げた訴因に拘束されます。

 言い換えると、裁判所は、検察官が起訴状の公訴事実に掲げた訴因とは異なる事実を認定して判決を言い渡すことができないということです(この点についての説明は前回の記事参照)。

 例えば、検察官が窃盗罪の訴因を掲げて起訴したのに、裁判所が横領罪の事実を認定して判決を言い渡すことはできません。

 このように、裁判所は、検察官が起訴状の公訴事実に掲げた訴因に拘束されることから、公判の審理が進むにつれて、

「起訴状の公訴事実に掲げた訴因」と「公判廷に顕出された証拠により認定される事実」とが合致しない状態が生じた場合

に、検察官が訴因変更請求をし、裁判所がこれを認める必要が生まれます。

 このような場合に、訴因の変更ができないとすると、裁判所は、その訴因に拘束されるから、その訴因については

無罪判決を言い渡す

ことを余儀なくされます。

 そして、無罪判決が確定すると、その既判力は公訴事実の全部に及ぶため、検察官が同一事実について別の訴因で再起訴することはできなくなります。

 そうなれば、被告人を適正に処罰することができなくなり、社会正義が実現できません。

 そこで、法は、「公訴事実の同一性」を害しない限度において、「訴因の変更」ができるものとし(刑訴法312条 、同一の訴訟手続内で審理を進めることができるようにしています

裁判所は訴因に拘束されるため、訴因変更後に、訴因変更前の事実を認定しようとするときは、最初の訴因に戻すための再度の訴因変更を要する

 裁判所は訴因に拘束されるため、訴因変更後に、訴因変更前の事実を認定しようとするときは、最初の訴因に戻すための再度の訴因変更を要します。

 例えば、A訴因がB訴因に変更されると、その後の被告人の防御はB訴因についてなされるので、裁判所がA訴因の事実を認定しようとする場合には、被告人の防御に不利益を生じることになるので、再度A訴因のへ変更手続を要します。

 参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和41年7月26日)

 裁判官は、

  • 一審で当初起訴にかかる業務上横領の訴因につき、被告人防御の機会が与えられていたとしても、既に特別背任の訴因に変更されている以上、爾後における被告人側の防御は専ら同訴因についてなされていたものとみるべきであるから、これを再び業務上横領と認定するためには、更に訴因罰条の変更ないし追加手続をとり、改めて業務上横領の訴因につき防御の機会を与える必要があるといわなければならない

と判示しました。

訴因変更が行われた事件の公訴時効の基準日

 訴因変更した場合、公訴時効の完成の有無は、訴因変更後の訴因について、訴因変更時ではなく、起訴時を基準として判断されます(最高裁決定 昭和29年7月14日)。

訴因の追加とは?

訴因変更には、

  • 訴因の追加
  • 訴因の撤回
  • 訴因の変更

の3種類があります。

 この記事では、「訴因の追加」を説明します。

 訴因の追加とは、

従前の訴因はそのままにしておいて、新たに別個の訴因を付け加えること

をいいます。

 例えば、①住居侵人・窃盗(牽連犯)(例えば、Aの住居に侵入して窃盗をした事案)、②公務執行妨害・傷害 (観念的競合)(例えば、公務執行妨害とある暴行を受けた警察官が傷害を負った事案)のような科刑上一罪の事件について、当初一つの訴因だけで起訴していたものに、新たに他の訴因を付け加えるような場合が該当します。

 ①につき、窃盗の訴因で起訴した後に、住居侵入の訴因を追加する場合が該当します。

 ②につき、公務執行妨害の訴因で起訴した後に、傷害の訴因を追加する場合が該当します。

訴因の予備的追加

 訴因を予備的に追加することもできます(最高裁判決 昭和26年6月28日)。

 例えば、当初、検察官は窃盗罪の訴因で起訴していたが、窃盗罪ではなく、公判の審理状況によっては、遺失物横領罪が成立する可能性があるため、念のため遺失物横領罪の訴因を予備的に追加するような場合が該当します。

 検察官は、裁判所への訴因変更請求により、遺失物横領罪の訴因を予備的に追加することにで、「窃盗罪の訴因」と「遺失物横領罪の訴因」の2つを掲げて公判に臨むことになり、裁判所は、判決で窃盗罪を認定することもできるし、遺失物横領罪を認定することもできる状態となります。

 これを

訴因の予備的追加

といいます。

 また、当初の訴因を

本位的訴因

 追加された訴因を

予備的訴因

といいます。

 裁判所は、予備的訴因について有罪を認定したときは、本位的訴因について判断を示すことは必ずしも必要ではありません(最高裁判決 昭和29年3月23日)。

訴因の択一的追加

 検察官は、訴因を択一的に追加することもできます(刑訴法256条4項)。

 訴因の択一的追加は、証拠上、複数の事実(例えば、A事実とB事実)のいずれかであることは間違いがないが、そのいずれであったかが確定できない場合に行われます。

 例えば、「被告人は、強盗を実行した。」という訴因を「被告人は、単独又はAと共謀の上、強盗を実行した。」という訴因に変更する場合が該当します。

 被告人は、強盗を単独で行ったのか、Aと共謀して行ったのかが択一的に公訴事実に記載されます。

 ここで、裁判所は、判決において「被告人は、単独又はAと共謀の上、強盗を実行した。」と択一的な犯罪事実を認定してよいか問題になります。

 裁判例は、被告人の防御権を実質的に侵害するものではなく犯情が軽いと認められる共同正犯の事実を基礎に量刑が行われる限り被告人に不利益ではないとし、択一的に犯罪事実を認定することを認容しています(東京高裁判決 平成4年10月14日)。

 最高裁も択一的に犯罪事実を認定することを認めています。

最高裁決定(平成14年7月18日)

 「被告人は、単独又はB及びCと共謀の上、被害者に傷害を負わせて死亡させた」という傷害致死罪の訴因について、裁判官は、択一的訴因と解した上、訴因の特定に欠けるところはないとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

  • 訴因の撤回
  • 訴因の変更

を説明します。

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