ストーカー規制法

ストーカー規制法(4)~2条1項1号の「つきまとい、待ち伏せし、立ちふさがり、見張り、押し掛け、うろつき」を説明

 前回の記事の続きです。

2条柱書の「つきまとい等」とは

 ストーカー規制法2条柱書にある「つきまとい等」とは、

特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、2条1項1~8号の行為をすること

をいいます。

 簡潔にいうと、「つきまとい等」は、

  • 恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的で2条1項1~8号の行為をすること

    又は

  • 恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、2条1項1~8号の行為をすること

となります。

2条1項1号の「つきまとい、待ち伏せし、立ちふさがり、見張り、押し掛け、うろつき」とは?

 2条1項1号は、ストーカー行為として、

  • つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと

と規定します。

 2条1項1号の行為内容は、

  1. 被害者・被害者の密接関係者へのつきまとい行為をすること
  2. 被害者・被害者の密接関係者のを待ち伏せをすること
  3. 被害者・被害者の密接関係者の進路に立ちふさがること
  4. 被害者・被害者の密接関係者の住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをすること
  5. 被害者・被害者の密接関係者の住居等に押し掛けること
  6. 被害者・被害者の密接関係者の住居等の付近をみだりにうろつくこと

です。 

①「つきまとい」とは?

 「つきまとい」は、

  • 被害者の後方から追随する行為

が「つきまとい」の典型行為です。

 このほか、

  • 被害者の後を付いていき、被害者の動静を注視しながら付かず離れずの距離を保つ行為
  • 被害者の後を付いていき、スマートフォンで被害者を撮影する行為

も「つきまとい」に該当します。

 この時、犯人が被害者につきまといを行っている自分の存在を気付かれている必要はありません。

②「待ち伏せ」とは?

 「待ち伏せ」とは、

  • 一定の場所で被害者が来るのを待ち構えていること

をいいます。

 「待ち伏せ」は、

  • 被害者が来るのを隠れて待ち構えること
  • 被害者が予想できないような場所や状況で待ち構えること

など、秘密裏に行うことは必要とされません。

③「進路の前に立ちふさがる」とは?

 「進路の前に立ちふさがる」とは、

  • 被害者の前方に立って行く手をふさぎ、被害者の行動の自由を阻害すること

をいいます。

④「見張り」とは?

 「見張り」とは、

  • 一定時間継続的に被害者の行動を監視する行為

をいいます。

 例えば、被害者の住居を注視しながら、

  • 被害者の住居の周辺を周回する
  • 短時間に繰り返して被害者の住居の前を通過する

といった行為が「見張り」に該当します。

 単に被害者の住居の前を1回通り過ぎるだけでは「見張り」と認定するのは困難であるとされます。

 「見張り」に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(平成24年1月18日)

 裁判所は、

  • 本法は、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とするものであり(1条)、そのために、本法所定のつきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせることを禁止していること(3条)に照らすと、本法所定の「見張り」の意義についても、このような本法の目的や規制の趣旨に即して解釈されるべきである
  • 一般に、「見張り」とは、主に視覚等の感覚器官によって対象の動静を観察する行為をいうということができ、したがって、本法所定の「見張り」にも、その性質上ある程度の継続的性質が伴うというべきであり、本法に関する警察庁生活安全局長通達「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(通達)」(平成21年3月30日、丙生企発第31号)も、「『見張り』とは、一定時間継続的に動静を見守ることをいう。」として(同通達第2の1ロア)、「見張り」が継続的性質を有するものであることを明らかにしているところである
  • しかしながら、この継続性は、一般的な「見張り」の概念に内在する性質であって、それに付加して必要とされる要件ではない
  • そして、観察にどの程度の時間を要するかは、観察する目的によって異なり、たとえば、相手方の使用する自動車の有無や被害者の居室の照明等により相手方が在宅しているかどうかを確認するような場合には、ごく短時間の観察で目的が達せられることも十分あり得るところであり、そのような行為を観察時間が短いことのみを理由に「見張り」に当たらないとして本法の規制の対象から除外すべき理由はない
  • また、相手方の動静を観察することは、必ずしも1回に相当程度の時間継続して観察しなくとも、ごく短時間の観察を繰り返すことによっても可能であるから、そのように繰り返して観察する場合には、たとえその一環として行われる個々の観察行為自体は短時間であっても、個々の観察行為それぞれが継続的性質を有する「見張り」に当たるということができる

と判示しました。

⑤「押し掛け」とは?

1⃣ 「押し掛け」とは、

  • 相手方の意思に反して住居等を訪問する行為

であり、

  • 住居等の平穏が害されるような態様で行われる訪問であって社会通念上容認されないもの

をいいます。

 例えば、

  • 被害者が自宅への訪問を拒絶することが予想されるにもかかわらず、被害者宅を訪問する行為
  • 被害者宅へ深夜に訪問する行為

が「押し掛け」に該当し得るとされます。

 なお、「住居等」とは、2条1項1号の説明にあるとおり、

  • 住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所

をいいます。

2⃣ 「押し掛け」時に被害者が住居等に在宅している必要はありません。

 例えば、被害者が仕事のため不在の被害者宅を訪問した場合も押しかけに該当し得ます。

 この点に関する裁判例があります。

東京高裁判決(平成24年1月18日)

 相手方が拒絶し、又は拒絶することが予想されるのに、その居住する集合住宅の相手方方付近通路に立ち入った行為は、相手方に自己の存在を知らせないようなものであっても、ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項1号の「押し掛ける」行為に該当するとした判決です。

 裁判所は、

  • 本法2条1項1号の「押し掛ける」行為について検討すると、前記本法の目的や規制の趣旨に照らすと、「押し掛け」とは、「住居等の平穏が害されるような態様で行われる訪問であって社会通念上容認されないもの」(前記通達第2の1ア)をいい、より具体的には、相手方が拒絶し、又は拒絶することが予想されるのに、相手方の住居等に行く行為をいうものと解されるところ、被告人が立ち入ったのは被害者の居住する集合住宅の3階の同女方付近通路であり、同所が被害者の住居そのものではないにしても、被害者の「通常所在する場所」(本法2条1項1号)に当たることは明らかであるから、被害者の意に反して上記場所に立ち入った被告人の行為が「押し掛ける」行為に該当することは明らかである
  • 所論(※弁護人の主張)は、「押し掛け」等本法2条1項1号所定の行為は、いずれも相手方に直接的な迷惑を及ぼす行為であって、当然に相手方がこれを知ることが含意されているとし、これを前提とすると、前記のとおり、「押し掛ける」行為とは、「相手方が予期、承諾していないのに、人の家に行き突然面会を求め、あるいは面会を求めなくても威力を用いて相手方に自己の存在を知らしめる行為」をいうと解すべきであり、相手方に自己の存在を知らせないような被告人の行為は、「押し掛け」に該当しないと主張する
  • しかしながら、「押し掛ける」行為を現に面会を求め、又は威力を用いてする場合に限定すべき理由はなく、また、所論は、行為の時点で相手方に自己の存在を知らせる態様のものであることが必要であるとの趣旨のようであるが、「押し掛ける」行為については、住居等に相手方が現に存在する必要があるとは解されないから、当該行為の時点で相手方がこれを知ることが含意されているとはいえず、所論は採用できない
  • 被告人は、被害者に被告人がその場に滞在していることを知られることのないように行動していたから、本法2条2項に規定する方法により行われた場合に該当しないと主張するが、同条1項1号ないし4号の行為は、直接相手方に向けられるとは限らないものであっても、当該行為が相手方の日常の生活圏で行われるものであることから、相手方においてこれを認識する機会が十分にあるとともに、そのため相手方に上記不安を覚えさせることになると考えられるものであって、前記本法の目的及び趣旨に鑑みれば、同項所定の方法に当たるかどうかは、当該行為の時点で相手方がそれを認識していたかどうかを問わず、相手方が当該行為を認識した場合に相手方に上記不安を覚えさせるようなものかどうかという観点から判断すべきものと解される(前記通達第2の2(2)参照)

と判示しました。

⑥「みだりにうろつく」とは?

1⃣ 「みだりにうろつく」の「うろつく」とは、

をいいます。

 「みだりにうろつく」の「みだりに」とは、

  • 「正当な理由なく」という意味よりもやや広く、行為の態様を示す意味も含んでおり、社会的相当性がないような態様によること

を意味します。

 「みだりにうろつく」とは、例えば、

  • 通勤に際して、通勤経路でもないのにわざわざ被害者宅を周回・通過する行為
  • 被害者が出勤や帰宅する時間帯に被害者宅付近を行ったり来たりする行為

が「みだりにうろつく」に該当し得ます。

2⃣ 「みだりにうろつく」を認定するに当たり、被害者が犯人がうろついているところを目視する必要はありません。

④「見張り」、⑤「押し掛け」、⑥「みだりにうろつく」行為を行う場所となる『現に所在する場所』『通常所在する場所』『住居等の付近』とは?

 2条1項1号は、

  • つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと

と規定します。

『現に所在する場所』とは?

 ④「見張り」⑤「押し掛け」⑥「みだりにうろつく」行為を行う場所である「現に所在する場所」とは、

  • 被害者が実際に所在する場所

をいいます。

 例えば、

  • 被害者が日常の買い物で訪れるスーパーの店舗
  • キッチンカーの移動販売の売り子をする被害者が販売場所としているイベント会場

が「(被害者が)現に所在する場所」に該当し得ます。

『通常所在する場所』とは?

 『通常所在する場所』とは、

  • 被害者が所在することが通常予想されている場所

をいいます。

 例えば、

  • 被害者の住居
  • 被害者が通う勤務先、学校
  • 被害者の通勤経路となっている駅
  • 被害者が毎日利用するコンビニ

が『(被害者が)通常所在する場所』該当し得ます。

『住居等の付近』とは?

 2条1項1号の説明にあるとおり、『住居等』とは、

  • 住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所

をいいます。

 そして、『住居等の付近』とは

  • 「住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所」から目視できる程度の距離

を意味するとされます。

④「見張り」と⑥「みだりにうろつく」の違い

 「見張り」は、

  • 一定時間継続的に被害者の行動を監視すること

を要しますが、「みだりにうろつく」行為は、

  • 被害者の行動を監視を要しない

点に違いがあります。

各行為の場所的制限の違い

 ①「つきまとい」、②「待ち伏せ」、③「進路の前に立ちふさがる」は場所的制限はありません。

 ⑤「押し掛け」は、場所が

  • 住居等(住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所)

であることが必要となります。

 ④「見張り」、⑥「みだりにうろつく」は、場所が

  • 住居等の付近(住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所の付近)

であることが必要となります。

軽犯罪法違反との違い

 ①「つきまとい」、③「進路の前に立ちふさがる」行為は、軽犯罪法1条28号でも処罰の対象とされています。

 軽犯罪法1条28号は、

  • 他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者

をを拘留又は科料に処すると規定します。

 ストーカー規制法違反の「つきまとい」、「進路の前に立ちふさがる」行為は、

  • 同一の者に対して反復して行われることが犯罪の成立に必要である点

において、軽犯罪法1条28号の「つきまとい」、「進路の前に立ちふさがる」行為と異なります。

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