大型の財物について、窃盗罪が既遂に達する判断基準を示した判例
前回の記事の続きです。
前回説明した小型の財物については、
犯人が財物を自己のポケットやカバンの中に入れたりすることによって、容易に実力支配をすることができるので、その時点で既遂となる
という説明をしました。
小型の財物に対し、やや大型の財物については、
荷造り、移動、搬出
などによって既遂が認められているものがあります。
この点について以下の判例があります。
屋内での荷造りによって窃盗の既遂が認められた判例
東京高裁判例(昭和30年7月4日)
夜間のパチンコ店に入り、閉店後、店員が立ち去るのを待って、パチンコ機械裏側の玉入ケースからパチンコ玉500個入の木箱4個を取り外し、これを2個ずつありあわせのてぬぐいに包んで2包とし、いつでも持ち出せるようにして機械の間の通路に置いた場合、窃盗は既遂となる。
搬出の機会をうかがっているうちに、発見・逮捕されても既遂とする。
東京高裁判例(昭和29年2月17日)
パチンコ店の玉売場において、たばこ630個とタオル10本を、カーテンを利用して2個の包みに荷造りした場合、窃盗は既遂に達する。
うち1包は店内から搬出しなかったが、これについても既遂とする。
東京高裁判例(昭和27年12月11日)
他人の家のタンスなどから衣類を取り出し、これを用意して持参した南京袋に詰めて、ひもを掛け、勝手口まで運んだ場合、窃盗は既遂に達する。
広島高裁判例(昭和29年7月14日)
人が不在の店舗で、店内の商品を手当たり次第に風呂敷に包み、この風呂敷包をたずさえて、出入り口まで出てきた場合、窃盗は既遂に達する。
屋内や構内での移動によって窃盗の既遂が認められた判例
福岡高裁宮崎支判判例(昭和30年3月11日)
他人の家で物色した品物のうち窃取すべき物数点を選び出し、そのまま持って行けるように、その家の入り口に置いた場合、窃盗は既遂に達する。
広島高裁松江支部判例(昭和26年5月7日)
倉庫内に入って、倉庫内の仕切りを破って、向かい側の倉庫から最初入った倉庫の入口内側まで銅線を運んだ場合、窃盗は既遂に達する。
福岡高裁判例(昭和28年10月31日)
倉庫の中の多数の物件を選別し、搬出のため、倉庫の出入口まで移動した場合、窃盗は既遂に達する。
東京高裁判例(昭和27年10月9日)
工場と倉庫とに区分されている1棟の建物のうち、倉庫部分から、銅線20kgを持ち出し、工場部分の窓付近まで約20間移動した場合、窃盗は既遂に達する。
仙台高裁秋田支部判例(昭和28年3月3日)
工場内において、積み重ねてあった銅線から4束を取り出し、約2m運び、付近にあった台の上に載せたが、この台の上には持参した縄を伸ばしておき、その上に銅線束を載せていたものであって、いつでも結束運搬できるようにしていた場合、窃盗は既遂である。
倉庫から、軍用シャツ5梱包を取り出し、その場に駐車させていたトラックの上の廃品の山をかきわけて積み込み、その上方より更に廃品を被せて隠匿し、その間、共犯者がトラックの運転席にいた場合、窃盗は既遂である。
構外まで物件を搬出していない場合でも、他人の占有するものを他人の意思に反して自己の支配内に移したものと認めるのを相当とするから、窃盗は既遂に当たる。
東京高裁判例(判昭29年7月29日)
米軍基地内の中央物資集積所にあったフィルム9箱を、クレーンでトレーラに積み込ませ、そのトレーラを基地内の屋外物資集積所まで移動した場合、窃盗は既遂に達する。
東京高裁判例(昭和61年2月26日)
鉄線垣で囲まれた機関区構内の廃品置場に野積みされたピストンを、柵外の道路の方から容易に取り出せる場所(柵内の柵下)まで移動した場合、窃盗は既遂に達する。
東京高裁判例(昭和63年4月21日)
門扉もなく、道路からの出入りが自由な屋外駐車場に、深夜、侵入し、駐車車両からタイヤ4本を取り外し、うち2本を抱きかかえるようにして出入り口の方へ戻りかけたところを発見誰何され、タイヤを放置して逃走した場合、窃盗は既遂である。
逆に、屋内や構内での移動では窃盗の既遂が認められなった判例
工場構内で目的物件を屋外に搬出しようとした場合に、構内には自由に出入りができない構造設備となっているときは、構外に搬出しない限り、窃盗は未遂にとどまり、既遂にはなりません。
これの点については、以下の判例で明らかにされています。
目的物件を小屋外へ取出しても、構内は一般に人の自由に出入することができず、更に門扉、障壁、守衛等の設備があって、その障害を排除しなければ構外に搬出することができないような場合には、その目的物件をその障害を排除して構外に搬出するか、あるいは少なくともそれに覆いをかぶせ、隠匿する等、適宜の方法によりその所持を確保しない以上、未だその占有者の事実上の支配を排除して、自己の支配内に納めたものとはいえない。
よって、たとえ、その目的物件を小屋から構内を相当距離運搬したとしても、窃盗の既遂とはならない。
構内全体には完全な管理者の支配が及んでいるからである。
屋内から屋外に財物を搬出した場合に窃盗の既遂が認められた判例
屋内や構内にある財物を、屋外や構外に搬出した場合は、比較的容易に窃盗の既遂が認められます。
この点について、以下の判例があります。
名古屋高裁判例(昭和25年3月1日)
眼科医院の玄関先に置いてあった自転車を3 , 4間ひいて表本通りまで搬出した場合、窃盗は既遂となる。
途中で追跡を受け、放置して逃げても既遂となる。
東京高裁判例(昭和26年10月15日)
他家の玄関から自転車を持ち出し、路上に出た場合、窃盗は既遂となる。
そこで発見され、自転車を放置して逃走しても既遂となる。
仙台高裁判例(昭和28年11月30日)
店舗前の雪囲の中から、錠のかかったままの自転車を約1間半持ち出して路上に至った場合、窃盗は既遂のとなる。
車庫の中から木炭6俵をかつぎ出し、柵外に持ち出した場合、窃盗は既遂となる。
名古屋高裁金沢支部判例(昭和31年3月29日)
納屋から木炭2俵を持ち出し、表道路まで運搬しようとして、2歩ほど歩行した場合、窃盗は既遂となる。
倉庫から木炭2俵を持ち出し、これを倉庫の前に置き、倉庫の扉を元通り閉めようとした場合、窃盗は既遂となる,
東京高裁判例(昭和31年5月10日)
物置の中にあった玄米を、持参した南京袋に入れて物置の外に運び、物置の横に積み上げてあったわらしぶの中に隠した場合、窃盗は既遂となる。