前回の記事の続きです。
信用毀損罪は、人の信用を毀損する行為があればよく、結果発生は必要ない(抽象的危険犯)
信用毀損罪(刑法233条前段)の行為は、
「虚偽の風説を流布し」あるいは「偽計を用いて」という手段によって、人の信用を毀損する
ことです。
信用毀損罪(刑法233条前段)の成立には、人の信用を毀損する行為(虚偽事項の流布)があればよく、人の信用を毀損する結果発生は必要ないが、人の信用を毀損する行為を不特定又は多数人が認識・了知し得る状態に達することが必要です。
信用毀損罪の成立には、人の信用を毀損する行為があればよく、人の信用を毀損する結果発生は必要ないことから、信用毀損罪は、人の信用毀損の具体的な結果の発生を必要とする「具体的危険犯」ではなく、
人の信用毀損の具体的な結果の発生を必要としない「抽象的危険犯」である
と解されます。
この点につき、判例は、
- 「人の信用を害するおそれある虚偽の風説を流布するを必要とするも、現実に信用毀損の結果を生じたるを必要とせず」(大審院判決 大正2年1月27日)
- 「人の経済的方面における価値を減少せしむるのおそれあるにおいては、その人の信用を毀損したるものといわざるべからず」(大審院判決 明治44年4月13日)
- 「虚偽の風説を流布せしめたる結果は、当然他人の信用を毀損し、若しくは業務を妨害する」(大審院判決 大正5年12月18日)
- 「人の信用を毀損し云云とは、人の社会における財産上の信用を害するのいうにして信用毀損の程度範囲如何は犯罪の成否に影響なし」(大審院判決 明治44年2月9日)
と判示し、一貫して人の信用低下の結果発生を要しないとしています。
流布された虚偽事項は、不特定又は多数人が認識、了知し得る状態に達することが必要である
信用毀損罪が成立するためには、人の信用を毀損する行為虚偽事項の流布があればよく、人の信用を毀損する具体的な結果は必要ないものの、
人の信用を毀損する行為(虚偽事項の流布)が、不特定又は多数人が認識・了知し得る状態に達すること
が必要と解されます。
例えば、信用毀損の手段として一旦文書を発送したが、配達前に取り戻した場合には、人の信用を害する危険は未だ抽象的にも生じておらず、信用毀損罪は成立しないと考えられます。
したがって、信用毀損罪が成立するためには、
不特定又は多数人が流布された虚偽事項を認識、了知することまでは要しないが、不特定又は多数人が認識、了知し得る状態に達することが必要である
と解するのが相当とされます。