刑法(信用毀損罪)

信用毀損罪(5) ~「信用毀損罪の罪数」を説明~

 前回の記事の続きです。

信用毀損罪の罪数

 信用毀損罪(刑法233条前段)の保護法益は「人の信用」であり、被害者一人一人が保護されるべきです。

 なので、信用毀損罪は被害者1人ごとに成立します。

 信用毀損行為を1名の被害者に行えば、1個の信用毀損罪が成立します。

 信用毀損行為を被害者Aに行い、さらに別の信用毀損行為を被害者Bに行えば、2個の信用毀損罪が成立します。

 ただし、1個の信用毀損行為で複数人の被害者の信用を毀損した場合は、観念的競合となり、1個の信用毀損罪が成立します。

 虚偽の風説を繰り返し流布して同一人の信用を毀損するケースについては、単純一罪とみるべき場合と、信用が反履して毀損されたとして包括一罪あるいは併合罪とみるべき場合があり得えます。

 この点、参考となる以下の判例があります。

大審院判決(明治45年6月27日)

 1名誉殿損罪に関し、新聞紙上に同一人の名誉を殿損する記事を連載して発行した事案につき包括一罪としました。

 裁判所は、

  • 毎日発行する新聞紙上に包括的に一人の名誉を毀損すべき1個若しくは数個の事実を掲載し、これを発行したるときは、1個の名誉毀損罪成立するものにして、掲載日数の多少は犯罪の構成に何ら消長を来すことなし

と判示しました。

 虚偽風説の流布と偽計使用の両手段によって同一人の信用を毀損した場合については、信用毀損罪の単純一罪と解する説と、包括一罪と解する説とがあります。

 通常の場合は単純一罪と解されます。

 ただし、その両手段により信用が反覆して毀損されたと認められる場合は包括一罪となると解されます。

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