刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(7) ~事後強盗罪が成立するためには、暴行・脅迫が窃盗の機会の継続中に行われる必要がある③「現場滞留型のケース」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

 今回の記事では、窃盗と暴行・脅迫の関連性の3類型のうち、③の「窃盗の犯行現場に犯人がとどまる場合(現場滞留型)」について説明します。

【3類型】

  1. 窃盗犯人が窃盗の現場から継続して追跡されている場合(逃走追跡型)
  2. 窃盗の犯行現場に犯人が舞い戻った場合(現場回帰型)
  3. 窃盗の犯行現場に犯人がとどまる場合(現場滞留型)

③ 現場滞留型のケースの説明

 窃盗犯人が、犯行現場にとどまっていたところ、人に発見され、逮捕を免れるなどの目的で、その者に暴行を振るった場合の事後強盗罪の成否については、判例を追って理解することになります。

暴行・脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたとして、事後強盗罪の成立が認められた判例

最高裁決定(平成14年2月14日)

 この判例の事案は、被告人が被害者宅で指輪を窃取した後も、犯行現場の真上の天井裏に潜んでいたところ、犯行の約1時間後に帰宅した被害者から、窃盗の被害に遭ったこと及びその犯人が天井裏に潜んでいることを察知され、犯行の約3時間後に被害者の通報により駆け付けた警察官に発見されたことから、逮捕を免れるため、持っていたナイフで警察官の顔面などを切り付けて傷害を負わせたというものです。

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、上記窃盗の犯行後も、犯行現場の直近の場所にとどまり、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたのであるから、上記暴行は、窃盗の機会の継続中に行われたものというべきである

と判示し、窃盗の機会継続性を肯定し、事後強盗罪の成立を前提に強盗致傷罪(刑法240条)の成立を認めました。

 なお、この最高裁判例の原審である仙台高裁判決(平成12年2月22日)において、裁判官は、

  • 被告人が本件窃盗の犯行を終えてから暴行・脅迫を加えるまでに約3時間経過してはいるが、その間、単に飲食や睡眠をとっていたのではなく、再度窃盗の犯行に出られるような用意をしており、被告人は、窃盗の犯意を継続しながら窃盗の現場にとどまっていたのであって、窃盗の機会継続性が失われるものではない

と判示し、被告人に窃盗の犯意の継続があることが、窃盗の機会継続性判断の積極的事情に当たるとしました。

千葉地検木更津支部判決(昭和53年3月16日)

 一緒に酒を飲んだ被害者が寝入ったので財物を窃取し、その後間もなく、罪証隠滅するため被害者を殺害しようと考え、被害者を別の部屋に移し、台所に包丁を取りに行こうとしたところ、友人らの来訪を受けたため、これらの者が帰るまで待ち、約11時間後になって被害者を殺害した事案について、事後強盗罪の成立を前提に強盗殺人罪(刑法240条)の成立を認めました。

まとめ

 事後強盗罪(刑法238条)が成立するためには、

  • 窃盗と暴行・脅迫との間に密接な関連性があること
  • 暴行・脅迫が窃盗の機会の継続中に行われたものであること

が必要になることを最初の記事で説明した上、複数の判例を紹介してきました。

 これまでの判例の流れを総合すると、窃盗と暴行・脅迫の関連性が認められ、事後強盗罪の成立が認められるか否かは、

窃盗の実行行為後、窃盗犯人による暴行・脅迫までの間、時間的・場所的・人的関係を勘案し、被害者側からの追及可能性が認められる状況が継続していたか否か

によって判断されるといえます。

 逆にいうと、犯人が窃盗の実行行為後、暴行・脅迫を行うまでの間に、被害者側からの追及から脱したと認められる事実がある場合には、事後強盗罪は成立しないと考えられます。

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