刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(4) ~「事後強盗罪における暴行・脅迫が、相手の反抗を抑圧するに足るか否かは、客観的な基準で判断される」「事後強盗罪の暴行・脅迫に着手すれば、目的を遂げたか否か、相手の反抗を抑圧したか否かにかかわらず、事後強盗罪が成立する」を判例で解説~

 前回記事の続きです。

事後強盗罪における暴行・脅迫が、相手の反抗を抑圧するに足るか否かは、客観的な基準で判断される

 事後強盗罪(刑法238条)における暴行・脅迫は、

相手の反抗を抑圧するに足るもの

でなければなりません(前の記事参照)。

 そして、事後強盗罪における暴行・脅迫が、相手の反抗を抑圧するに足るものであったかどうかの認定は、客観的な基準で判断されます。

東京高裁判決(昭和36年6月6日)

 この判例で裁判官は、

  • 刑法第238条の暴行は、同法第236条の暴行と同様、相手方の反抗を抑圧するに足るべきものでなければならない
  • そのことを更に詳言すれば、社会通念上、一般に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるかどうかという客観的基準によって決すべきであって、具体的事案において現実に相手方が反抗を抑圧されたかどうかによつて決せられるものでないことはいうまでもない(昭和24年2月8日最高裁判所第二小法廷判決参照)
  • 被告人は、被害者Eに対し、腹部を足蹴にし、あるいは手拳で顔面を殴打する等の暴行を加えたことを認めるに十分であり、しかもEに対し、全治2週間を要した左顔面打撲傷、左側鼓膜炎の傷害を負わせたことも明らかであるから、右殴打の程度も極めて著しいことが認められ、右程度の暴行は社会通念上一般に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることについては何らの疑点もない

と判示しました。

事後強盗罪の暴行・脅迫に着手すれば、目的を遂げたか否か、相手の反抗を抑圧したか否かにかかわらず、事後強盗罪が成立する

 窃盗犯人が、刑法238条所定の目的(①窃取した財物を取り返されることを防ぐ、②逮捕を免れる、③罪証を隠滅する)を持って、反抗を抑圧するに足る程度の暴行又は脅迫に着手すれば、

  • その目的を遂げたかどうか
  • 暴行・脅迫が現に相手の反抗を抑圧したかどうか

に関係なく、事後強盗罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和7年6月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗犯人、被害者よりその現行を発見誰何せられたるより、その逮捕を免れる目的をもって、所携(しょけい)の菜切包丁を相手方に向け、投げつけたる行為は、刑法第238条にいわゆる脅迫に該当する
  • 窃盗犯人、財物を得て、その取還(しゅかん)を防ぐか又は逮捕を免れる目的の下に、暴行又は脅迫を為したる時は、犯人が現実逮捕を免れたると否とを問わず、刑法第238条既遂罪を構成す

と判示し、暴行・脅迫に着手した時点で、犯人が逮捕を免れたかにどうかにかかわらず、事後強盗罪の既遂が成立するとしました。

広島高裁判決(昭和26年1月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第238条にいう暴行脅迫とは、相手方の反抗を抑圧する程度のものであることを要する
  • その程度は、反抗を抑圧する手段として、一般的客観的に可能と認められる程度のものであれば足り、いかなる場合にも現実的に反抗を抑圧し得るものであること、又は現実的に反抗を抑圧したか否かは必要ではない
  • 而して、被告人が逮捕を免れるため、Tの顔面を手挙で数回殴打し、よって治療約10日間を要する左上下門歯左上大歯が可動性となる程の口唇打撲傷を負わしめたことを認めることができ、その如き程度の暴行は、一般的観察上、Tの逮捕行為の遂行を抑圧する手段として功を奏する可能性があるものといはなければならぬ
  • 従って、原審が、これに対し、刑法第238条を適用し、同法第240条前段をもって問擬したのは相当である

と判示し、事後強盗罪の成立を認めるにあたり、暴行・脅迫は、一般的・客観的に相手の反抗を抑圧するものであればよく、現に相手の反抗を抑圧したかどうかは関係ないと明示しました。

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