刑法(準強制性交等罪・準強制わいせつ罪)

準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(1) ~「準強制わいせつ罪・準強制性交等罪とは?」「心神喪失・抗拒不能とは?」を判例で解説~

 これから数回にわたり準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(刑法178条)について解説します。

準強制性交等罪、準強制わいせつ罪とは?

 準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(刑法178条)は、

人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じて、強制性交等罪(刑法177条)と強制わいせつ罪(刑法176条)を犯したときに成立する犯罪

です。

 13歳未満の者の心神喪失又は抗拒不能に乗じて、強制性交等罪と強制わいせつ罪を犯した場合も準強制性交等罪、準強制わいせつ罪が成立します。

 強制性交等罪と強制わいせつ罪は、暴行・脅迫を用いて、強制性交・強制わいせつ行為を行うことで成立します。

 これに対し、準強制性交等罪、準強制わいせつ罪は、暴行・脅迫を用いず、睡眠薬を飲ませるなどして、被害者が心神喪失若しくは抗拒不能の状態になったことを利用して、強制性交・強制わいせつ行為を行うことで成立します。

暴行・脅迫と心神喪失・抗拒不能に乗じることが競合する場合

 暴行・脅迫と心神喪失・抗拒不能に乗じることが競合する場合も考えられますが、暴行・脅迫によって強制性交・強制わいせつをしたと認められる限りは、強制性交等罪と強制わいせつ罪が成立します。

 なお、たとえ暴行・脅迫があっても、それが強制性交・強制わいせつの手段と認められないような場合には、準強制性交等罪、準強制わいせつ罪が成立することになります。

 この点を判示したの以下の判例です。

大審院判決(大正13年11月7日)

 裁判官は、

  • 抗拒不能に乗じ、姦淫するにより偶然暴行を加えることあるも、単に姦淫の不随行為にして、その手段となりたるものにあらざるときは、刑法第178条に問擬(もんぎ)して処断すべきものとす

と判示しました。

心神喪失・抗拒不能とは?

 準強制性交等罪、準強制わいせつ罪における心神喪失、抗拒不能の定義は以下のとおりです。

 心神喪失とは、

精神の障害により正常な判断力を失っている状態

をいいます。

 抗拒不能とは、

心神喪失以外の事由で心理的又は物理的に抵抗が不可能ないし著しく困難な状態

をいいます。

心神喪失の例

 心神喪失の例としては、

  • 熟睡
  • 泥酔
  • 高度の精神病
  • 知的障害

などがあげられます。

 知的障害者を強制性交した事案につき、準強制性交等罪を認定した以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和41年8月31日)

 裁判官は、

  • 被害者Aは、本件当時まだ満14才8か月であり、当時B中学校の特殊学級に在学中であったこと、Aの鈴木ビネー式(個人)による知能指数は52、精神年齢は6年10月、生活年齢は13年3月であること、Aは常に不安定な精神状態で、行動に統一性がなく、判断力もなく、衝動的で、生活にしまりがなく、自主性をかき、他人にだまされやすい性格であること、Aの初 潮は昭和40年4月頃で、性本能は発達していてもまだ正常な性知識をもたず、性的差恥心もなかったこと、当時Aは家の者を嫌っていて、同年2月頃から本件に至るまで何回も被告人と会っており、被告人になついていたこと、被告人はAの言動から頭のおかしいことを知っていたことが認められる
  • 以上を総合すると、Aは当時正常な判断力を有せず、特に外部からの影響を被りやすい強度の精神薄弱(痴愚)の状態にあったものというべきである
  • Aが本件姦淫について、通常の社会生活上信頼され得る同意を与えたとは到底認められないのであって、被告人もそのことを当然知っていたと認められる
  • そうすると、被告人が右認定のような精神状態にあるAを姦淫した本件所為は、まさに刑法第178条にいう人の心神喪失に乗じて姦淫したものと解するのが相当である

と判示し、知的障害者を強制性交した行為について、準強制性交等罪の成立を認めました。

抗拒不能の例

 心神喪失と抗拒不能の区別は必ずしも明確ではありません。

 精神の障害など事由により抵抗することが著しく困難な状態が、主として、精神障害や知的障害に起因する場合は、心神喪失に当たると解されており、この点については、はっきりしています。

 そうような場合でなければ、抗拒不能の認定も視野に入れて考えることになりそうです。

 もっとも、心神喪失と抗拒不能を厳格に区別して論ずる実益は乏しいとされます。

 抗拒不能による準強制性交等罪を認定した事例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正13年11月7日)

 睡眠中の女子の陰部に指を挿入した行為について、睡眠中の女子は抗拒不能の状態であるとして、準強制性交等罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 睡眠中にして抵抗不能なるに乗じ、姦淫せんと欲し、A女の陰部に指を挿入した

として、準強制性交等罪が成立するとしました。

広島地裁判決(昭和39年2月27日)

 精神年齢5~7歳くらいの精神薄弱者を姦淫した事案ついて、精神薄弱者ゆえに抗拒不能の状態であったと認定し、準強制性交等罪の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、幼児と遊んでいた精神薄弱者(痴愚級・精神年齢5-7歳くらい)のA子を認め、A子と散歩したうえ首尾よく誘惑できたら姦淫しようと企て、A子を連れて散歩しているうち、A子が知能程度が極めて低く、性的にも無知で姦淫されてもほとんど何のことかわからない状態にあることを認識するや、これを奇貨としてA子を姦淫しようと決意し、A子を墓所に連れ込み、その付近の地面に仰向けに寝かせたうえA子を姦淫し、もって人の抗拒不能に乗じて姦淫したものである

と判示し、精神年齢5~7歳くらいの精神薄弱者に対し、抗拒不能を認定し、準強制性交等罪が成立するとしました。

心神喪失・抗拒不能の程度

 心神喪失・抗拒不能の認定にあたり、被害者につき、

  1. 反抗不能の状態にまで至っていることを要するか
  2. 反抗が著しく困難な状態で足りるか

について説が分かれています。

① 反抗不能の状態をいうとした判例

 反抗不能の状態をいうとするものとして、以下の判例があります。

名古屋高裁判決(昭和28年10月7日)

 裁判官は、

  • 刑法第178条にいわゆる抗拒不能とは、身体上も全く反抗不能の状態にあるをいうものであるから、未だこのような状態に至っていない精神的な気力喪失の状態にあるに過ぎない婦女を強いて姦淫した場合は、明らかに刑法第177条前段に該当するものというべきである

と判示しました。

② 反抗が著しく困難な状態をいうとした判例

 反抗が著しく困難な状態をいうとするものとして、以下の判例があります。

仙台高裁判決(昭和32年4月18日)

 裁判官は、

  • 刑法178条にいわゆる抗拒不能とは、心身喪失以外の意味において、心理的若しくは物理的に抵抗することの至難な状態をいうものと解されるから、深夜暗い部屋に寝ている女が夢うつつの中のおぼろな意識のうちで同室に寝ていた夫若しくは情夫に情交をいどまれたものと誤信したためこれに応じたのに乗じて姦淫するのは、婦女の抗拒不能に乗じて姦淫する場合にあたるものといわなければならない
  • 従って、被告人が前説示のように被害女性を姦淫した行為が、右法条の定める強姦の罪を構成することは、疑がない
  • されば、原判決が、被告人が被害女性の抗拒不能の状態にあるのに乗じて同女を姦淫した旨判示し、強姦の罪の成立を認めたのは、そのかぎりでは正当であるが、抗拒不能の態様を熟睡と認めたのは、事実の認定としては正確を失するものといわなければならない

と判示しました。

岡山地裁判決(昭和43年5月6日)

 裁判官は、

  • 刑法178条「抗拒不能」には、抵抗が不可能もしくは著しく困難なことが身体をしばられている場合の如く、物理的な場合のみならず、医師が自己を信頼し切っている性知識の全くない患者に病気の治療行為と誤信させて姦淫する場合のように心理的な場合も含まれると解すべきではあるが、さりとて虚言詐術によつて婦女を欺罔し、錯誤に陥し入れ、姦淫を忍受させた場合、つねに抗拒不能に乗じ又は抗拒不能ならしめて姦淫したということはできない
  • 欺罔による姦淫が、抗拒不能に乗じての姦淫として準強姦罪が成立するのは、欺罔の内容、手段、方法が行為者被害者の年齢、身分、行為の日時場所との関係において、婦女をして高度に困惑、驚愕、狼狽の念を起させ、自由なる意思のもとに行動する精神的余裕を喪失させ、行為者の姦淫行為を拒否することが不能又は著しく困難であると客観的に認められる場合であって、行為者が婦女において右状態に陥っていることを知りながら、敢えて姦淫した場合に限定せられると解するのが相当である

と判示しました。

東京高裁判決(昭和56年1月27日)

  • 刑法178条にいわゆる「抗拒不能」とは、心神喪失以外の意味において、社会一般の常識に照らし、当該具体的事情の下で、身体的または心理的に反抗の不能または著しく困難と認められる状態をいい、暴行及び脅迫による場合を除きその発生原因を問わない
  • 相当額の入会金を支払って所属契約を結び、モデルとして売り出してもらうことを志望していた被害者らについて、その希望を実現させることのできる当該プロダクションの実質的経営者の地位にあったという被告人と被害者らとの地位関係、被害者らの若い年齢や社会経験の程度、被告人の言うことを信じそれに応じなければモデルとして売り出してもらえないと考えた被害者らの誤信状況などを総合すれば、社会一般の常識に照らし、被告人の全裸になって写真撮影されることもモデルになるため必要である旨の発言等は被害者らをそのように誤信させ、少くとも心理的に反抗を著しく困難な状態、換言すれば、前示抗拒不能に陥らせるに十分であり、その結果、被害者らはその状態に陥って全裸になったものである
  • また、被害者らが全裸になって、被告人と二人きりで密室内にいる状態が抗拒不能の状態と解すべきことも重ねていうまでもないところである

と判示し、準強制わいせつ罪の成立を認めました。

 なお、学説では、準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の本質が、被害者の意思を無視し、その性的自由を侵害するところにあることを重視し、強制わいせつ罪・強制性交等罪と同様に、心神喪失・抗拒不能の認定には、抵抗することが不可能な状態まで要求されず、反抗が著しく困難な状態であればよいと解すべきと考えられています。

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