刑法(強制性交等罪)

強制性交等罪(3) ~共犯②「共謀関係の消滅」「強制性交以外の目的で自ら又は共犯者の行った暴行・脅迫の結果を利用した場合にも、強制性交等罪が成立する」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

共謀関係の消滅(共犯からの離脱)

 強制性交の共謀をした者は、自分が強制性交を断念しても、共犯者をも翻意させて強制性交を中止させなければ、共謀関係は消減しません(高松高裁判決 昭和41年6月14日)。

 なお、共犯からの離脱の考え方については前の記事参照。

 強制性交罪の共謀関係の消滅を認めた事例として、以下の判例があります。

大阪高裁判決(昭和41年6月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人Cは、中学の同級生でかねて顔見知りのDを強姦しようと企て、Iに命じて同女をJ山に連れ出した上、GやIを通じてH喫茶店から被告人Aを呼び寄せ、同被告人及びGと共に、同女をタクシーに乗せてO地下グリルまで連れ出したが、同店内で被告人Cは、右Dに気付かれなようにひそかに、被告人A、Gに同女を旅館に連れ込んで強姦しようとその意中を打ち明け、被告人Aらもこれに賛成し、更に被告人CはNに連絡して自動車を持ってこさせ、同人も右犯行に加わることを承知したので、ここに被告人C、同A、G及びNの4名は、付近の旅館で同女を強姦することを共謀の上、被告人CがNの運転する自動車に同女を乗せて旅館に入り、被告人A、Gが後から続いて旅館に入るという手はずのもとに、同被告人らは付近のP旅館に行つたが、休業を理由に入室を断わられたため、犯行の場所をQ旅館に変えることとし、先の手はずどおり、被告人CがNの運転する自動軍に同女を乗せて右Q 旅館に連れ込み、続いて被告人A、GもNが折り返し迎えに来た自動車に乗り同旅館に着き、同旅館の主人Lに対し、被告人Cの入った客室に案内せよと求めたところ、同女から断わられて押問答をしているうち、この騒ぎを聞いて被告人Cも客室から出て来たので、被告人A、G及びNは被告人Cを交えて相談した結果、被告人Aら3名は本件強姦の実行を断念して引き返すことになり、被告人Cもこれを了承したため、被告人AはG、Nと共に同旅館から退去し、被告人Cだけがなおも旅館にとどまり、単独でDに対する強姦を遂げたことが認められる
  • 以上認定のように、被告人Aが一旦は被告人Cらと強姦の共謀を遂げたとはいえ、 G、Nと共に、右犯行の着手前右共謀に基づく犯罪の実行を断念する意思を表明し、共謀者被告人Cもこれを了承したことにより、一旦成立した共謀関係は犯行の着手前にすでに消滅したと解するのが相当であるから、その後における被告人Cの強姦行為について、被告人Aが共謀共同正犯としての刑責を負うべきいわれはない
  • 従って、原判決が、その判示のとおり被告人Aが被告人Cと共謀して本件強姦行為に及んだ旨認定したのは事実を誤認したことが明らかである

と判示し、被告人Aに対し、共謀関係の消滅を認め、Aには強制性交等罪の共同正犯は成立しないとしました。

強制性交の目的ではない自らが先に行った暴行・脅迫の結果を利用して被害者を強制性交した場合も、強制性交等罪が成立する

 強制性交の目的ではない自らが先に行った暴行・脅迫の結果を利用して被害者を強制性交した場合も、強制性交等罪が成立します。

 たとえば、強制性交の目的ではなく、強盗の目的で暴行・脅迫を行い、相手が抵抗不能になっていることをチャンスと思い、強制性交した場合でも、強制性交等罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和33年12月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第177条前段にいわゆる13歳以上の婦女に対する強姦罪(現行法:強制性交等罪)は、犯人自ら(責任無能力者を道具として利用する場合を含む)又は他の共犯者が加えた暴行又は脅迫の手段により、婦女の反抗を著しく困難ならしめて、姦淫する場合に成立するものである
  • 而して、その暴行又は脅迫の手段は、必ずしも強姦の手段として行つたものであることを必要とするものではなく、たとえば、犯人自ら又は他の共犯者が強盗の手段として暴行又は脅迫を加えたため婦女が畏怖しているに乗じ姦淫を遂げるが如き場合には、姦淫に際し改めて暴行又は脅迫を加えなくとも、先に犯人又は他の共犯者が強盗の手段として加えた暴行又は脅迫を利用する場合にも、等しく強姦罪(強制性交等罪)を構成する

と判示し、暴行・脅迫の手段は、強制性交の手段として行ったものでなくても、強制性交等罪が成立するとしました。

共謀関係のない他人が先に行った暴行・脅迫の結果を利用し、被害者の抗拒不能に乗じ、被害者を強制性交した場合は、強制性交等罪ではなく、準強制性交罪が成立する

 自らではなく、他人が先に行った暴行・脅迫の結果を利用し、被害者の抗拒不能に乗じ、被害者を強制性交した場合は、強制性交等罪ではなく、準強制性交罪(刑法178条)が成立します。

 たとえば、共謀関係にない第三者の加えた暴行・脅迫を利用して強制性交した場合は、被害者を抗拒不能に乗じて強制性交したものと認定され、準強制性交等罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

高松高裁判決(昭和47年9月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人において、Cらの輪姦のため加えた暴行行為を利用する意思があったとしても、Cらとは共犯の関係がありとは証拠上認め難く、自らは何らの暴行をも加えていないのであるから、刑法第177条前段の強姦罪(現行法:強制性交等罪)を構成するにないが、被告人は、被害者の抗拒不能に乗じ、姦淫しようとしたものにほかならないから、正しく刑法第178条の準強姦(現行法:準強制性交等罪)の犯罪を構成するものといわなければならない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和36年9月18日)

 Dが被害者を強制性交して傷害を負わせた強制性交等致傷罪の犯行終了後に、被告人Sが犯行現場に到着し、抗拒不能の被害者を強制性交した事案で、裁判官は、

  • 被告人Sは、Dの犯行終了後、現場に至ったのであるし、その姦淫行為の際、自ら暴行とか脅迫を用いたという証拠もないという点からいって、被告人Sが、刑法第181条第177条第60条の犯罪をなしたものであるということは否定されることになる
  • それでは、被告人Sには、何らの罪責がないかといえばそうはいえないのである
  • すなわち、被告人Sは、Dとの自動車内における談話により少女と性交をするという目的をもっていたことは明らかであるし、Dと少女のいる麦畑内の現場に赴いた際発見したのは、とりも直さず被害者が暴力によつて姦淫され、抗拒不能の状態となって地上にあられもない姿態をさらしていた光景であったのであるが、被告人Sは少女が右事由により抗拒不能の状態にあるということを察知しながらも、かかる無ざんな状態に対しても辟易することなく、かえってこれを利用して前記目的のとおり被害者を姦淫したものと認められる点からいって、被告人Sに対しては、少くとも刑法第178条所定の「人の抗拒不能に乗じ姦淫した」(※旧法の条文規定)という罪の成立を認むベきものであるといわなければならない

と判示し、先行者の強制性交により抗拒不能になっている被害者を強制性交等した行為について、準強制性交等罪が成立するとしました。

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