刑法(自殺教唆・幇助罪、嘱託・承諾殺人罪)

自殺教唆・幇助罪、嘱託・承諾殺人罪(3) ~「心中で生き残った者に対し、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪が成立する」を解説~

心中で生き残った者に対し、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪が成立する

 心中(合意に基づいて一緒に死ぬこと)において、そのうちの一人が死亡し、他の一人が生き残った場合、判例は、生き残った者に対し、刑法202条の罪(自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪)が成立するとしています。

 この点について明示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正4年4月20日)

 裁判官は、

  • 刑法第202条の罪は、自殺者若しくは被殺者たる本人と犯人との間に同死する合意ありたるとするも、その成立の妨げとなるべきものにあらず

と判示し、心中において、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪が成立するとしました。

大審院判決(大正15年12月3日)

 裁判官は、

  • 他人の自殺を教唆又は幇助する行為は、共に自殺を図りたる者との間に行われたる場合といえども、自殺教唆又は幇助の罪の成立を妨げず

と判示し、心中において、自殺教唆罪、自殺幇助罪が成立するとしました。

心中が自殺幇助罪に当たるとされた事例

 心中は一般に、各人の死の決意が心理的に相互依存の関係にあるのを特徴とするものであるので、少なくとも精神的幇助の関係があるといえます。

 心中をして生き残った一方について、承諾殺人ではなく、自殺幇助が成立するとした裁判例があります。

東京高裁判決(昭和30年6月13日)

 裁判官は、

  • 被告人は、C子から共に死のうと持ちかけられて、これを承諾し、もって、C子をして被告人と相共に死のうとする決意を固めしめた上、睡眠薬を服用するに至らしめた結果、睡眠薬の中毒により死亡させてしまったというのである
  • 被告人の所為は、C子の自殺行為を容易ならしめたものということができるのであって、すでに、自殺の意思をもつ者に対し、自殺行為を容易ならしめた以上、それが積極的手段によるものたると消極的なものたると、はたまた、有形的な方法たると無形的なものたるとを問わず、すべて、その所為は自殺に対する幇助行為というに妨げないのである
  • 被告人の所為たるや、まさに、刑法第202条にいう自殺幇助行為に当たるものといわなくてはならない

と判示しました。

東京高裁判決(平成25年11月6日)

 妻と心中することを決意して自動車内で練炭自殺を図ったが、妻のみが急性一酸化炭素中毒で死亡したという事案です。

 着火した練炭コンロを車内においてドアを閉めた行為が殺害の実行行為に当たり、これを行ったのは被告人(夫)であるから承諾殺人が成立するとした一審判決に対し、被告人と妻は自殺の方法や場所を相談し、妻も練炭コンロの着火に積極的に関与していることなどから自殺幇助に該当するとして、一審判決を破棄しました。

次の記事

①殺人罪、②殺人予備罪、③自殺教唆罪・自殺幇助罪・嘱託殺人罪・承諾殺人罪の記事まとめ一覧

過去の記事