刑法(監護者わいせつ・監護者性交等罪)

監護者わいせつ・監護者性交等罪(1) ~「監護者わいせつ罪、監護者性交等罪は、暴行・脅迫がなくても成立する」「監護者とは?」「監護者の身分のない共犯者が犯行に加功した場合の本罪の成否」を解説~

 これから監護者わいせつ罪、監護者性交等罪(刑法179条)について説明します。

監護者わいせつ罪、監護者性交等罪とは?

 監護者わいせつ罪、監護者性交等罪は、

18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者(監督者)が、その影響力に乗じ、わいせつな行為又は性交等(①性交、②肛門性交、③口腔性交)をした場合について、強制わいせつ罪(刑法176条)、強制性交等罪(刑法177条)と同様の法定刑で処罰する規定

です。

監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、暴行・脅迫がなくても成立する

 監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の特徴は、暴行・脅迫がなくても成立する点がポイントです。

 強制わいせつ罪・強制性交等罪は、犯人が、被害者に対し、暴行・脅迫を行い、わいせつ行為をした場合に成立する犯罪です。

 これに対し、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、犯人の身分が18歳未満の者の監護者であれば、わいせつ行為をするに暴行・脅迫を用いる必要はありません。

 たとえば、監護者に当たる実父や義理の父から、その子どもがわいせつ行為をされるに当たり、暴行・脅迫が用いられない場面は多々あります。

 親からのわいせつ行為に対し、子どもは逆らえず、迎合してしまうことが多いからです。

 親の言いなりになる子供を、親からの性被害から守るために、暴行・脅迫がなくても、犯罪の成立が認められる監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、その存在価値があります。

監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の設立の趣旨

 18歳未満の者は、精神的に未熟であり、監護者に精神的・経済的に依存しているため、監護者が、監護者であることの影響力を使い、18歳未満の者に対し、わいせつな行為や性交等をすることは、強制わいせつ罪・強制性交等罪等と同じく、被害者の性的自由を侵害するものであるといえます。

 監護者の影響力がある状況下でわいせつ行為や性交が行われた場合、18歳未満の者がそれに抵抗することなく応じたとしても、その意思決定は、監護者の影響力が作用してなされたものであり、自由な意思決定ということはできません。

 そこで、暴行・脅迫が用いられず、また、抗拒不能に当たらないとしても、強制わいせつ罪、強制性交等罪と同等に悪質であるといえることから、平成29年に新たな犯罪類型として、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が設けられ、強制わいせつ罪・強制性交等罪等と同様に処罰することとされたました。

客体(18歳未満の者)

 監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の客体は、18歳未満の者です。

 18歳未満の者は、監護者に精神的・経済的に依存している関係にあり、また、精神的に未熟であるとされます。

主体(現に監護する者)

 本罪の主体は、「18歳未満の者を現に監護する者」です。

 「監護する」とは、民法第820条で親権の効力として定められているところと同様に、監督し、保護することをいいます。

 なので、「18歳未満の者を現に監護する者」とは、18歳未満の者を現に監督し、保護している者となります。

 「18歳未満の者を現に監護する者」は、法律上の監護権を有する必要はなく、実際に監護している実態があれば、「現に監護する者」に当たります。

 逆にいえば、法律上の監護権を有している者(両親など)であっても、実際に監護している実態がなければ、「現に監護する者」には当たりません。

 「現に監護する者」に当たるといえるためには、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点や、生活上の指導・監督などの精神的な観点から、依存・被依存や保護・被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められることが必要とされます。

 具体的には、「現に監護する者」に当たるといえるためには

  • 同居している
  • 身の回りの世話をしている
  • 生活費などの経済的支援をしている
  • 学校の入学など、未成年者に関する手続を行っている

など、様々な事情が考慮されて「現に監護する」といえるかどうかが判断されます。

監護者の身分のない共犯者が犯行に加功した場合

 本罪の主体は、18歳未満の者を監護する者という一定の身分を有する者に限られている身分犯です。

 そのため、身分のない共犯者が、身分のある監護者に加功した場合に、身分のない共犯者に、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は成立するかが問題になります。

 結論として、身分のない共犯者に対しては、刑法65条1項が適用され、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が共同正犯(共犯)のかたちで成立します。

 例えば、父Aとその知人Bが共謀し、父Aの子どもに対し、それぞれわいせつ行為をした場合、父Aと知人Bの両方に監護者わいせつ罪の共同正犯が成立します。

 また、父Aと知人Bが事前に共謀し、知人Bだけが父Aの子どもにわいせつ行為をした場合でも、父Aと知人Bの両方に監護者わいせつ罪の共同正犯が成立します(この形態の共謀を共謀共同正犯といいます)。

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