刑法(総論)

共謀共同正犯とは? ~判例で解説~

 前の記事で、共同正犯が成立するためには、

  1. 共同実行の意思(意思の連絡)
  2. 共同実行の事実

の2つ要件が必要になるという話をしました。

 ここで、犯人Aが「被害者Cを殺せ!」と犯人Bに命じ、犯人Bが被害者Cを殺した場合について考えます。

(ヤクザの親分が子分に命令するイメージです)

 この場合、犯人Aには、①の共同実行の意思(意思の連絡)はありますが、②の共同実行の事実(実際に殺人行為をした事実)はありません。

 犯人Aのように、①の共同実行の意思(意思の連絡)は行うが、自分は手は汚さない(犯罪の実行行為はしない)場合、犯人Aは、殺人罪の共同正犯(共犯)で処罰されるでしょうか?

 結論として、もちろん犯人Aは、殺人罪の共同正犯(共犯)で処罰されます。

 この場合、犯人Aは、共謀共同正犯という犯罪形態で処罰されます。

 今回は、共謀共同正犯について説明します。

共謀共同正犯とは?

 共謀共同正犯とは、

「共同実行の意思(意志の連絡)」(共謀)はあるが、「共同実行の事実(犯罪の実行行為)」がない場合の共同正犯

をいいます。

 共謀共同正犯の考え方は、複数の犯人が犯罪の共謀をして、犯人のうち1人でも犯罪の実行行為をすれば、犯人全員が共同正犯(共犯者)として処罰されるというものです。

 犯罪の指示役は、犯罪の実行行為をしてないから処罰されない…なんてルールにしてしまえば、ヤクザの親分は処罰されないことになり、世の中が悪で満ちてしまいます。

共謀共同正犯を定義づけた判例

最高裁判所 判例(昭和33年5月28日)

 裁判官は、

  • 共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、犯罪を実行した事実が存しなければならない
  • 共謀共同正犯成立に必要な共謀(上記の各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議)に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負う

と判示し、共謀共同正犯の存在と定義を明確化しています。

共謀共同正犯と幇助犯の違い

 「共同実行の意思(意志の連絡)」(共謀)があったとして、共謀共同正犯として処罰されず、幇助犯として処罰される場合があります。

 幇助犯(刑法62条)とは、

正犯(犯罪の実行者)を手助けする犯罪形態

をいいます。

 幇助犯は、犯罪の手助けにとどまるので、共謀共同正犯より罪が軽くなります(刑法63条刑法68条)。

 「共同実行の意思(意志の連絡)」のみを担当した犯人としては、「共謀共同正犯じゃなくて、刑が軽くなる幇助犯の方で処罰してくれ!」という思いになるわけです。

 ここで、共謀共同正犯となるか、幇助犯となるかを区別する要素は、

  • 他の共犯者に影響を及ぼしたか
  • 果たした役割が重要か
  • 他の共謀者の行為を利用し、一体となって自らも犯罪行為を行おうとする意思があったか

の3点になります。

 実現した犯罪行為に対して、重要な役割を果たしていたと判断されれば、刑罰が軽い幇助犯でなく、共同正犯(共謀共同正犯)で処罰されるということです。

共謀共同正犯の有名な判例

 共謀共同正犯の有名判例として、最高裁判所判例(平成15年5月1日)があります。

 この判例は、共同実行の意思の連絡を直接行わなず、暗示的に行っていても、共謀共同正犯が成立することを示しました。

事件の内容

 暴力団組長である被告人が、自己のボディーガードにけん銃等の所持させた銃砲刀違反事件

判決の内容

 裁判官は、

  • 被告人がボディーガードに対して、けん銃等を携行して擁護するように直接指示を下さなくても、ボディーガードが自発的に被告人を擁護するためにけん銃を所持していることを確定的に認識しながら、それを当然のこととして受け入れて認容していたものであり、そのことをボディーガードも承知していた
  • 被告人とボディーガードとの間にけん銃等の所持につき、黙示的に意思の連絡があったといえる
  • ボディーガードを指揮命令する権限を有する被告人の地位と、ボディーガードによって擁護を受けるという被告人の立場をあわせて考えれば、実質的には、まさに被告人がボディーガードにけん銃を所持させていたと評価できる

と判示し、被告人とボディーガードの両名に、銃刀法違反(けん銃等の所持)の共謀共同正犯が成立するとしました。 

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