刑法(証拠隠滅罪)

証拠隠滅罪(14) ~「証拠隠滅罪における罪数の基準は『証拠』である」「証拠隠滅罪と他罪との関係」などを説明~

 前回の記事の続きです。

証拠隠滅罪における罪数の基準は「証拠」である

 証拠隠滅罪(刑法104条)における罪数の基準は「証拠」であり、1個の証拠に対する証拠隠滅行為ごとに1個の証拠隠滅罪が成立します。

 証拠の数は法律的に考察すべきでなので、物理的には数個であっても、証拠として一体性があるものは1個とみるべき場合があります。

数個の証拠につき、1個の隠滅行為があった場合の罪数

 数個の証拠につき、1個の隠滅行為があった場合には観念的競合となり、1個の証拠隠滅罪が成立します。

数個の証拠につき、各別の隠滅行為があった場合の罪数

 数個の証拠につき、各別の隠滅行為があった場合には、各証拠に対する隠滅行為の数分の証拠隠滅罪が成立し、各証拠隠滅罪は併合罪となります。

 この点に関し、参考となる以下の裁判例があります。

千葉地裁判決(昭和34年9月12日)

 選挙買収事件につき、買収資金の保管状況の偽造教唆(1つ目の証拠隠滅教唆罪)と、内容虚偽の上申書の偽造・使用教唆(2つ目の証拠隠滅教唆罪)を併合罪としました。

宮崎地裁日南支部判決(昭和44年5月22日)

 麻酔薬の過量注射による業務上過失致死事件につき、注射に用いた注射器等の隠滅教唆(1つ目の証拠隠滅教唆罪)と、注射液容器の偽造・使用(2つ目の証拠隠滅教唆罪)を併合罪としました。

同一の証拠に対して隠滅・偽造・変造・使用がなされた場合の罪数

 同一の証拠に対して隠滅・偽造・変造・使用がなされた場合の罪数については、事案によって見解が分かれます。

 隠滅・偽造・変造・使用が手段・結果の関係にある場合は、証拠隠滅罪(偽造)と証拠隠滅罪(偽造証拠の使用)は別個に成立し、各証拠隠滅罪は牽連犯の関係になるとする見解があります。

 これに対して、証拠を偽造し(証拠隠滅罪(偽造))、これを使用した場合(証拠隠滅罪(偽造証拠の使用))は、包括一罪とする見解があります。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

証拠偽造と偽造証拠使用が牽連犯になるとした裁判例

東京高裁判決(昭和40年3月29日)

 参考人として検察官から上申の作成、提出を求められた者が、虚偽の内容の上申書を作成して(証拠偽造)、検察官に提出(偽造証拠行使)した事案で、証拠偽造と偽造証拠行使は牽連犯になる認定をしました。

仙台地裁気仙沼支部(平成3年7月25日)

 遠洋漁業中の日本国籍漁船内において傷害致死事件が発生し、漁労長が犯人の依頼を受けて、船長と共謀の上、過失による死亡事故である旨の虚偽の死亡事故発生報告書と図面を作成し(証拠偽造)、外国の事務所からこれらを海上保安部宛にファクシミリ送信した(偽造証拠行使)という事案です。

 裁判所は、

  • 被告人の証拠偽造と偽造証拠行使との間には手段結果の関係があるので、これは、刑法54条1項後段牽連犯である

と判示しました。

証拠偽造教唆と偽造証拠使用教唆が牽連犯になるとした裁判例

千葉地裁判決(昭和34年9月12日)

 選挙買収被疑事件に関し、弁護士において、立候補者から秘書に渡された金員が、第三者から立候補者への個人献金として秘書に渡されたものであることを偽装するべく、第三者にその旨の上申書を作成させ(証拠偽造教唆)、検察官に提出させるとともに(偽造証拠使用教唆)、当該金員が第三者の事務所の金庫内に以前保管されていたような状況を作出させた事案で、弁護人による証拠偽造教唆と偽造証拠使用教唆は牽連犯になる認定をしました。

証拠偽造と偽造証拠使用が包括一罪になるとした裁判例

宮崎地裁日南支部判決(昭和44年5月22日)

 裁判所は、偽造した証拠を警察官に提出した行為について、証拠偽造と偽造証拠使用は一罪になる認定をしました。

証拠隠滅罪と他罪との関係

 証拠隠滅行為が同時に他の罪にも触れる場合には、観念的競合になります。

 例えば、

  • 他人の窃盗事件に関する証拠である盗品を預かって隠匿した場合、盗品等保管罪と証拠隠滅罪は観念的競合になる
  • 証拠隠滅のため証拠物を窃取した場合、窃盗罪と証拠隠滅罪は観念的競合になる
  • 証拠の偽造・変造・使用が文書・有価証券の偽造罪・変造罪・行使罪に触れる場合、文書偽造の罪と証拠隠滅罪は観念的競合になる
  • 証人・参考人を証拠隠滅のために殺害した場合、殺人罪と証拠隠滅罪は観念的競合になる
  • 証人・参考人を証拠隠滅のために監禁した場合、監禁罪と証拠隠滅罪は観念的競合になる

と考えられます。

 参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(明治44年5月20日)

 他人の窃盗事件に関する証拠である盗品を預かって隠匿した事案で、盗品等保管罪と証拠隠滅罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

大審院判決(大正3年11月30日)

 酒税法違反の取調べ中に、その証拠物件を窃取した事案で、窃盗罪と証拠隠滅罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

 裁判所は、

  • 収税官吏がAの酒造税法違反嫌疑事件につき、Bの住所において、その内縁の妻CのAより預かりたる書類在中の風呂敷包みを証拠物件として差し押え、Cを尋問し居る際、Bが当該官吏の隙をうかがい、これを窃取逃走して、D方の池中に投入し、該反則事件の証拠を隠滅せしめたる所為は、刑法第54条前段にいわゆる1個の行為にして数個の罪名に触れるものなりとす

と判示しました。

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