刑事訴訟法(公判)

刑事免責制度~「証人尋問開始前の免責請求」「証人尋問開始後の免責請求」を説明

刑事免責制度とは?

 刑事事件において、証人が証言を拒むことにより、検察官が犯罪事実の立証ができず、重大な犯罪を犯した被告人を有罪にできないという事態が起こり得ます。

 詳しく説明すると、証人には、自己負罪拒否特権憲法38条1項に基づく証言拒絶権(刑訴法146条147条148条149条)があり、その権利の行使により、犯罪事実の立証に必要な証言を得ることができない事態が起こり得るとなります。

 そのような事態に対処するため、平成28年に刑事免責制度が整備されました。

 刑事免責制度とは、平たくいうと、

証人が、証人尋問において、証人自身が刑事事件の犯人となるような供述をしても、あらかじめ証人の刑事責任を免除することを約束することで、証人の供述を獲得できるようにするもの

です。

 詳しく説明すると、刑事免責制度は、検察官の請求に基づく裁判所の決定により、証人に対し、

  • 尋問に応じてした供述
  • 尋問に応じてした供述に基づいて得られた証拠

は、

証人の刑事事件において証人に不利益な証拠とすることができない旨の免責を付与

し、その証言が自己負罪拒否特権の対象とならないようにすることによって、

証人に証言を義務付けるもの

です。

 証人尋問において、刑事免責制度の活用を求める検察官の裁判官に対する請求は、

  1. 証人尋問開始の免責請求(刑訴法157条の2
  2. 証人尋問開始の免責請求(刑訴法157条の3

の2つに分けられます。

 以下でそれぞれについて説明します。

① 証人尋問開始前の免責請求

趣旨

 証人尋問に当たり、検察官において、

  • 証人が刑事訴追(検察官に刑事事件として起訴されること)を受ける事項
  • 有罪判決を受けるおそれのある事項

についての尋問を予定している場合、証人が自己負罪拒否特権に基づき、それらの事項についての証言を拒むことが予想されます。

 そのような場合に、証人が、証人尋問を行う前に、あらかじめ裁判官から免責決定を受けることができれば、証人は、免責の意味を理解した上で証人尋問に臨み、真実を証言できることになります。

 そのようなことから、円滑かつ的確な証人尋問の実施が行われるように、証人尋問開始前の免責請求の規定が設けられています。

免責請求の主体

 免責請求の主体は、検察官に限られています(刑訴法157条の2第1項)。

 刑事免責制度は、検察官の請求により行うものなので、裁判官の職権により行うことはできません。

免責請求の要件

 検察官は、

  1. 証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であって
  2. ①の事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及ひ情状その他の事情を考慮し、必要とめる場合

に、裁判官に対し、証人尋問の開始前に、免責請求をすることができます(刑訴法157条の2第1項)。

求める免責の内容

 検察官が求める免責の内容は、以下のとおり規定されています。

1⃣ 証人が尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと(刑訴法157条の2第1項1号)。

 ただし、証人が証人尋問においてした行為が、宣誓証言拒否罪(第161条)又は偽証罪刑法第169条)に当たる場合は、宣誓証言拒否罪、偽証罪の証拠にはなります(つまり、宣誓証言拒否罪、偽証罪は免責にはならない)。

2⃣ 刑訴法146条(証言拒絶権)の規定にかかわらず、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないこと(刑訴法157条の2第1項2号)。

免責決定の要件

 裁判所は、検察官から免責請求を受けたときは、その証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、証人尋問を前記1⃣と2⃣の条件により行う旨の決定をします(刑訴法157条の2第2項)。

 逆に言えば、裁判所は、およそ免責決定をする必要がない場合を除き、免責決定をすることになります。

 また、裁判所が決定をするに当たり、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)陳述を聞くことが必要とされます(刑訴法規則33条1項)。

免責決定がなされた後の証人尋問において、証人は証言を拒むことができない

 裁判官の免責決定がなされた場合、前記1⃣と2⃣の条件により証人尋問が行われます。

 この場合、証人は、刑訴法146条の規定により証言を拒むことができなくなり、正当な理由なく証言を拒んだ場合には、刑訴法160条(証言拒絶による過料・費用賠償)、宣誓証言拒否罪(第161条)による制裁の対象となります。

免責決定に対する異議申立て

 裁判官の行った免責決定は、証人尋問という証拠調べに関するものであることから、刑訴法309条1項による証拠調べに関する異議の対象となり得ます。

 証拠調べに関する異議は、「相当でないこと」を理由としてすることはできず、「法令の違反があること」の理由に限られるので、免責決定に対する異議も、「法令の違反があること」の理由に限られます(刑訴法規則205条1項)。

 また、免責決定は、即時抗告をすることができる規定は設けられておらず、検察官、被告人又は弁護人は、裁判官の行った免責決定に対して抗告をすることはできません(刑訴法420条1項)。

② 証人尋問開始後の免責請求

趣旨

 証人尋問を行う前は、証人に対し、

  1. 証人が刑事訴追を受けるおそれのある事項
  2. 証人が有罪判決を受けるおそれのある事項

についての尋問をしても、証人が証言を拒むことはないと予想されていても、いざ証人尋問を行ってみたら、予想に反し、証人が①、②の事項についての証言を拒むことがあり得ます。

 このような場合には、証人尋問開始後であっても、免責決定が必要となるので、証人尋問の開始後における免責請求についての規定が設けられています。

免責請求の主体

 免責請求の主体は、検察官に限られています(刑訴法157条の3第1項)。

 刑事免責制度は、検察官の請求により行うものなので、裁判官の職権により行うことはできません。

免責請求の要件

 検察官は、

  1. 証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項について「証言を拒んだ」と認める場合であって
  2. ①の事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及ひ情状その他の事情を考慮し、必要とめる場合

に、裁判官に対し、証人尋問の開始後に、免責請求をすることができます(刑訴法157条の3第1項)。

 ①の「証言を拒んだ」とは、

における「証言を拒んだ」と同じ異議であり、証人が証言を拒んだ理由は問いません。

求める免責の内容

 検察官が求める免責の内容は、「①証人尋問開始前の免責請求」(刑訴法157条の2第1項1号)と同じであり、以下の1⃣、2⃣のとおりです。

1⃣ 証人が尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと(刑訴法157条の2第1項1号)。

 ただし、証人が証人尋問においてした行為が、宣誓証言拒否罪(第161条)又は偽証罪刑法第169条)に当たる場合は、宣誓証言拒否罪、偽証罪の証拠にはなります(宣誓証言拒否罪、偽証罪は免責にはならない)。

2⃣ 刑訴法146条(証言拒絶権)の規定にかかわらず、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないこと(刑訴法157条の2第1項2号)。

免責決定の要件

 裁判所は、検察官から免責請求を受けたときは、その証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、免責請求があった以後の証人尋問(免責請求がなされた証人尋問)を前記1⃣と2⃣の条件により行う旨の決定をします(刑訴法157条の2第2項)。

 逆に言えば、裁判所は、およそ免責決定をする必要がない場合を除き、免責決定をすることになります。

 また、裁判所が決定をするに当たり、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)の陳述を聞くことが必要とされます(刑訴法規則33条1項)。