過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(16)~「車で踏切を通過する際の注意義務」を判例で解説~

車で踏切を通過する際の注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、車で踏切を通過する際の注意義務について説明します。

注意義務の内容

 車で踏切を通過する場合は、踏切の直前で停止し、かつ、安全を確認した後でなければ、通行してはなりません(道路交通法33条1項)。

 このことは、踏切警手が配置されている踏切、自動警報機、自動遮断機が設置されている踏切、何らの人的・物的配置、設備のない踏切であっても同様です(東京高裁判決 昭和37年10月18日)。

 踏切警手が配置されている踏切で、踏切警手が何らかの理由で、列車が接近して来るのに遮断機を上げたままにしていたため、列車が来ないと思って踏切に進入し事故となった場合であっても、遮断機が開放されているから安全であると信頼することはできず、 自らあるいは車掌により踏切の安全を確認すべきであるとされます(最高裁判決 昭和25年10月24日)。

 最大積載量の約4倍の砂を積載していたため、制動効果が低下し、踏切手前で停止できず踏切内に進入した事案で、あらかじめ減速して速度調節、制動装置の適確な操作をして踏切手前で停止できるようにすべきであるとした裁判例があります(千葉地裁判決 平成5年11月5日)。

踏切に進入した後、遮断機が下がり、踏切内に閉じ込められた場合

 踏切に進入した後、遮断機が下がり、踏切内に閉じ込められた場合には、

  • 何よりも先に踏切外に脱出する措置をとるべきで、遮断機を折損してでも進行し(名古屋高裁判決 平成2年7月17日)
  • 遮断線が付置されている遮断機の鋼索に自車を衝突させ鋼索を落下させてでも進行し(東京高裁判決 昭和51年7月13日)

踏切から脱出すべきであるとされます。

エンストなどで踏切内に立往生した場合

 踏切進入後、エンスト・脱輪を起こしたり、大型車であることなどにより立往生した場合、または立往生しないようにするための注意義務として、以下の義務が課せられます。

① エンストを生じさせないように操作する(大阪地裁判決 昭和54年4月12日)

② 十分な時間的余裕がある場合に踏切に進入する(福岡高裁判決 昭和53年6月15日)

③ 列車の通過時刻及びその変更の有無まで調査して進行する(東京高裁判決 昭和39年2月26日)

④ 誘導者をして踏切路面の状況を確認して誘導させる(仙台高裁判決 昭和58年11月21日)

⑤ 列車が接近して来る場合には、赤色手旗発煙筒を使用して列車に停止合図をして停止させる(大阪高裁判決 昭和49年4月25日)

⑥ バス乗客等を乗せて踏切内で立往生した場合は、何よりも先に乗客を下車させて踏切外に退避させる(大阪高裁判決 昭和39年3月31日)

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