刑法(強要罪)

強要罪(1) ~「強要罪とは?」「強要罪の被害者(客体)」「法人は客体にならない」「幼者、精神薄弱者、精神病者は客体になる」「不特定人に対する強要は強要罪を成立させない」を判例で解説~

 これから複数回にわたり強要罪(刑法223条)について解説します。

強要罪とは?

 強要罪は、刑法223条に規定があり、

  1. 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する
  2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする
  3. 前二項の罪の未遂は、罰する

と条文で定められています。

 強要罪は、脅迫・暴行を手段として、人に義務のないことを行わせ、又は、権利の行使を妨害する犯罪です。

 未遂を処罰する規定もあります。

 強要罪を構成要件要素とする特別罪として、

があります。

強要罪の被害者

 強要罪の被害者(行為の客体)について説明します。

 強要罪の行為の客体は「人」です。

「法人」は客体にならない

 「法人」が強要罪の客体になりうるかについて判示した判例は不見当です。

 学説においては、法人は強要罪の客体にはならないと解するのが多数説になっています。

 脅迫罪については、法人は脅迫罪の客体にはならないと判示した以下の判例が存在することから、脅迫罪と同種の犯罪である強要罪についても、法人は客体にならないと考えられます。

大阪高裁判決(昭和61年12月16日)

 建設会社の土木管理部長らに対し、土木管理部長らの個人の生命、身体のほか、会社の営業等に加害する旨申し向けた事案で、裁判官は、

  • 刑法222条の脅迫罪は、刑法体系上、生命身体に対する殺人の罪、傷害の罪に引き続き、身体の自由に対する罪として、逮捕・監禁の罪及び略取・誘拐の罪と並んで、それら両者の間に置かれ、人の意思活動の平穏ないし意思決定の自由をその保護法益とするものであることにかんがみ、さらに刑法222条各項の文言自体をも参照すると、刑法222条1項の脅迫罪は、自然人に対し、その生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを告知する場合に限って、その成立が認められる
  • 法人に対し、その法益に危害を加えることを告知しても、それによって法人に対するものとしての脅迫罪が成立するものではなく、ただ、それら法人の法益に対する加害の告知が、ひいてその代表者、代理人等として現にその告知を受けた自然人自身の生命、身体、 自由、名誉又は財産に対する加害の告知に当たると評価され得る場合にのみ、その自然人に対する恐喝罪の成立が肯定されるものと解される

と判示し、脅迫罪の客体は、自然人に限られ、法人に対しては恐喝罪は成立しないとしました。

幼者、精神薄弱者、精神病者も強要罪の客体になる

 強要罪は、人の自由に対する罪なので、行為の客体は意思能力者である必要がありますが、強要の内容となる言動の意味を理解することのできる程度であれば、

も強要罪の客体に含まれます。

 逆に言えば、意思能力を全く欠く者に対しては、強要罪は成立しません。

不特定人に対する強要は強要罪を成立させない

 不特定人に対する強要は、強要罪を成立させないとされます。

 これは、強要罪は個人的法益に対する犯罪なので、強要行為には相手方の存在が前提とされるためです。

 強要行為の相手方が全く特定しない場合には、強要罪における強要の実体を備えていないことになります。

 不特定人に対する脅迫行為が強要罪の脅迫に該当するかどうか争点になった以下の判例があります。

大審院判決(昭和16年2月27日)

 特定の姉妹に対する恨みを晴らすため、姉妹の悪評を流布させようとし、姉妹の素行の悪さを落し手紙に書き、その文中に「拾い主は理髪店に届けよ、同店主は文意を人に伝えよ、そうしなければ拾い主または理髪店主方(※方:家の意味)に放火する」などとしたためて、特定の店の店頭や民家の裏木戸に置くなどした事案です。

 裁判官は、

  • 落し手紙が、たとえ宛名を欠如するとも、拾得せらるべき蓋然性あるものなれば、予期の如くこれを拾得する者あるに至り、ここに脅迫罪の被害者は特定する

として、落とし手紙を誰かが拾って理髪店に届ければ、落とし手紙が姉妹の目に触れるところとなるため、被害者が特定されるのだから、強要罪が成立するとしました。

 この判例は、拾得された時点で被害者が確定するとした点については、表現として適切を欠くという指摘があります。

 考え方を整理すると、落し手紙をした時点では誰が拾い主になるかは不確定的ではあるが、場所などの周囲の状況から店主や住人が手紙を拾得するであろうという予測のもとに落し手紙をしたともみることができ、特定人に対する強要罪を認めた事案と考えられています。

 もっとも、もしこの判例の事案が、強要行為の相手方が全く特定しない事案であった場合には、強要罪における強要の実体を備えていないということになり、強要罪は成立しないと考えられます。

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