刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(14) ~「名誉棄損罪における共犯(共同正犯)」を説明~

 前回の記事の続きです。

名誉棄損罪における共犯(共同正犯)

 名誉毀損罪(刑法230条)の共犯(共同正犯)について説明します。

 新聞等の報道による名誉毀損の場合には、役割の異なる複数の者が関与することが多いので、各人の刑事責任をどうみるかが問題になります。

 一般的にいえば、組織内部の者であって、当該報道を行うか否かを左右し得る立場にあった者は、全員共同正犯とされることになると考えられます。

 判例・裁判例も、通常、記事の作成から掲載・発行にいたる過程に関わったすべての者を共同正犯と見ているといってよいといえます。

 この点、参考となる裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和53年5月30日)

 裁判官は、

  • その頒布公表により名誉毀損の罪及び公選法235条2項の罪が成立する記事が掲載されている新聞又は雑誌が刊行された場合、その記事の作成と最終稿の決定に関与した記者及び編集者は、その記事の内容となった事実の資料を提供した被取材者ともども、頒布者の頒布公表行為により成立する名誉毀損の罪及び公選法235条2項の罪の共同正犯となるものであり、この場合、具体的になにびとが頒布公表の所為に出るかについて、被取材者及び取材者、記事作成者が予知していることは必要ではないし、また頒布者において、被取材者、取材者、記事作成者がなにびとであるかを特定して諒知していることは必要ではない
  • 被取材者は、取材者、記事作成者、頒布者の行為を利用しない限り、また、取材者、記事作成者は、被取材者の情報の提供行為、及び頒布者の頒布行為を利用しない限り、更に頒布者は、被取材者による情報の提供行為、取材者、記事作成者による記事の作成刊行の行為を利用しない限り、各自の意思を実行に移すことはできないものであるから、被取材者、取材者、記事作成者、頒布者の間には、名誉毀損の罪及び公選法235条2項の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し各自の意思を実行に移すことを内容とする意思の連絡があり、よって右犯罪が実行に至るという関係がある

と判示しました。

大審院判決(明治44年10月27日)

 他人の名誉を毀損する情報を取り次いて新聞紙に掲載した新聞出張所の販売係及び支局の通信主任につき、新聞編集者と共に名誉毀損罪の共同正犯になるとした事例です。

 裁判官は、

  • 数人順次に犯意を共通し、新聞紙編集人の手をかり、公然事実を新聞紙に摘示しせめ、もって人の名誉を毀損したるときは、これらの者は、右編集人と共に共同正犯として処分すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正15年8月6日)

 裁判官は、

  • 新聞社の通信員は、新聞紙に掲載発行せられたるその通信に係る他人の名誉を毀損すべき事項につき責を負うべく、記事の取捨選択が編集人の専権に属するをもって罪責を免れるべきに非ず
  • またその通信員は、編集人に記事の資料を供給し、共同して新聞紙による名誉毀損罪を実行せしものにして、同罪の予備たるにとどまらざるものとす

と判示し、新聞の編集者と新聞社の通信員に対し、名誉毀損罪の共同正犯が成立するとしました。

大審院判決(大正15年5月17日)

 裁判官は、

  • 他人の名誉を毀損する記事を新聞紙に掲載する目的をもって、その材料を提供したる新聞記者の行為は、編集発行の行為と相合して、名誉毀損の結果を生ずるものなるが故に、これを掲載したる新聞紙を発行する以上は、その記者は名誉毀損罪の実行正犯たるを免れざるものとす

と判示し、新聞記事の材料を提供した新聞記者に対し、名誉毀損罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和28年2月21日)

 裁判官は、

  • 人の名誉を毀損する記事を掲載した雑誌が発売頒布された場合において、直接その発売頒布がその職責でもなく、また事実上みずから発売頒布したものでなくても、雑誌の編集局長または編集責任者として編集会議においてその編集方針、企画、調査、取材すべき事項およびその担当記者等の討議決定に参与し右決定に基き担当記者が調査取材した結果を執筆した原稿を点検し、右記事を雑誌に掲載することを決定した者は、右雑誌が編集発行され、発売頒布された場合に、右発売頒布による名誉毀損につき認識があったものとして、その責に任ずべきである

とし、雑誌の編集局長と編集責任者に対し、名誉毀損罪が成立するとしました。

名誉毀損罪の共犯(共同正犯)を否定した事例

 名誉毀損罪の共犯(共同正犯)を否定した以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和28年2月21日)

 すでに掲載が決定されて編集部より廻付された原稿につき、これを印刷に附し雑誌とするために必要な頁数の割付、写真の説明、挿絵、見出しの附加等主として技術的な事務を担当していた雑誌社の整理部長に対し、編集会議に出席し、掲載の決定に関与した事実がなく、掲載を中止ないし変更させる等の権限も有していなかったことを理由に、共同正犯の責を負わないとしました。

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