刑法(強制性交等・強制わいせつ致死傷罪)

強制性交等・強制わいせつ致死傷罪(5) ~「誰の行為で死傷の結果が生じたかを問わず、共犯者全員が本罪の責任を負う」「承継的共同正犯は致傷の責任を負うか否か」を判例で解説~

共同正犯(共犯)

 強制性交等致死傷罪、強制わいせつ致死傷罪(刑法181条)の共同正犯について、参考となる判例を紹介します。

基本行為を共同で犯した以上、そのうちの誰の行為で死傷の結果が生じたかを問わず、共犯者全員が本罪の責任を負う

 基本行為(強制性交、強制わいせつ)を共同で犯した以上、そのうちの誰の行為で死傷の結果が生じたかを問わず、共犯者全員が強制性交等致死傷罪又は強制わいせつ致死傷罪の責任を負うことになります。

 参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年7月12日)

 裁判官は、

  • 被告人らはFを強姦することを共謀してFを強姦し、かつ強姦をなすに際してFに傷害を与えたというのであるから、共謀者全員、強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)の共同正犯として責を負わなければならない
  • Fの負傷は、被告人らのうち、誰の行為によって生じたものか不明であるが、仮りに被告人らのうちの一人の行為によって生じたものとしても、被告人らはFを強姦しようと共謀して判示犯行をとげたのであり、そして強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)は結果的加重犯であって、暴行脅迫により姦淫をする意志があれば、傷害を与えることについて認識がなくとも同罪は成立するのであるから、共謀者全員が強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)の共同正犯として責を負わなければならない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年10月8日)

 6名が共謀して被害者を強制性交した事案で、裁判官は、

  • 一人が姦淫している間、他の者はそれぞれ被害者の手足を押えた上、順次全員において輪姦した旨の供述によって、まことに明らかなところである
  • しからば、本件強姦致傷(現行法:強制性交等致傷罪)の結果については、右6名中の何人がこれを与えたかについては明確でなくても、いわゆる結果的加重犯である強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)においては、右6名の全員が等しく共同正犯としての責を免かれないものと言うべきである

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年6月6日)

 裁判官は、

  • 本件強姦は、被告人両名の共謀行為であることは、原判決挙示の証拠によって認めるこ
  • とができる
  • さすれば、本件致傷の結果については、両名のうち、何れがこれを与えたか明確でなくとも、いわゆる結果的加重犯である強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)においては、被告人両名は等しく共同正犯として其責を負わなければならない

と判示しました。

最高裁決定(昭和27年12月25日)

 裁判官は、

  • 姦淫行為は被告人ら各自の姦淫行為であるけれども、よって生じた致傷の結果は被告人ら中の何者かが被害者の処女膜に裂傷を与えたという単一の傷害の結果を発生させたことに帰するものであつて、被告人ら3名各自の行為による3個の傷害でないこと明白である
  • しかるに、原判決は3個の強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)成立し、被告人ら名各自が3個の併合罪の責を負うべきものと解したのは失当である

と判示しました。

広島高裁判決(昭和30年6月25日)

 裁判官は、

  • 強姦を共謀した者は、そのうち一人が相手方に対し、強姦の手段たる暴行行為により生ぜしめた傷害の結果につき、共同正犯としてその責を負わねばならないと解すべきものであるから、たとえ被害女性の致傷は直接には共犯者Aの行為に基くものであり、かつ、あらかじめ謀議したところは単に被害女性にジャンパーをかぶせて押え付けることだけであったとしても、被告人は致傷の結果につき到底その責を免かれることはできないものといわねばならない

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和32年12月10日)

 被告人A・B両名が、同一婦女を強姦しようと共謀し、Bが同女の反抗を著しく妨げることなく性交をした場合においても、Bにつき強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)が成立する以上、Aも同罪の共同正犯として責任を負うとした事例です。

 裁判官は、

  • 数人が同一婦女を強姦しようと共謀し、そのうちの一人が同女を強いて姦淫し、よって同女に傷害の結果を与えたときは、他の者は姦淫しなくても、他の共犯者と同様、強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)の共同正犯の責を負うべきものである
  • 被告人Aは被告人Bと被害者Kを強姦しようと共謀したのであるから、たとい被告人Aの右所為が強姦罪を構成しないとしても、被告人BにおいてKを強姦し、その際にKに傷害を与えた以上、被告人Aもまた等しく強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)の共同正犯の責を負うべきである

と判示しました。

承継的共同正犯は致傷の責任を負うか否か

 判例は、強制性交等罪について、承継的共同正犯(先行者の強制性交行為を利用して後行者が強制性交罪を犯す場合をいう)の成立を認めています。

 ここで、後行者の参加前の先行者の行為によって死傷の結果が生じた場合及び先行者・後行者いずれの行為によって結果が生じたか不明の場合に、強制性交等致傷罪が成立するか否かの判断は分かれます。

① 承継的共同正犯の事案で強制性交等致傷罪は成立しないとした判例の考え方

広島高裁判決(昭和34年2月27日)

 後行者の責任は、介入後の行為についてのみ発生すると解する立場から、致傷の結果が先行者・後行者いずれの行為によって生じたか不明であるとして両者について強姦罪のみの成立を認めた事例です。

 複数の者が被害女性に対し強制性交をしていたところに、被告人が後から加わり、強制性交した行為について、裁判官は、

  • 先行者によって既に開始された犯罪実行の中途からこれに介入した者の責任は、その介入後の行為についてのみ発生するものと解すべきである
  • 本件においても被告人は共謀関係成立後の犯行についてのみ責任を負い、それ以前の他の者の犯行については責任を負わないものといわなければならない
  • したがって、被告人に強制性交等致傷の責任を負わせるには、各致傷の結果が被告人の共謀関係成立後の強姦行為によって生じたものであることが立証されなければならない
  • しかるに、右各致傷の結果が本件一連の強姦行為中に生じたものであることは前段認定のとおりであるけれども、果してそのいずれの段階において生じたものであるかは証拠上全く不明である
  • それゆえ、被告人については強姦の範囲内においてのみ責任を問い得るに止まり、致傷の結果に ついてまで責任を問うことはできない
  • してみれば、被告人にの各強姦致傷(現行法:強制性交等致傷)の罪責を認めた原判決は前提たる事実を誤認したか、あるいは共犯における共同責任についての法律の解釈適用を誤ったものというのほかなく、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法第397条第1項第382条第380条の破棄事由に該当するものと解される

と判示し、強制性交罪の中途から介入した被告人の責任は、その介入後の行為についてのみであるとした上、被害者の致傷の結果がいつ生じたか不明であるならば、被告人に対し、強制性交等致傷罪の共同正犯の責任までを負わせることはできないとしました。

岡山地裁津山支部判決(昭和45年6月9日)

 承継的共同正犯において、後行者に承継前における先行者の行為について認識・認容がなかったとして後行者については承継後におけるもののみについて刑責を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 先行者による犯行遂行途上からこれに加担した後行者の責任は、その加担後の行為についてはもとより、加担前の先行者の行為であっても後行者においてそれを認識認容して自己の犯罪行為の内容に取り入れ、これを利用しようとする意図が認められるときには、右加担前の行為についてもおよぶべきものといえるけれども、後行者が認識していないときには、その責任はこれにまでおよばないものと解するのを相当と考える
  • これを本件についてみると、前記のとおり、被告人Yは、本件犯行に加担した当時被告人Kのその以前の暴行によつて生じている傷害の結果については全く気付いていなかったのであるから、被告人Yに対しては、この点を含めた責任を問うことはできないものといわねばならない

と判示し、後行者である被告人Yに対し、強制性交等罪は成立せず、強制性交罪の範囲で承継的共同正犯が成立するとしました。

② 承継的共同正犯の事案で強制性交等致傷罪の成立を認める場合の考え方

 承継的共同正犯が成立すると認められる事案においては、共同正犯の原則に従い、いずれの行為によって結果が生じたかを問わず、全員について本罪が成立すると解することもできるとされます。

 この考え方について、強盗傷人罪の事例ですが、以下の判例が参考になります。

札幌高裁判決(昭和28年6月30日)

 先行者が強盗の目的で被害者を殴って傷害を与え、金品を強取しようとしている際に、後行者が先行者と協力して金品を奪った事案につき、強盗致傷罪は強盗の結果的加重犯であって単純一罪を構成するものであるから、先行者が強盗の目的で暴行を加えた事実を認識してこの機会を利用し、互いに意思連絡のうえ金品を強取したときは、たとえ後行者が先になした暴行の結果生じた傷害につき認識がない場合でも、強盗傷人罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第240条前段の罪は、強盗の結果的加重犯であって、単純一罪を構成するものであるから、他人が強盗の目的をもって暴行を加えた事実を認識して、この機会を利用し、ともに金品を強取せんことを決意し、ここに互いに意思連絡の上、金品を強取したものは、たとえ共犯者が先になしたる暴行の結果生じたる傷害につき、なんら認識なかりし場合といえども、その所為に対しては、強盗傷人罪の共同正犯をもって問擬(もんぎ)するのが正当である
  • 被告人は、Aほか1名と飲酒して札幌市ab丁目の電車通を相前後して通行中、Aが金品強取の目的をもって通りかかったBの顔面を殴打し、「金を出せ」と要求しているのを知って、自己もこの機会を利用して金品を強取せんことを企て、直ちにAと協力し、ここにAと意思連絡の上、まずBからB所持の金700円を奪い、更にAがBの左腕を抑え、被告人がBのはめていた腕時計を外してこれを強奪し、その際、Aの暴行によりBの右眼部に治療1週間を要する打撲傷を負わしめた事実を認める
  • しからば、被告人の所為は、冒頭説示の理由により、強盗傷人罪の共同正犯にあたることもちろんである

と判示しました。

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