刑法(傷害致死罪)

傷害致死罪(12) ~傷害致死罪における違法性阻却事由①「私的領域における行為(家族内トラブル)の違法性阻却」を判例で解説~

 これから複数回にわたって、傷害致死罪(刑法205条)における違法性阻却について説明します。

違法性阻却事由とは?

 犯罪は

  • 構成要件該当性
  • 違法性
  • 有責性

の3つの要件がそろったときに成立します。

 犯罪行為の疑いがある行為をしても、その行為に違法性がなければ犯罪は成立しません。

 この違法性がない事由、つまり違法性がないが故に犯罪が成立しないとする事由を「違法性阻却事由」といいます。

 違法性が阻却される主な行為として、

  1. 正当防衛
  2. 緊急避難
  3. 法令行為
  4. 正当業務行為
  5. 自救行為
  6. 被害者の承諾による行為
  7. 被害者の推定的承諾による行為
  8. 労働争議行為

が挙げられます。 

(この点については、前の記事で詳しく説明しています)

傷害致死罪における違法性阻却事由

 傷害致死罪について、違法性の阻却が問題となる場合が多い主なものに、

  • 私的領域(家族内トラブル)における行為
  • 懲戒権行使(監督者による罰)
  • 被害者の承諾
  • 治療行為
  • 正当防衛
  • 緊急避難

が挙げられます。

 行為が適法であるため、違法性が阻却されるか否かは、具体的場合に応じ、違法性阻却の一般原則に従って、社会的相当性を有するか否かの見地から判断されます。

私的領域における行為(家族内トラブル)の違法性阻却

 今回の記事では、違法性阻却事由となる「私的領域(家族内トラブル)における行為」について説明します。

 「法は家庭に入らず」の法諺にあるように、法は、極く私的な領域には立ち入らないことになっています。

 なので、家庭内における軽微な暴行・傷害事案の場合は、法が介入しないこともあります。

 しかし、傷害致死の場合は、死亡という重大な結果を生じているため、法が介入しないということはあり得ないでしょう。

 そして、傷害致死行為が、「私的領域における行為」として、その違法性が阻却され、無罪が言い渡されることもないでしょう。

 傷害致死罪において、私的領域(家族内トラブル)における行為の違法性の有無が問題となった判例を紹介します。

最高裁判決(昭和32年2月26日)

 夫婦喧嘩の末、夫の暴行により妻がショック死した事案において、裁判官は、

  • 被告人の所為は、たとえ被害者が被告人の妻であっても、その意思に反する重大なものであること明らかで違法である

と判示しました。

広島高裁岡山支部判決(昭和40年10月9日)

 妻の後頭部を殴打して死亡させた行為について、裁判官は、

  • 善良な風俗に反しないものであって許された行為であるということは、到底首肯し得ない

と判示し違法性を認め、傷害致死罪が成立するとしました。

次回記事に続く

 次回の記事では、「懲戒権の行使(監督者による罰)」に関する違法性阻却について説明します。

傷害致死罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

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