刑法(傷害致死罪)

傷害致死罪(23) ~「傷害致死罪の罪数(被害者の人数に応じて成立するなど)」「傷害致死罪と死体遺棄罪は併合罪になる」を判例で解説~

傷害、傷害致死の罪数

 傷害致死罪の罪数について説明します。

傷害致死罪は、被害者の人数に応じて成立する

 暴行による傷害致死、傷害の場合、被害者の数の傷害致死罪(又は傷害罪)が成立し、それらは併合罪の関係に立ちます。

 たとえば、けんか事案で、被告人が、まずAを殴って死に至らせ、次に、Bを殴って死に至らせた場合、Aに対する傷害致死罪とBに対する傷害致死罪のニ罪が成立します。

 そして、2つの傷害致死罪はそれぞれ併合罪になります。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和46年5月24日)

 共同正犯が被害者2名に暴行を加えて死傷に致した事案で、裁判官は、

  • 共同正犯は二人以上の者が一定の犯罪を実現するため共同加功の意思のもとに共同加功することにより成立する犯罪の形態であって、他の共犯者の行為も自己がしたと同様の法律上の評価を受けるものであるから、共同正犯である数人がそれぞれ実行行為に及んだ本件のような場合における共犯者の各自の罪数は、あたかも単独犯が時を接した数個の行為によって同一の機会に数人に対して暴行を加えた場合と同視すべきものである
  • 被告人Kは、共同正犯者らとともに意思を相通じ、右共犯者が共同一体となって被害者GおよびSに対し、同一の機会に多数回にわたる暴行を加え、その結果、Gを傷害にもとづく失血により死亡するに至らせ、Sに対し、傷害を負わせたのであるから、共犯者各自について、それぞれGに対する傷害致死の罪とSに対する傷害の罪とが成立し、両名は併合罪の関係に立つと解するのが正当である

と判示し、被害者ごとに傷害致死罪又は傷害罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

被害者が複数人いても、1個の傷害致死罪が成立する場合がある(観点的競合の場合)

 1回の暴行行為で、複数人の被害者を一度に死に至らしめた場合は、観念的競合として、1個の傷害致死罪が成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和26年9月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • メチルアルコール入りドラム缶を売り渡した結果、これを飲用した数人が死亡又は傷害を負った場合、傷害致死、傷害の各所為一所為数法(※観点的競合のこと)の関係とみるのが相当である

と判示し、傷害と傷害致死罪の成立個数について、1個の行為で複数の被害者に死傷の結果をもたらしたことから、観念的競合として、複数の被害者に対する傷害罪と傷害致死罪はまとめて一罪になるとしました。

同一被害者に対する暴行について、傷害罪と殺人罪の二罪が成立する場合がある

 同一日の同一被害者に対する加害事案について、傷害罪と殺人罪の二罪が成立し、両罪は併合罪となるとした判例があるので紹介します。

浦和地裁判決(平成3年3月22日)

 制裁ないし報復の意図のもとに殺意なくして被害者に暴行を加え重傷を負わせたのち、死んだと思った被害者が生きているのを知ってその報復を怖れる余り被害者の殺害を決意し、被害者を他の場所へ拉致して殺害した事案で、傷害罪と傷害致死罪のニ罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • Aらは、被害者Cの傍若無人な言動を知らされて憤激し、暴力団組長の指示もあって、Cに制裁ないし復讐しようとする意思のもとに、大挙してCに押しかけ、Cを路上(第一現場)に呼び出して激しい暴行を加えたが、大きな物音がしたため、発見を怖れて、急きょ、付近の駐車場(第二現場)に場所を変え、同所においても引き続き激しい暴行を加えたところ、死んだかと思ったCが「死なねえよ。」などと声を発したことから、そのたくましい生命力に怖をなし、Cの報復から身を守るためには、いっそのことCを殺害してしまうほかないと決意するに至り、その旨意思あい通じた上、Cの両手首を鎖で後ろ手に縛り、車のトランクに押し込んで、約4キロメートル離れた土手上(第三現場)に運び、土手下に蹴り落とした末、Cを川水に沈めて溺水のため窒息させて殺害したというものである
  • これによると、第一現場の行為と第二現場での行為は、単に、物音がしたため犯行の発見を恐れて場所を変えたというにすぎず、犯意継続の上、引き続いて行われた一連の同種暴行行為であって、これを包括して一個の暴行と解することに何らの妨げはないと認められる
  • しかし、第二現場での暴行終了後の行為は、その後発生たCの殺害という新たな目的に向けて行われたものである上、その動機・目的は、Cの「報復を怖れて」というもので、それまでの「制裁ないし復讐のため」とは明らかに異質である
  • また、現実の殺害行為は、第二現場から場所的にも約4キロメートル離れた場所で、しかも、それまでの暴行とは全く異質な手段・方法により行われたものであって、これらの点からすると、右は、第一、第二現場での犯行(傷害罪)から発展して行われた、同一被害者に対する有形力行使を内容とするものではあっても、主観・客観の両面からみて、これとは異質な別個独立の犯罪(罪人罪)として、併合罪を構成すると解すべく、両者を包括一罪の関係に立つと解することはできない

と判示し、傷害罪と傷害致死罪のニ罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

傷害致死罪と死体遺棄罪とは併合罪になる

 傷害罪致死罪と死体遺棄罪刑法190条)の関係について説明します。

 傷害致死罪と死体遺棄罪とは、併合罪の関係になることが、以下の判例で示されています。

最高裁判決(昭和34年2月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 死体遺棄の行為は、常に必ずしも傷害致死の行為に伴うものではなく、身体傷害により人を死に致した後、さらに死体を遺棄するにおいては、傷害罪のほかに死体遺棄罪を構成することもちろんである

と判示し、傷害致死罪と死体遺棄罪が併合罪の関係になることを示しました。

 なお、死体遺棄罪以外の罪と、傷害致死罪の罪数の関係の考え方は、傷害罪の場合の考え方と同様になります(前の記事参照)。

傷害致死罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

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