刑法(過失致死罪)

過失致死罪⑴ ~「過失致死罪とは?」「過失致死罪は親告罪ではない」「法定刑」「罪数」を解説~

 過失致死罪(刑法210条)について、2回にわたり解説します。

過失致死罪とは?

 過失致死罪(刑法210条)は、単純な過失によって人を死亡させた者に対する処罰を規定したものです。

 「業務上過失」「重過失」によって人に傷害を負わせた場合には、刑法211条業務上過失致死罪重過失致死罪)の処罰の対象となります。

 また、単なる過失を含め、自動車運転上の過失によって人に傷害の結果を負わせた場合には自動車運転死傷行為処罰法5条(過失運転致死罪)の処罰の対象となります。

 したがって、本条で処罰されるのは、「業務上過失」「重過失」に当たらない単純な過失のうち自動車運転上の過失以外の過失によって人を死亡させた場合に限られます。

 つまり、過失により人を死亡させた行為のうち、

  • 業務上過失致死ではない
  • 重過失致死ではない
  • 過失運転致死罪ではない

ことが検討された後に、過失致死罪の成立が認められるという思考過程になります。

 この点の考え方は、過失傷害罪(刑法209条)と同様です(前の記事参照)。

過失致死罪は過失傷害罪とは異なり、親告罪ではない

 過失致死罪は親告罪ではありません。

 親告罪とは、告訴をしなければ、犯人を裁判にかけることができない犯罪をいいます(前の記事参照)。

 これに対し、過失傷害罪は親告罪です(前の記事参照)。

 過失傷害罪が親告罪なのに、過失致死罪が親告罪でない理由は、過失致死罪は、人の死亡という重大な結果を発生させるものであるためです。

 過失致死罪は、人の死亡という発生した結果の重大性から、被害者(被害者親族)の告訴がなくても、刑事事件と立件し、裁判にかけることができるようになっています。

過失致死罪の行為

 過失致死罪の処罰の対象となる行為は、過失によって人を死亡させることです。

 過失の意味については、過失傷害罪の過失と同様です(前の記事参照)。

 過失致死罪の行為の内容は様々です。

 たとえば、過失致死罪の例として

  • 母親が授乳中に睡眠したため、赤ん坊の鼻と口を乳房でふさぎ、窒息死させる行為
  • 誤って他人に有害な食べ物を飲食させ、死亡させる行為

などが挙げられます。

法定刑

 過失致死罪の法定刑は50万円以下の罰金です。

 罰金以下の刑しかないため、簡易裁判所の専属管轄となります(この点は過失傷害罪と同様、詳しくは前の記事参照)。

罪数

 1個の注意義務違反の行為によって複数の人が死傷した場合は、負傷者の数の過失傷害罪と死亡者の数の過失致死罪が成立し、その全部が観念的競合となります。

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