刑法(殺人罪)

殺人罪(40) ~「殺人罪と①殺人予備罪、殺人未遂罪、②同意殺人罪、③内乱罪、④騒乱罪、⑤器物損壊罪、⑥強盗罪、⑦住居侵入罪との関係」を解説~

 殺人罪と

  1. 殺人予備罪、殺人未遂罪
  2. 同意殺人罪
  3. 内乱罪
  4. 騒乱罪
  5. 器物損壊罪
  6. 強盗罪
  7. 住居侵入罪

との関係を説明します。

① 殺人予備罪、殺人未遂罪との関係

 殺人罪(刑法199条)が成立するときは、殺人予備罪刑法201条)、殺人未遂罪は、殺人罪に吸収されます。

② 同意殺人罪との関係

 同意殺人罪刑法202条)は、殺人罪に対する特別規定なので、殺人罪が成立するときは、同意殺人罪は成立しません。

③ 内乱罪との関係

 内乱に伴う殺人行為は、 内乱罪刑法77条)に吸収され、内乱罪とは別に殺人罪を構成しません。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和10年10月24日)

 既に廃止された海軍刑法の反乱罪に関する判例です。

 裁判官は、

  • 反乱罪における反乱行為の際、人を殺害し、又は手榴弾のごとき爆発物を使用する行為は、性質上、当然反乱行為に包括吸収されるものにして、殺人及び爆発物取締罰則違反の想像的競合犯(※観念的競合)を構成せず

と判示しました。

④ 騒乱罪との関係

 騒乱罪刑法106条)の場合は、内乱罪と異なり殺人罪を吸収せず、多衆集合してなした暴行脅迫が、一面で騒乱罪にあたり、他面で殺人罪に触れる場合には、騒乱罪と殺人罪が成立し、各罪は観念的競合となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正8年5月23日)

 裁判官は、

  • 多集の集合による暴行脅迫をもって構成する包括的一個の行為が、他面、騒乱に当たり、他面において連続する住居侵入および恐喝の罪又は単一の殺人罪に触れる場合においては、刑法第54条第1項前段(※観念的競合の規定)、第10条により処断すべきものとす

と判示しました。

⑤ 器物損壊罪との関係

 殺人の際に、被害者の着用していた衣服を損壊した場合、器物損壊罪刑法261条)は殺人罪に吸収され、別に器物損壊罪を構成しないと解されています。

 この場合、少なくとも損壊された器物は殺人被害者本人の所有に属することが前提であると考えられます。

 殺害行為の際に、殺人被害者本人以外の物を損壊した場合は、殺人罪とは別に、器物損壊罪が成立すると考えられます。

⑥ 強盗罪との関係

 強盗犯人が、殺意をもって被害者を殺害し、財物を強取した場合は、強盗殺人罪刑法240条)が成立し、別に殺人罪は成立しません。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正11年12月22日)

 裁判官は、

  • 強盗殺人の行為については、刑法第240条のみを適用すべきものにして、これに併せて同法第199条及び第54条を適用すべきものにあらず
  • 強盗、人を殺そうとして遂げざるときは、刑法第243条の規定により、第240条の未遂罪として処罰すべきものとす

と判示し、強盗が人を殺そうとしたが未遂に終わった場合、強盗殺人未遂罪で処罰すべきとしました。

強盗殺人の行為終了後、新たな決意に基づき、別の機会に人を殺した場合

 強盗殺人の行為終了後、新たな決意に基づき、別の機会に人を殺した場合は、強盗殺人罪とは別に殺人罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和23年3月9日)

 この判例は、強盗殺人の行為終了後、新たな決意に基づき、別の機会に人を殺したときは、時間的に強盗殺人行為に近接し、その犯跡隠蔽するために行われた場合であっても、別個独立の殺人罪を構成し、これを先の強盗殺人行為と包括的に観察して一個の強盗殺人罪とみることは許されないとした事例です。

 被害者Fほか2名に対する強盗殺人を実行後、犯人らが犯行の発覚を防ぐために、顔を見知られた被害者Gの殺害を共謀し、約5時間後に被害者Gを誘い出して殺害した場合には、新たな決意に基づく別個の殺人行為であり、強盗殺人罪ではなく、殺人罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第240条後段の強盗殺人罪は、強盗たる者が、強盗をなす機会において、他人を殺害することにより成立する犯罪であって、一旦、強盗殺人の行為を終了した後、新な決意に基づいて別の機会に他人を殺害したときは、右殺人の行為は、たとえ時間的に先の強盗殺人の行為に接近し、その犯跡隠ぺいする意図の下に行われた場合であっても、別箇独立の殺人罪を構成し、これを先の強盗殺人の行為と共に包括的に観察して1個の強盗殺人罪とみることは許されないものと解すべきである
  • 強盗殺人の行為をした後、先の犯行の発覚を防ぐため改めて共謀の上、数時間後、別の場所において人を殺害したこと明白であるから、前記の法理により被告人らが被害者Gを殺害した行為は、被害者Fほか2名に対する強盗殺人罪に包含せられることなく、別個独立の殺人罪を構成するものといわなければならない

と判示し、被害者Fほか2名に対する強盗殺人罪と被害者Gに対する殺人罪が成立するとしました。

強盗殺人が失敗に終わり、逃走する際に、被害者の物を奪って逃げた場合

 殺意をもって暴行を加えたが、殺害の目的を達せず逃走しようとするにあたり、その場にあった被害者の占有する財物を奪って逃走したときは、強盗の機会に被害者に暴力を振るっていないので、強盗殺人未遂は成立しません。

 この場合、殺人未遂罪と窃盗罪の二罪が成立し、両罪は併合罪になります。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和35年12月14日)

 裁判官は、

  • 強盗の目的をもって、その手段として人を殺害したときは、強盗殺人罪を構成(もし殺人が未遂に終ったときは強盗殺人未遂罪を構成)することは明らかであるが、殺意をもって暴行したが殺害の目的を達せずして逃走せんとするに当たり、その場にあった被害者の占有する財物を侵奪して逃走したときは、殺人未遂罪と窃盗罪のニ罪を構成するものであって、強盗殺人未遂罪を構成するものとはいえない

と判示しました。

⑦ 住居侵入罪との関係

 他人の住居に侵入して殺人行為を実行した場合は、殺人罪と住居侵入罪(刑法130条)が成立し、両罪は牽連犯になり、一罪になります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和29年5月27日)

 1個の住居侵入行為と3個の殺人行為とがそれぞれ牽連犯の関係にある場合には、一罪としてその最も重い刑(殺人罪)に従って処断すべきであるとしました。

大審院判決(明治43年6月17日)

 裁判官は、

  • AがBを殺害しようと企て、Cの住宅に侵入して、その目的を遂げたるときは、右の家宅侵入の所為は、殺人行為の手段なるが故に、刑法第54条(※牽連犯の規定)を適用して、これを処分すべきものとす

と判示し、この場合、住居侵入罪と殺人罪は牽連犯となるとしました。

大審院判決(明治44年12月21日)

 裁判官は、

  • 家宅侵入の行為は、殺人未遂罪を犯すの手段なるをもって、家宅侵入の点に対し、刑法130条を適用し、かつ、殺人未遂罪との関係上、同法第54条第1項後段を適用処罰すべきものとす

と判示し、住居侵入罪と殺人罪は牽連犯となるとしました。

大審院判決(大正12年11月10日)

 裁判官は、

  • 人の住居に侵入して、これを傷害死に至らしめ、又はこれを殺害する場合においては、手段結果の関係ある牽連犯を生ずるものとす

判示しました。

住居侵入の後、偶発的に殺人行為を行った場合

 住居侵入の後、偶発的に殺人行為を行った場合でも、住居侵入と殺人罪とは牽連犯になることを判示した判例があります。

大審院判決(昭和5年1月27日)

 裁判官は、

  • 他人の住居に侵入したる後、偶発的に殺人行為を行いたるときといえども、住居侵入は殺人罪の手段たるものとす

と判示し、住居侵入の後、偶発的に殺人行為を行った場合も、住居侵入と殺人罪とは牽連犯になるとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、殺人罪と

  1. 放火罪
  2. 失火罪
  3. 汽車電車転覆致死罪、艦船転覆罪・沈没致死罪
  4. 航空機強取等致死罪

との関係を説明します。

①殺人罪、②殺人予備罪、③自殺教唆罪・自殺幇助罪・嘱託殺人罪・承諾殺人罪の記事まとめ一覧