刑法(公然わいせつ罪)

公然わいせつ罪(2) ~「わいせつ行為の意義」を判例で解説~

わいせつ行為の意義

 公然わいせつ罪(刑法174条)における「わいせつ」について説明します。

 わいせつ行為の意義については、以下の高裁判決で示さています。

大阪高裁判決(昭和30年6月10日)

 裁判官は、

  • わいせつの行為とは性欲の刺げき満足を目的とする行為であって、他人に羞恥の情を懐かしめる行為をいう

と述べました。

東京高裁判決(昭和27年12月18日)福岡高裁判決(昭和27年9月17日)

 裁判官は、

  • わいせつ行為とは、その行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと解するのを相当とする

と述べました。

 なお、刑事罰によって禁止する「わいせつな行為」を決定する基準は、その時代における平均的な通常人あるいは―般人の倫理観や価値観に求めざるを得ないとされます。

 時代の変遷に応じ、平均的な通常人あるいは一般人の性に関する倫理観や価値観も変化するため、それぞれの時代において、具体的にどのような行為がこの定義に該当するかという点もまた変化するのは当然であるとされます。

わいせつ行為に該当するか否かは、行為者自身やこれを見た者が現実に性的羞恥心を害されたか否かによって判断されるものではない

 わいせつ行為に該当するか否か…、上記判例の表現で言い換えれば、当該行為が正常な性的羞恥心を害するものか否か、あるいは善良な性的道義観念に反するものか否かは、その時代における平均的な通常人あるいは一般人を基準として判断されるべき事柄です。

 なので、行為者自身やこれを見た者が現実に性的羞恥心を害されたか否かによって判断されるべき事柄ではありません。

 たとえば、露出狂は、自己の性的な満足を得るためにわいせつな行為に及ぶのが通常であるので、自己の行為によって自己の性的な羞恥心を害していないとしても、そのことが公然わいせつ罪を否定する事情にはなりません。

 また、ストリップショーの観客は、性的な満足・快楽を得ようとしてそのようなショーの観覧者となっているので、観客がそのようなショーを見て羞恥の情あるいは嫌悪の情を抱いていなかったとしても、そのことが公然わいせつ罪の成立を否定する事情にはなりません。

わいせつな行為に該当するとされた行為

 わいせつな行為に該当するとされた行為として、以下のものがあります。

① 約200名の観客を前にし、電灯の照明により薄い幕を通して透いて見える舞台上で「モデル」と称する女性が全裸となり、陰部までも露出した姿で約1分30秒間ポーズを取って立っていた行為(最高裁判決 昭和25年11月21日)

キャバレー内のホールにおいて、数十名の観客の前で全裸となり陰部を露出しながら両足を交互に挙げるなどした行為(東京高裁判決 昭和27年12月18日

③ 女性2名が張り形を用いて行う俗に「白白」と称する性交実演、及び俗に「花電車」と称する演技(最高裁決定 昭和32年5月22日)

④ 「のぞき」と称し、密室内で性交実演を見物させる行為(大阪高裁判決 昭和30年6月10日

キスや乳房の露出はわいせつ行為に該当しない

 上記事例から分かるとおり、性器を露出する行為、性交行為は、わいせつな行為に該当します。

 これに対し、接吻(キス)や乳房の露出は、それのみでは、わいせつな行為ではないとされます。

わいせつな行為に該当しないとされた行為

 わいせつな行為に該当しないとされた行為として、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和29年11月30日)

 被告人両名が飲酒した上、道路を歩いていた際、馴染みのある女給と出会い、これをからかった挙げ句、付近の店舗に逃げ込んだ同女を追いかけて同店舗に入り、同女に抱きついた上、仰向けに倒れた同女の上に乗りかかった行為について、わいせつ性を否定した事例です。

 裁判官は、

  • 仰向けに倒れている女子の上に2人の男子が前後に相接着して馬乗りになるという行為自体は、普通の性的行為を実行する体勢ではなく、また直ちに性的行為を連想せしめる行為でもない
  • 被告人らの行為は飲酒酩酊の上、かねてから馴染みの間柄である被害者に一方的に悪ふざけをしたにすぎないものと認められ、いまだわいせつ行為であると断ずる程度に達しないものと認めるのが相当である

とし、公然わいせつ罪の成立を否定し、暴行罪を認定しました。

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公然わいせつ罪(2) ~「わいせつ行為の意義」を判例で解説~

公然わいせつ罪(3) ~「故意」「既遂時期」「罪数」を判例で解説~

公然わいせつ罪(4) ~「共同正犯」「幇助犯」を判例で解説~