刑法(強盗予備罪)

強盗予備罪(3) ~「強盗予備罪の行為の内容」を判例で解説~

強盗予備罪の行為の内容

 強盗予備罪(刑法237条)の行為は、

強盗の目的をもって、強盗の予備をすること

です。

 判例では、強盗予備罪の行為について、

強盗予備の行為とは行為者が金品の強奪を企てこれが着手を準備する行為をいう

と判示しており、強盗罪の実行の着手の準備行為をすることが、強盗予備罪の行為であると定義しています(名古屋高裁金沢支部判決 昭和30年3月17日)。

強盗予備罪の行為の具体例

外部に表出される強盗の準備行為は処罰の対象になる

 強盗の準備行為には、

  • 計画を図面に作成する行為
  • 被害者の住所・電話番号を調べる行為
  • 現場の下見をする行為
  • 凶器を買い求め、借り受け、盗む等して準備する行為
  • 現実に犯行現揚に赴く行為
  • 凶器を準備して被害者を物色する行為

など、外部に行為として現れる行為が挙げられます。

 そのほか、共犯者がいる場合には、

  • 共犯者を求める行為
  • 共犯者と分担を決めるなど計画を検討する行為

が挙げられます.

 強盗の準備が計画図面に作成され、あるいは、被害者の日常生活の状態や家屋の構造を調べ、あるいは逃走経路を調べるという行為にいたった場合は、強盗の実行の着手の準備として、外部に表出される客観的行為であり、かつ、その行為が綿密なら綿密なほど危険性の極めて高い行為であるから、その処罰の必要性は十分にあるといえます。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(昭和39年5月30日)

 破壊活動防止法39条(政治目的の殺人予備〕の事案で、裁判官は、

  • 予備行為自体に、その達成しようとする目的(いわば、本来の犯罪の実現)との関連において、相当の危険性が認められる場合、すなわち、その犯罪の実行に着手しようと思えば、いつでもそれを利用して実行に着手しうる程度の準備が整えられたときに、予備罪が成立すると解するのが相当である

と判示し、予備罪の成立が認められる基準として、『犯罪の実行に着手しようと思えば、いつでもそれを利用して実行に着手しうる程度の準備が整えられたとき』であることを示しました。

内面的な強盗の準備行為は処罰の対象にならない

 上記のような外面的な準備行為は処罰の対象になりますが、内面的な準備行為、たとえば、

  • 強盗の決意を固め、自分自身の内面において計画を練る行為

などは処罰の対象になりません。

 刑法には、人が頭の中で考えただけのことを処罰する規定はありません。

 頭の中で殺人や強盗を実行することを考えても、考えるだけであれば法律に触れることはりません。

 なので、強盗の着手の準備が、行為者の内面にとどまり、外部に表出されない行為の場合には、人の意思を処罰することはなし得ないので、処罰の対象となりません。

強盗予備罪を認定した判例

 強盗予備罪を認定した判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年12月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人を脅迫して金品を強奪しようと共謀し、これに使用するため、出刃包丁、刺身包丁、ジャックナイフ及び懐中電燈を買求め、これを携えて姫路城桜門付近を俳徊したというのであって、強盗予備罪の構成事実として何ら欠くるところはない

と判示し、金品の強奪を企て、これに使用するため、出刃包丁、刺身包丁、ジャックナイフ、懐中電灯を購入し、これを持って徘徊する行為について、強盗予備罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和24年9月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗の予備罪は、他人と共謀の上、強盗の目的をもって凶器を携えて目的地に向け出発するをもって、その犯罪はすでに成立するものであって、現実に目的地に到達し、又は到達後、更に押し入って強盗を働く機会をうかがうごとき行為をなすの要あるものではない

と判示し、強盗目的で凶器を携え、目的地に出発する行為について、強盗予備罪の成立を認めました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和30年3月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗予備の行為とは、行為者が金品の強奪を企て、これが着手を準備する行為をいうものと解すべきである
  • 被告人は、S、Tと共謀の上、拳銃等を携帯し、これらを使用して進行中の貨物自動車を襲い、自動車運転者等に暴行又は脅迫を加えて、その反抗を抑圧した上、貨物自動車および積載貨物の強奪を企て、拳銃1丁並びに実包6発を携帯し、貨物自動車を物色しながら徘徊したものである
  • 被告人は、Sと共謀の上、拳銃等を携帯し、これを使用して強盗をなす目的で、拳銃並びに実包を携帯し、原判示の場所を徘徊したものであって、いずれも強盗の着手を準備したものというべきである
  • 従って、原判決が被告人の所為を強盗の予備をしたものと認定したのは正当である

と判示し、貨物自動車を襲うため、拳銃と実包を携え、貨物自動車を物色しながら徘徊する行為について、強盗予備罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和25年4月17日)

 この判例は、拳銃を携えて被害者方の塀を乗り越えた行為について、強盗予備罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 本件の住居侵入は、強盗予備行為に吸収されるのであるというに帰着するが、強盗予備罪は場合によっては、他人の家に強盗に押し入る目的をもって短刀を購入する等の行為によって成立するものであって、常に必ずしも住居侵入を伴うものではない
  • 原審は、被告人がほか2名と強盗しようと共謀し、拳銃1丁を携えて被害者方の塀を乗り越えて同人の看守する同邸宅に侵入した事実を認定し、右被告人らの行為を一面強盗予備罪に該当すると同時に、多面住居侵入に当たるものと認定したものであって、正当であるといわなければならない
  • もし住居侵入が常に強盗予備の中に吸収されるものとすれば、強盗予備罪の法定刑は2年以下の懲役であるのに、住居侵入罪の法定刑は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金であって、法定刑の軽い強盗予備罪が法定刑の重い住居侵入罪を吸収するということになり、結果から見ても妥当を欠くことになるのである

と判示し、住居侵入罪と強盗予備罪を実行した場合、両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

最高裁判決(昭和29年1月20日)

 凶器を携帯して被害者宅に赴き、表戸を叩いて家人を起こす行為について、裁判官は、

  • 被告人が強盗をしようとして相被告人(共犯者)らと共に、強盗予備の行為をした事実は十分これを認めることができる
  • 故に強盗の意思がなかったとの(弁護人の)主張は理由がなく、また予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものであるから、被告人の所為は中止未遂であるとの主張もまた採ることを得ない

と判示し、強盗予備罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和32年5月31日)

 この判例は、売上金を強奪するために着用している革バンドでタクシー運転手の首を絞める意思でタクシーに乗り、運転を命じて犯行の機会をうかがう行為について、強盗予備罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 犯罪の予備とは、犯罪実行行為に時間的に先行し、将来の実行を可能にし、促進し、又は容易にする行為をいい、換言せば、その成立のためには犯罪を遂行しようとする意思の実現に向けられた実行の着手に至らない程度及び段階の外部的な行為が存在しなければならない
  • 被告人は、所持金が60円位しかなくなったので、自己の着用しているズボンの革バンドで運転者の首をしめて脅かし金員を取ろうと決心して、折から被害者Aの運転するタクシーを呼び止め、その車に乗って運転を命じ、途中、暗い所で右犯行を実行しようとその機をうかがっていたが、遂にその機会を発見するを得ず、青山一丁目の交差点付近まで行ってしまったものである事実をうかがうことができる
  • 被告人は、金員強取の手段として、自己の着用しているズボンの革バンドを使用することを決心して、そのまま実行の目的物件たる乗用自動車に乗ったこと、実行の機会を物色しつつ自動車を運転させたこと等によって、被告人の自動車運転者を脅かして金員を強取しようとする決意が、その犯罪実行の前段階として、これを可能容易ならしめる諸々の準備的な段階における動作にまで発展して行ったものであることが認定できるのである
  • この行動は前に述べた意味において、強盗の予備を構成するものと解するのが相当である

と判示し、強盗予備罪の成立を認めました。

強盗目的がなかったとして、強盗予備罪の成立を否定した判例

 強盗目的がなかったとして、強盗予備罪の成立を否定した以下の判例があります。

大阪高裁判決(昭和43年11月28日)

 この判例は、飲み足りないのに金がなく、気がくしゃくしゃするので、強盗でもして金を作ってやろうという気持ちで包丁を飯場内で持ち出した行為について、強盗目的が具体的に存在しなかったとして、強盗予備罪の成立を否定しました。

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