刑法(強盗予備罪)

強盗予備罪(4) ~「強盗予備罪に中止未遂は成立しない」を判例で解説~

強盗予備罪に中止未遂は成立しない

 強盗予備罪(刑法237条)を犯した者が、目的とする強盗の実行着手前に、その実行の犯意を放棄した場合に、予備罪の中止未遂を認めるかどうかが問題となります。

 なお、中止未遂は、『必ず刑が減軽または免除される』ため、中止未遂が成立することは、犯人にとって有利となります。

 結論として、判例は、

  • 強盗予備罪が既遂に達している以上、その後の強盗行為を中止したからとって、強盗予備罪が中止未遂となるものではない
  • 強盗予備罪には、中止未遂の観念を容れる余地がない

という立場を採っています。

最高裁判決(昭和24年5月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原審の認定したクロールエチール(麻酔薬)の買入、A、B、Cらを仲間に引き入れた事実、日本刀の入手等によって、既に予備としては既遂になっているのである
  • 従って、それ以後の行為を中止したからといって未遂にはならない
  • 原審が中止未遂の法条を適用しなかったのは当然である

と判示し、強盗予備罪が既遂に達している以上、その後の強盗行為を中止したからとって、強盗予備罪が中止未遂となるものではないとしました。

最高裁判決(昭和29年1月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が強盗をしようとして相被告人(共犯者)らと共に、強盗予備の行為をした事実は十分これを認めることができる
  • 故に強盗の意思がなかったとの(弁護人の)主張は理由がなく、また、予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものであるから、被告人の所為は中止未遂であるとの主張もまた採ることを得ない

とし、強盗予備罪には、中止未遂の観念を容れる余地がないと明確に判示しました。

 なお、学説においては、強盗予備から実行の着手に進んだ後、自らの意思で強盗を中止した場合、強盗予備罪が吸収される関係から、中止未遂として、その刑が必要的に減軽又は免除される(刑法43条ただし書)のに、強盗予備罪が成立していることを理由として、中止未遂を予備罪に認めない場合には、刑法237条の2年以下の懲役刑がそのまま科されるという不均衡が生じるため、中止未遂を認めるべきであるとする考え方があります。

 この学説の主張については、たしかに、強盗中止未遂(刑法236条刑法43条ただし書)と強盗予備(刑法237条)との間に刑の不均衡が生ずることは理論上はあり得ますが、現実の事件処理(ex情状を考慮して不起訴にする)や科刑(ex量刑を調整し、刑を軽くする)において、これを考慮すれば足りるのであって、すでに「既遂になっている」犯罪について、中止未遂を認めることは、法的に困難であるといえます。

強盗を共謀し、強盗の予備を行った後、強盗の共謀から離脱した被告人に対し、強盗罪の中止未遂ではなく、強盗予備罪の共同正犯の成立を認めた判例

 共犯者とともに強盗の予備行為をなした者が(強盗予備罪は既遂)、実行の着手前に、共犯関係から離脱し(強盗罪は中止未遂)、残余の者が、強盗予備から進んで強盗の実行に着手した場合に、離脱者に対し、強盗予備罪が成立するのか?それとも、強盗罪の中止未遂が成立するのか?が問題になった判例があります。

福岡高裁判決(昭和28年1月12日)

 この判例は、被告人が、匕首(刃物)を所持携帯していた共犯者から「どこか押し入るのによい所はないか」と話しかけられ、被害者の家を教えて共謀が成立し、時間をつぶす間に、被告人が強盗に用いるための匕首の刀身を雑草などで研磨した行為を行い、その後、強盗の共犯関係から離脱した事案について、「数人が強盗を共謀し、強盗の用に供すべき『匕首』を磨くなど強盗の予備をなし」と判示し、被告人に対し、強盗予備の共同正犯の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 数人が強盗を共謀し、強盗の用に供すべき「匕首」を磨くなど強盗の予備をなした後、その うちの一人がその非を悟り、犯行から離脱するため現場を立ち去った場合、たとい、その者が他の共謀者に対し、犯行を阻止せず、又該犯行から離脱すべき旨明示的に表意しなくても、他の共謀者において、右離脱者の離脱の事実を意識して残余の共謀者のみで犯行を遂行せんことを謀った上、犯行に出でたときは、残余の共謀者は離脱者の離脱すべき黙示の表意を受領したものと認めるのが相当であるから、かかる場合、離脱者は当初の共謀による強盗の予備の責任を負うに止まり、その後の強盗につき共同正犯の責任を負うべきものではない
  • けだし、一旦強盗を共謀した者といえども、強盗に着手前、他の共謀者に対し、これより離脱すべき旨表意し、共謀関係から離脱した以上、たとい後日、他の共謀者において、犯行を遂行してもそれは、離脱者の共謀による犯意を遂行したものということができない
  • しかも、離脱の表意は必ずしも明示的に出るの要がなく、黙示的の表意によるも何ら妨げとなるものではないからである
  • さすれば、当裁判所が説示した被告人の前示所為は、まさしく刑法第237条所定の強盗予備罪を構成することが明かである

と判示しました。

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