刑法(強盗・強制性交等罪)

強盗・強制性交等罪(3) ~「未遂罪」「共犯」を判例で解説~

未遂罪

 強盗・強制性交等罪(刑法241条1項)の未遂罪について説明します。

 強盗・強制性交等罪(1項)は、

  1. 強盗、強制性交等の双方が既遂
  2. 強盗が既遂で、強制性交等が未遂
  3. 強盗が未遂で、強制性交等が既遂
  4. 強盗、強制性交等双方が未遂

の4通りの犯罪構成要件を規定しています。

 ④は、強盗の行為と強制性交等の行為がいずれもが未遂であっても成立する罪として規定されていることから、刑法43条本文の未遂犯に関する規定と、同条ただし書の中止犯に関する規定は適用されません。

 同一の機会になされた強盗の行為と強制性交等の行為がいずれも未遂であり、人の死傷結果が生じていない場合には、行為の危険性が比較的小さいといえる事案もあり得るので、そのような事案について、懲役7年以上という重い法定刑で処断するのは酷な場合も考えられることから、任意的な刑の減軽を認めるため、刑法241条2項の未遂による刑の減軽・免除の規定が設けられたという経緯があります。

共犯(共同正犯)

 強盗・強制性交等及び同致死罪は結合犯であり、とくに強制性交の点につき故意を必要とするから、強盗共犯者のうち、ある者が強盗の機会に女子を強制性交したときは、強制性交についての共謀がない者には、本罪の共犯(共同正犯)を認めることはできません。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和26年7月17日)

 強盗共謀者の1人が、強姦(強制性交)を犯した事案(他の共謀者は強姦の共謀はしていない)について、裁判官は、

  • 強盗強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)は、強盗の身分あるものが強盗の機会に婦女を強姦することによって成立するものであって、いわゆる結合犯ではあるが、強盗罪の結果的加重犯である強盗殺傷罪(強盗致傷罪)とは異なり、強盗の点についてのみ共謀の事実があったからといって、強姦の点について共謀なき者にまで強姦の責を負わせることはできないのである
  • したがって、数人が共謀の上、強盗罪を犯し、その際その内の一人が他の共犯者と共謀することなく婦女を強姦したときは、単にその者のみ強盗強姦罪(強盗・強制性交等罪)の責を負うべきは当然であって、この場合、強盗の点については他の共犯者のなした行為についても責任を負うこともちろんであるから、その点につき刑法第60条を適用すベきこともまた疑なきところである
  • されば、本件において、強姦の点については、各被告人間に共謀の事実なき以上、強盗の点についてのみ刑法第60条を適用したのはまことに相当である

と判示しました。

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