刑法(強盗・強制性交等罪)

強盗・強制性交等罪(4) ~罪数「強盗・強制性交等及び同致死罪は、被害者の数に応じた個数が成立する」「被害者を死傷させた場合は、強盗・強制性交等罪、又は強盗・強制性交等致死罪の一罪のみが成立する」を判例で解説~

強盗・強制性交等及び同致死罪は、被害者の数に応じた個数が成立する

 強盗・強制性交等及び同致死罪(刑法241条)の罪数について説明します。

 強盗・強制性交等及び同致死罪の保護法益は、性的自由という個人的法益です。

 本罪の保護法益が個人的法益であることが意味することは、被害者一人一人に焦点を当て、被害者の数に応じた数の本罪の犯罪が成立するということです。

 そして、複数の被害者がいた場合で、被害者ごとにそれぞれ独立して成立した各罪は併合罪の関係に立ちます。

 たとえば、強盗犯が1人を強制性交等し、他の1人を強制性交等により死亡させたときは、強盗・強制性交等罪(1項)と強盗・強制性交等致死罪(3項)の併合罪となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年8月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が、A及びCと共謀して強盗をなし、さらに3名意思を通じて、すなわち共謀して被害者3名に対し強姦したことを、原判決は認定しているのである
  • 被告人及び他の両名は、共謀して被害者3名に対して強盗強姦罪を犯したわけである
  • 強盗・強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)は、強盗たる身分を有するものが、強姦をする犯罪であり、個人の専属的法益(婦女の性的自由)を侵害する罪である
  • 従って、その犯罪の個数は各被害者の数によって算定さるべきものである
  • だから、被告人らは、共謀して3個の強盗強姦罪(強盗・強制性交等罪)を犯したものであって、併合罪として取り扱うを当然とする

と判示しました。

被害者を死傷させた場合は、強盗・強制性交等罪、又は強盗・強制性交等致死罪の一罪のみが成立する

 強盗・強制性交等及び同致死罪は、刑法241条2項で、「前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる」と規定し、強盗や強制性交等が未遂であっても、被害者に死傷の結果を生じさせれば、強盗・強制性交等罪(1項)又は強盗・強制性交等致死罪(3項)の既遂が成立し、刑の減軽の対処とはしないことを明記しています。

 たとえば、強盗犯人が強制性交等の罪を犯して、被害者に傷害を与えた場合は、強盗・強制性交等罪(1項)のみが成立し(「強盗・強制性交等致傷罪」という罪名は存在しません)、強盗・強制性交等罪と傷害罪のニ罪が成立するものではありません。

 また、強盗犯人が強制性交等の罪を犯して、被害者を傷害の故意で死亡させ、又は殺人の故意で殺害した場合は、「強盗・強制性交等致死罪」又は「強盗・強制性交等致殺人罪」(3項)のみが成立し、強盗・強制性交等罪と傷害致死罪(又は殺人罪)のニ罪が成立するものではありません。

強盗・強制性交等罪の記事まとめ(全4回)

強盗・強制性交等罪(1) ~「強盗・強制性交等及び同致死罪とは?」「『強制性交等』とは、膣性交・肛門性交・口腔性交を指す」「強盗と強制性交の前後は問わない」を判例で解説~

強盗・強制性交等罪(2) ~「主体・客体」「強盗が未遂でも本罪が成立する」「犯人・被害者に男女の限定はない」を判例で解説~

強盗・強制性交等罪(3) ~「未遂罪」「共犯」を判例で解説~

強盗・強制性交等罪(4) ~罪数「強盗・強制性交等及び同致死罪は、被害者の数に応じた個数が成立する」「被害者を死傷させた場合は、強盗・強制性交等罪、又は強盗・強制性交等致死罪の一罪のみが成立する」を判例で解説~