刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(1) ~「強盗致傷罪・強盗致死罪・強盗致死傷罪・強盗傷人罪・強盗殺人罪の違い」「致死傷・殺人の事実が、財物奪取の前にあると後にあるとを問わない」「強盗致死傷罪における強盗犯人とは?」を判例で解説~

 これから複数回にわたり強盗致傷罪・強盗致死罪・強盗致死傷罪・強盗傷人罪・強盗殺人罪(刑法240条)について解説します。

 強盗致傷罪・強盗致死罪・強盗致死傷罪・強盗傷人罪・強盗殺人罪の5つは、いずれも刑法240条から導かれる罪であり、この5つを、適宜、強盗致死傷罪という表現に集約して説明していきます。

強盗致死傷罪の設立の趣旨

 強盗(刑法236条)の機会においては、被害者を傷害したり殺害するなど残虐な行為を伴うことが少なくありません。

 そこで、強盗致傷罪・強盗致死罪・強盗致死傷罪・強盗傷人罪・強盗殺人罪(刑法240条)は、傷害、殺害などの残虐行為に着目して、強盗罪の加重類型としての結合犯の犯罪類型として設けられたものです。

強盗致傷罪・強盗致死罪・強盗致死傷罪・強盗傷人罪・強盗殺人罪の違い

強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪

 強盗致死傷罪は、強盗の際に、暴行の故意はあるが、傷害の故意なく、被害者に傷害を負わせ、又は死亡させた場合に適用される罪名です。

 被害者に傷害のみを負わせた場合は、強盗致傷罪の罪名が適用されます。

 被害者に傷害を負わせて死亡させた場合は、強盗致死罪の罪名が適用されます。

 傷害を加えた被害者が複数人いた場合で、一人に傷害を負わせ、もう一人は死亡させた場合は、強盗致死傷罪の罪名が適用されます。

強盗傷人罪

 強盗傷人の読み方は、「ごうとうしょうじん」です。

 強盗傷人罪は、強盗の際に、暴行又は傷害の故意をもって暴行を加え、被害者に傷害を負わせた場合に適用される罪名です。

強盗殺人罪

 強盗殺人罪は、強盗の際に、被害者を殺意を持って殺した場合に適用される罪名です。

致死傷・殺人の事実が、財物奪取の前にあると後にあるとを問わない

 強盗致死傷罪の成立を認めるに当たり、致死傷の事実が、財物奪取の前にあると後にあるとを問いません。

 人を殺害して、その財物を奪取する意思で、それを実行した場合にも、強盗致死傷罪の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正2年10月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法240条後段の強盗殺人は、強盗が財物強取の行為によりて、人を死に致したる事実あれば、直ちに成立するものにして、致死の結果が、財物強取の前にあると、その後にあるとは、同罪の成立に影響なし

と判示しました。

強盗致死傷罪における強盗犯人とは?

 強盗致死傷罪の主体は、強盗犯人(強盗罪の実行に着手した者)をいいます。

 ここでいう強盗犯人は、

をいいます。

 ここでいう強盗犯人といえるためには、強盗の実行に着手していれば足り、強盗罪が既遂に達しているばかりでなく、未遂の場合でもよいです。

 たとえば、強盗は未遂であったが、相手に傷害を負わせた場合は、強盗致傷罪が既遂として成立します。

 この点について、最高裁判決(昭和23年6月12日)において、裁判官は、

  • 強盗に着手した者が、その実行行為中、被害者に暴行を加へて傷害の結果を生ぜしめた以上、財物の奪取未遂の場合でも強盗傷人罪の既遂をもって論ずべきである

と判示しています。

 なお、強盗の実行に着手することが要件なので、強盗の実行に着手せず、強盗の準備段階の行為を罰する強盗予備罪刑法237条)は、ここでいう強盗犯人からは除外されます。

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