刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(2) ~「強盗の被害者以外の者に傷害を負わせた場合にも、強盗致死傷罪が成立する」を判例で解説~

強盗の被害者以外の者に傷害を負わせた場合にも、強盗致死傷罪が成立する

 強盗致死傷罪(刑法240条)の客体(対象)は、人です。

 客体は、強盗行為そのものの被害者であることが多いですが、必ずしもそれに限られず、被害者以外の者に傷害を負わせた場合にも、本罪が成立します。

 この点、参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年2月15日)

 この判例は、逮捕を免れるために、警察官を死傷させた行為について、強盗致傷罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 窃盗犯人が、警察官の逮捕を免れるため、暴行を加えて創傷を負わせれば、公務執行妨害罪と強盗致傷罪とが成立し、両者は観念的競合となる

としました。

 強盗行為の被害者に対する殺害行為の流れ弾が、たまたま現場に居合わせた通行人に当たって傷害を負わせた場合、強盗殺人未遂が成立する場合があります。

 この点について判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和53年7月28日)

 この判例は、強盗犯人が、人を殺害する意思のもとに、手製の銃を発射して殺害行為に出た結果、犯人が殺害を意図した警察官の右胸に銃弾を貫通させて傷害を負わせたが殺害するにいたらず、同時に、犯人が殺害を予期しなかった通行人に対しても、その腹部に銃弾を貫通させて傷害を負わせる結果が発生し、かつ、殺害実行行為と通行人の傷害の結果との間に因果関係が認められた事案です。

 裁判官は、

  • 犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもって足りるものと解すべきであるから、人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかった人に対してその結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意がある
  • 殺人未遂の行為は、警察官に対する強盗の手段として行われたものであるから、強盗との結合犯として、犯人の警察官に対する行為についてはもちろんのこと、通行人に対する行為についても強盗殺人未遂罪が成立する

と判示し、警察官に対する殺人未遂罪が成立し、かつ、通行人に対する殺人未遂罪も成立するとしました。

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