刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(13) ~罪数①「強盗による死傷者数に応じた数の強盗致死傷罪が成立する」を判例で解説~

強盗による死傷者数に応じた数の強盗致死傷罪が成立する

 強盗致死傷罪(刑法240条)は、強盗の際に、複数人の被害者に対し、死傷の結果を発生させる行為が行われた場合、その罪数(成立する強盗致傷罪の数)は、死傷した被害者の数と同じ数になります。

 なお、この考え方は、傷害罪、傷害致死罪の場合と同じです (前の記事①前の記事②参照)。

 理由は、強盗致死傷罪は、財産犯的側面よりも、人の生命・身体に対する犯罪としての側面を重要視しており、人の財産のほか、傷害罪や傷害致死罪と同様に、人の生命・身体が、保護法益となっているためです。

強盗の行為は個であっても、その機会に2人以上の人を殺傷した場合は、数個の強盗致死傷罪が成立し、数個の強盗致死傷罪は、観念的競合になる

 強盗の行為(暴行・脅迫)は1個であっても、その機会に2人以上の人を殺傷した場合は、数個の強盗致死傷罪が成立します。

 なお、1個の強盗行為で数個の強盗致死傷罪を惹起した場合、その数個の強盗致死傷罪は、観念的競合の関係になります。

 たとえば、強盗を成し遂げるため、被害者2名に向けて拳銃を1発撃ったところ、その銃弾が被害者2名に貫通して当たり、被害者2名を死亡させた場合、2個の強盗殺人罪が成立し、その2個の殺人罪は観念的競合の関係に立ち、一罪となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治42年6月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗致死罪は、強盗を為すに際し、人を死に致すによりて成立し、而して殺人罪は、たとえ単一の決意をもってこれを行うも、被害者ごとに罪を構成すべきものなるをもって、強盗の所為はたとえ1個たりとも、これを犯す2人以上の者を死に致したるときは、その死に至りたる被害者ごとに各別の強盗致死罪を構成すべきなり

と判示しました。

大審院判決(明治42年6月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 殺人罪は、単一の決意をもってこれを行うも、被害者ごとに一罪を構成するものとす
  • 従って、強盗を為すに当たり、2人以上の者を死に致したるときは、たとえ強盗の行為は1個なるも、その死に至りたる被害者ごとに格別の強盗致死罪を構成す

と判示しました。

大審院判決(明治43年11月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 1個の強盗罪を犯すために、数人を殺害したるときは、たとえその殺人行為は同一の目的を遂行するの手段として行いたる場合といえども、これを数個の強盗致死罪に問擬(もんぎ)すると当然とす

と判示しました。

複数の被害者に対し、それぞれ暴行を加えて、それぞれに死傷の結果を発生させたときは、強盗行為は1個であっても、被害者の数と同じ数の強盗致死傷罪が成立し、併合罪になる

 複数の被害者に対し、それぞれ暴行を加えて、それぞれに死傷の結果を発生させたときは、強盗行為は1個であっても、被害者の数と同じ数の強盗致死傷罪が成立します。

 そして、成立した数個の強盗致死傷罪は、併合罪の関係になります。

 参考となる判例として、以下のものがあります

最高裁判決(昭和26年8月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 1個の強盗行為の手段として、2名に対し、それぞれ暴行を加えて傷害を与えた場合には、それぞれ強盗傷人罪が成立し、併合罪となる

と判示しました。

強盗は未遂に終わったが、複数いた被害者のうち1人に傷害を与えた場合は、1個の強盗致傷罪のみが成立する

 強盗犯人が、数人に暴行・脅迫を加え、強盗は未遂に終わったが、そのうち1人に対し、傷害を与えた場合は、一個の強盗致傷罪のみが成立します。

 つまり、強盗未遂と強盗致傷罪の2つが成立するのではなく、強盗未遂は強盗致傷罪に包括して評価され、強盗致傷罪の一罪のみが成立することになります。

 この点について判示した以下の判例があります。

広島高裁判決(昭和53年5月8日)

 強盗犯人が、同一家屋内において、家人数人に暴行・脅迫を加え、強盗は未遂に終わったが、そのうち1人に対し、傷害を与えた事案で、裁判官は、

  • 犯人が奪取しようとした占有は単一とみられるから、単一の強盗未遂罪が成立し、傷害を与えたのも、そのうちの1人に対してであったから、一個の強盗致傷罪が成立する

としました。

同一場所・同一機会に数人から金品を強取し、そのうちの1人に傷害を負わせた場合、1個の強盗致傷罪が成立する

 同一場所・同一機会に数人から金品を強取し、そのうちの1人に傷害を負わせた場合、一個の強盗致傷罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大阪地裁判決(昭和57年10月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 同一機会に数名に対して金品強取の目的で暴行脅迫を加え、うち1名に傷害を負わせ、数名からそれぞれの所持金品を強取した場合にも、強盗致傷罪一個が成立するにとどまる

と判示しました。

被害者を殺害して2項強盗殺人を犯した後、財物を奪取したときは、強盗殺人罪の一罪が成立する

 被害者を殺害して2項強盗殺人を犯した後、財物を奪取したときは、強盗殺人罪の一罪が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和40年5月21日)

 この判例は、被告人が乗車料金の支払を免れる目的で、タクシーの運転手を殺害(2項強盗殺人)した直後、車内に現金を発見して、これを奪取したときは、乗車料金の支払を免れた財産上不法の利益と現金の奪取とを包括して強盗殺人の一罪が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、A運転手から自動車料金の支払を免れる目的で、その胸部を突き刺す等の暴行に及び、結局その支払を免れて、財産上不法の利益を得ておるのであり、金員奪取も、凶行の直後、これに引き続いて、その機会にその場所で敢行されたものであるから、これら現金奪取の点も、不法利得(乗車料金の支払を免れたこと)と包括してこれを考慮するのが相当である
  • 結局、被告人の本件所為は、刑法第240条後段の強盗殺人の包括一罪に当るものである

と判示しました。

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