刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(14) ~罪数②「強盗致死傷罪に先行又は後行する窃盗行為は、強盗致死傷罪に包括され、強盗致死傷罪の一罪が成立する」を判例で解説~

先行する窃盗行為は、強盗致死傷罪に包括され、強盗致死傷罪の一罪が成立する

 強盗致死傷罪に先立ち、窃盗行為が行われた場合、その窃盗行為は、強盗致死傷罪に包括して評価され、強盗致死傷罪の一罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

福岡高裁判決(昭和32年6月5日)

 この判例は、強盗致死傷行為に先立ち、当該犯行と機会を同一にし、同一の財物奪取の犯意のもとになされた一個又は数個の窃盗行為があるときは、全体を包括して一個の強盗致死傷罪を構成するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、当初から数回にわたり、連続して石炭を窃取する意思の下に、まず石炭200kgをドンゴロスに入れ窃取し、これを現場付近に隠匿した上、直ちに同一現場に引返し、石炭50kgを窃取しようとした際、被害者Sの制止を受けたので、Sを殴打し傷害を与えたものである
  • 第1、2回の奪取行為は、単一の意思に基くものであり、かつ時間的に近接連続していること極めて明白であって、典型的のいわゆる接続犯と解するを相当とする
  • そうだとすれば、原判決が右2個の行為を法律上1個の行為と評価し、1個の強盗傷人罪の成立を認めたのは正当である

と判示しました。

最高裁決定(昭和61年11月18日)

 この判例は、強盗殺人未遂罪に窃盗罪又は詐欺罪が先行し、被害者に対する覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るために、被害者に拳銃を発射した行為について、覚せい剤の取得行為が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるのかにつき結論を留保した上で、2項強盗殺人未遂罪が成立するとしました。

 この判例の判断は、先に行われれた窃盗罪又は詐欺罪と強盗殺人未遂罪とは包括一罪になるとした点が注目されました。

福岡高裁宮崎支部判決(昭和30年6月29日)

 この判例は、被告人が財物を窃取したのち、逮捕を免れるために被害者に暴行を加えて、さらに財物を強取し、かつ、その暴行によって被害者を負傷させたときは、包括的に一個の強盗致傷罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第238条準強盗罪(※事後強盗罪のこと)の成立には、窃盗の犯人が財物の取還(しゅかん:取り返すこと)を拒み、又は逮捕を免れる等のため、暴行又は脅迫をなせば足り、現実に被害者又は第三者において財物を取還し、又は犯人を逮捕する行為に出でたことを必要としないのであるから、被害者らが、被告人を逮捕せんとした事跡がないから準強盗にならないという所論は当らない
  • 従って、原判示、被告人が被害者居宅の店舗で缶詰1個を窃取した後、逮捕を免れるため、被害者に暴行を加えた点は、それだけを採って考えると、刑法第238条に該当することは明らかである
  • しかし、被告人は、右暴行によって、更に被害者から懐中電灯1個を強取し、かつ、右暴行の結果、被害者に傷害を与えたのであって、原判決の認定によれば、以上一連の行為は、包括的予見の下に敢行されたものである
  • かように、犯人が包括的予見の下に、まず、甲財物を窃取した後、逮捕を免れるため暴行をなし、引続いて乙財物を強取し、右暴行の結果傷害を与えたときは、これを包括して、1個の強盗致傷罪が成立するものと解すべきである

と判示しました。

強盗致死傷罪の行為の後に、これの接着して窃盗罪が行われた場合も強盗致死傷罪の一罪が成立する

 強盗致死傷の行為がなされたのち、これと接着した段階で、さらに強盗・窃盗の犯行が重ねられる場合には、のちの行為が、強盗致死傷行為の余勢をかって行われたと認められるかぎり、先行する強盗致死傷の行為と包括して、強盗致死傷罪の一罪の成立を認めるべきとされます。

 ただし、先行する強盗致死傷の行為と、後から行われた強盗・窃盗の接着性が欠くときは、先行の強盗致死傷の行為は独立した強盗致死傷罪として成立し、後行の強盗・窃盗の行為は独立した強盗罪又は窃盗罪として成立します。

 この点につき、参考となる判例として、以下のものがあります。

仙台高裁判決(昭和31年6月13日)

 この判例は、強盗殺人犯が、犯行の約2日後に死体を隠匿する際、あらたに被害者の遺品中に現金を発見してこれを盗取した事例のように、前の犯行との時間的接着性を欠くときは、包括一罪ではなく、別に窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、被害者の所携(しょけい:持つ)していた手提げ鞄内から在中の2万円を奪取する考えを持ったのは、すでに10万円の奪取により殺害手段による強盗行為の終った後、死体を穴蔵内の穴に埋める際、手提げ鞄内を調べ、たまたま2万円在中することを知ったときであって、10万円を強奪すると共に右2万円をも奪う意思はなかったものと認むべきで、右2万円の奪取は、単に窃盗罪を構成するに過ぎないものと認むべきである

と判示しました。

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