刑法(盗品等に関する罪)

盗品等に関する罪⑪ ~「盗品等無償譲受け、運搬、保管、有償譲受け、有償処分あっせん罪が併発した場合の罪数」「包括一罪」「併合罪」を判例で解説~

盗品等に関する罪の罪数

 盗品等に関する罪(刑法256条)は、個々の類型の犯行(無償譲受け、運搬、保管、有償譲受け、有償処分あっせん)を連動して犯す場合が多い犯罪です。

 たとえば、有償譲受けした盗品を、その後、運搬、保管した上、他人にあっせんするなどです。

 このような一連の行為は、

  • 包括一罪として、1個の罪が成立する
  • 併合罪として、数個の罪が成立する
  • ある一つの類型の行為に、その他の類型の行為が吸収され、ある一つの類型の行為の罪のみが成立する

のパターンに分けられます。

有償譲受け罪と保管罪・運搬罪の罪数

 盗品等有償譲受け罪を犯した犯人が、その後、その盗品を隠匿所持した上(盗品等保管)、運搬しても、別に盗品等保管罪や盗品等運搬罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年10月1日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原判決は、被告人が、その故買(盗品等有償譲受け)にかかる贓物(盗品)を他に運搬した事実を認定し、これに対して刑法第256条第2項の規定を適用していることは、原判文上明らかであるが、同一人が既に故買した物件を他に運搬するがごときは、犯罪によりて得たものの事後処分たるに過ぎないのであって、刑法はかかる行為をも同法第256条第2項によって処罰する法意でないことはあきらかである

と判示しました。

 この判例の裁判において、高等裁判所は、被告人が、窃盗犯人から、盗品を有償で譲受けた上、譲り受けた盗品を運搬した事案について、盗品等有償譲受け罪と盗品等運搬罪の2罪が成立するとしました。

 この高等裁判所の判決に対し、最高裁判所は誤りを指摘しました。

 最高裁判所は、盗品等有償譲受け罪の後に犯した盗品等運搬罪は、事後処分に過ぎない…つまり、不可罰的事後行為であるとして、犯罪として成立しないとしました。

 最高裁判所は、この事案の場合、盗品等有償譲受け罪のみが成立するとしました。

運搬罪と保管罪の罪数

 盗品の保管後に盗品を運搬した場合と、盗品の運搬後に盗品を保管した場合があります。

 保管罪と運搬罪は、一連の行為で同じ盗品の追求権(被害者の回復追求権)を侵害したものとして、包括一罪と評価されます。

 つまり、運搬罪と保管罪のいずれかが成立するのではなく、運搬保管罪の一罪が成立すると考えることになります。

 犯罪事実としては、

被告人は、盗品を運搬し、保管した

というように、1つの犯罪事実が構成されることになります。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和27年4月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 同一の贓物の運搬行為と寄贓行為(保管行為)とが連続して行われた場合には、両所為を包括的に観察して一個の贓物罪を構成するものと解し、情状に軽重があるときは犯情の重い所為について刑法第256条2項を適用すべく、刑法第45条前段併合罪をもって論ずべきものではない

と判示し、同一の盗品を運搬後に保管した行為につき、盗品等運搬罪と盗品等保管罪とは、併合罪ではなく、包括一罪であるとしました。

 なお、運搬罪の犯意と保管罪の犯意が一連のものではなく、別個の独立した犯意の場合は、盗品等運搬罪と盗品等保管罪は、包括一罪ではなく、併合罪になります。

 この点について、以下の判例があります。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和25年12月4日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯意の発現が個別独立のものである限り、これら各諸行為(※盗品を保管、運搬、売却する行為)の相互の間に、刑法45条所定の併合罪関係の成立を認むべきである

と判示しました。

 併合罪となる場合の犯罪事実としては、

 被告人は

第1 盗品を運搬した

第2 盗品を保管した

というように2つの犯罪事実が構成されることになります。

運搬罪と無償譲受けの罪数

 学説において、盗品を運搬した後に、その盗品を無償で譲り受けた場合は、盗品等運搬罪に盗品等無償譲受け罪が含まれ、盗品等運搬罪の一罪が成立すると考えられています。

 盗品を無償で譲り受けた後に、その盗品を運搬した場合は、不可罰的事後行為として、盗品等運搬罪は成立せず、盗品等無償譲受け罪の一罪が成立すると考えられています。

運搬罪と有償譲受け罪の罪数

 本記事の最初に説明したとおり、有償で譲り受けた盗品を、他の場所に運搬しても、運搬行為は不可罰的事後行為となり、盗品等運搬罪は成立せず、盗品等有償譲受け罪の一罪のみが成立します(最高裁判決 昭和24年10月1日)。

 では、盗品の運搬後に、その盗品を有償で譲り受けた場合はどうなるでしょうか?

 この場合、学説では、盗品等運搬罪と盗品等有償譲受け罪の包括一罪が成立すると考えられています。

 ただし、有償譲受け目的で盗品を運搬する場合は、運搬が有償譲受けに伴う程度のものであれば、包括して盗品等有償譲受け罪の一罪のみが成立すると考えられます。

 この点について、以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和26年4月12日)

 この判例は、盗品等有償処分あっせんの目的で盗品を運搬した事案です。

 この判例の考えた方は、盗品等有償譲受けの目的で盗品と運搬した場合にも当てはめることができます。

 この判例で、裁判官は、

  • 贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、贓物であるの情を知りながら、その有償処分に関する媒介をすることによって成立するものである
  • その媒介に当り、媒介者が媒介の必要上、贓物の寄託(保管)を受け、又は自らこれを運搬することがあっても、これらの行為が媒介行為と不可分の関係がある場合には、これを包括して観察し、単一の牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)と見るのが相当である
  • 本件において、被告人(盗品のあっせん犯人)と窃盗犯人Aとが、Bに贓物の販売を依頼し、Cを通じてDに販売してもらい、その贓物をその当日、買主であるD方へ、物件所在の場所である判示E方より運搬したというのであるから、この贓物の運搬は贓物売買契約の履行の為に行つたものにほかならない
  • 従って、その運搬の所為は、牙保(盗品のあっせん)の所為に包含せらるべきもので、独立して一罪を構成するものとはいえない

と判示し、盗品等運搬罪は成立せず、盗品等有償処分あっせん罪の一罪のみが成立するとしました。

 また、数回にわたる盗品の運搬後に、有償譲受け目的が生じ、有償譲受け行為を行った行為について、有償譲受けが1個と評価される場合は、包括して1個の盗品等有償譲受け罪、または1個の盗品等運搬罪が成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

札幌高裁判決(昭和26年6月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • Aが、B方(Bの家)から窃取した衣類等は、10月17日と翌18日の2回にわたり被告人方に運搬して引き渡し、代金もその都度支払われたことを認める得るけれども、…被告人の都合により、物件の引き渡しが17日と翌18日の2回にわたり行われ、代金の支払もその都度なされたことを認め得るのである。
  • そうすると、被告人とAの売買行為は、2個ではなく、包括的に1個の売買行為があったと認めるのが相当である

と判示しました。

運搬罪と有償処分あっせん罪の罪数

 盗品等運搬罪と盗品等有償処分あっせん罪の罪数関係の判例として、先ほど説明した高松高裁判決(昭和26年4月12日)のほか、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和32年4月16日)

 この判例は、盗品である写真機4台の売却を依頼されて、鳥取市から所定の場所まで、盗品である写真機4台を運搬し(盗品等運搬罪が成立)、うち2台の売却を完了させたが(盗品等有償処分あっせん罪が成立)、他の2台は売却するに至らなかった行為について、盗品等運搬罪と盗品等有償処分あっせん罪の包括一罪として処断すべきとしました。

 裁判官は、

  • 被告人の行為は、包括的に観察して、贓物運搬牙保罪(盗品等運搬罪と盗品等有償処分あっせん罪)の包括一罪として処断さるべきである
  • 原判決が被告人の行為を目して、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)と贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)の二罪が成立すると判示したのは誤りである

旨判示しました。

福岡高裁判決(昭和28年6月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 贓物(盗品)を運搬した上、これを牙保(あっせん)した場合には、包括一罪であって、運搬と牙保(あっせん)との2個の罪を構成するものではないと解するのが相当である
  • 原判決が、贓品(盗品)である玄米の運搬と牙保(あっせん)とが、それぞれ別個独立の罪を構成するものとし、これに併合罪の規定を適用処断したのは、法令の解釈適用を誤った違法がある

と判示しました。

保管罪と無償譲受け罪の関係

盗品を保管した後の無償譲受け

 盗品を保管した後に、その盗品を無償で譲り受けた場合は、盗品等保管罪と盗品等無償譲受け罪の両罪が成立し、両罪は包括して一罪になる(包括一罪になる)と学説で考えられています。

盗品を保管した後の有償譲受け

 盗品を保管した後に、その盗品を有償で譲り受けた場合も、盗品等保管罪と盗品等有償譲受け罪の両罪が成立し、両罪は包括して一罪になる(包括一罪になる)と学説で考えられています。

盗品の保管後,盗品を一旦返還し、あらためて有償処分あっせんをした場合

 盗品を保管した後、盗品を一旦窃盗犯人に返還し、あらためて有償処分あっせんをした場合は、盗品等保管罪と盗品等有償処分あっせん罪の2罪が併合罪として成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年3月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、始め、Aほか1名から、「明日取りに来るから預かってくれ」との依頼により、贓物たるの情を知りながら、あえてタイヤ1本を預かり、その翌日頃、Aらは、トラックをもって取りに来たので、これをAらに渡したところ、Aはこれをトラックの運転手に売ろうとしたが、運転手は買わなかったので、被告人はAらから、あらためて「売ってくれ」と頼まれて、これが売却を周旋したというのである
  • 被告人が、Aらから贓物と知りながらタイヤ1本を預かったことにより、贓物寄蔵罪(盗品等保管罪)は成立し、翌日頃、これをAらに引渡したことにより、盗品賍物寄蔵罪の状態は終了し、更に、Aらの依頼により、タイヤ1本の売却方を周旋したのであるから、被告人の贓物牙保罪(盗品等あっせん罪)は前記贓物寄蔵罪(盗品等保管罪)とは、全然別個独立に成立したものといわなければならない
  • すなわち、本件は始めから売却の周旋を依頼されたために預かったものではないのであるから、仮令、右両所為の日時が近接連続していたとしても、本件寄蔵(保管)の所為は、当然牙保(あっせん)の所為に吸収されるものであるとの主張は採用することができない

と判示し、盗品等保管罪と盗品等有償処分あっせん罪の2罪が併合罪として成立するとしました。

複数回、同じ類型の盗品等に関する罪が敢行された場合の罪数

 盗品等に関する罪の同じ類型の行為が複数回行われた場合の罪数について説明します。

 たとえば、3回にわたり、盗品の有償譲受け行為が行われた場合に、3個の盗品等有償譲受け罪が成立するのか、それとも包括して(包括一罪として)1個の盗品等有償譲受け罪が成立するかという問題です。

 この問題については、包括一罪の基本的な考え方を用いて答えを出すことになります(包括一罪の基本的な考え方については前の記事参照)。

 盗品等に関する罪の場合は、

  • 当事者(窃盗犯人、被害者)が同一であるか
  • 追求権(被害者の回復請求権)の同一性
  • 時間的接着性
  • 場所の同一性または近接性
  • 犯意の単一性・継続性

などが考慮されて判断されます。

 これらの要素の同一性や近接性が認められれば、繰り返し複数の行為をしていても、包括一罪として、1個の犯罪が成立すると判断される可能性が高くなります。

 そうでなければ、併合罪として、繰り返し行った行為の回数と同じ数の犯罪が成立することになります。

 参考になる判例として、以下の判例があります。

前記の札幌高裁判決(昭和26月6月27日)

 物件の引渡しと代金支払が2回にわけて行われた事案で、包括的に1個の売買行為であるとしました。

大審院判決(昭和14年12月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯罪の1個なりや、又は数個なりやの標準は、犯人の行為の1個なりや数個なりやにより定むべきにあらず
  • 侵害せられるる法益にして、単一なる以上は、犯人の行為は、たとえ数個なりとするも、犯罪は単一なりとす
  • しかして、贓物に関する法益は、贓物の転々を防止し、被害者の贓物返還請求権の実行を容易ならしむることを保護するにあることもちろんなるをもって、被害者は数人なりとしても、その侵害せらるる法益は、常に1個なること明らかなるをもって、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の反復累行せる事実に対し、連続犯として処断できないことは明らかなり

と判示し、被害者が数人いる場合に、被害者の数の有償譲受け罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和28年5月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 日時を異にして、数回にわたって犯行が行われている場合には、それが単一の犯意の実現に過ぎないといったような特段の事情が認められない限り、これを併合罪と認めるのが相当である
  • 本件故買(有償譲受け)の贓物及びその相手方がそれぞれ同一であり、その1回の故買の数量もほぼ同様であり、かつ犯行の前後が極めて接近していたとしても、ただこれだけで直ちにこれを包括一罪として認めることはできない

と判示しました。

前記の名古屋高裁金沢支部判決(昭和25年12月4日)

 犯意の発現が個別独立のものである限り、これら各諸行為(※盗品を保管、運搬、売却する行為)の相互の間に、刑法45条所定の併合罪関係の成立を認むべきであると判示しました。

福岡高裁判決(昭和28年9月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯人が日を異にして、3回にわたり、贓物の故買をした場合においては、たとえ犯人及び売渡人が同一であっても、特別の事情のない限り、3個の贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)を構成すると解するのが相当である

と判示しました。

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