刑法(脅迫罪)

脅迫罪(20) ~「害悪の告知の方法②(態度、動作による方法)」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

害悪の告知の方法(態度、動作による方法)

 脅迫罪(刑法222条)で実際に行われる害悪の告知の方法を挙げると、

  1. 言葉による方法
  2. 態度、動作による方法
  3. 暗示的方法
  4. 第三者を介した告知

に分類することができます。

 この記事では、「②態度、動作による方法」について詳しく説明します。

 害悪を言葉により表現しなくても、態度、動作によって害悪を加えるべきことを告知することは可能です。

 態度、動作による方法で脅迫した事例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正7年3月11日)

 犯人が土間に積んであったの間にたいまつを挿入し、かつ、火薬を俵の下に差し置いて、あたかも放火をしたように装置し、被害者に発見させたという行為を脅迫の手段として認め、脅迫罪の成立を認定しました。

仙台高裁秋田支部判決(昭和27年7月1日)

 この判例は、犯人が深夜被害者の寝ている寝室付近で杉の葉に点火して燃焼させた行為について、放火の通告とみるべき客観的状況が存在したとし、脅迫罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、Yを脅かすため、Yの寝室付近で枯杉葉に点火燃焼させたのであるから、被告人はYが右点火燃焼を覚知し、被告人との関係から、右は被告人の行為であると察知することを期待していたことはもちろんである
  • しかも、この期待は、吾人の経験則からみて当然であるし、現にYは、即刻右点火燃焼を覚知し消火につとめ、その翌朝、右は被告人の所為であろうと推測したものであることを右点火の時間及びその地点などと考え合せてみると、右の点火をもって放火の通告と見るべき客観的状況がなかったものとなすことはできない
  • すなわち、被告人には、右の枯杉葉に点火燃焼させることによって、Yに対し、もし被告人の要求に応じないときは、その住家などに放火すべき旨の未然の通告をなす意思があったものであり、かつ、この意思を推測させるような客観的状況も存在したものとみるべきであるから、被告人の本件所為は、Yに対する脅迫罪を構成するものとなさざるを得ない

と判示しました。

広島高裁岡山支部判決(昭和29年11月25日)

 労働争議解決の手段として、重役夫人に陳情すると称し、労働組合員の多数が大挙して重役の私宅に赴き、その邸宅内外に多数のアジビラを貼り巡らし、かつ、中庭に侵入して留守居家人に重役の夫人への面会を強要し、これに悪口雑言をあびせて喧噪を極める行為について、暴力行為等処罰に関する法律第1条の集団脅迫の罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 暴力行為等処罰に関する法律第1条第1項に規定する脅迫は、集団を構成する個々の人の言動を個々に分別してこれを評価するときは、未だ独立した害悪の告知とするには足りないとしても、集団を構成する個々の人の言動を集積し、合同した力を客観的に観察すれば、一種の威力を感ぜられ、害悪の危険を感ぜられる程度に達すれば足るものと解する
  • 本件は個人対個人の関係ではなく、多数人の集団と個人との関係である
  • 私宅に対する多数のビラ貼りによって、これらの者の家族に対し嫌悪、困惑の念を起さしめ、これに加えて大挙して私宅に赴いて、その家族に対し、集団の威力を示して不安の念を起させ、会社重役及びその家族に対する心理強制を目的としたものと察知するに難くない
  • 従って、被害者宅に出向いた組合員の人数、ビラ及びビラ貼りの状況、中庭その他における多数組合員の言動等諸般の状況と背後の指導団体とその戦術目的とを総合して観察すると、積極的には悪を加える告知がなされた形跡は存在しないとしても、当時の雰囲気は、人をしてその威力を感じ、いかなる事態に立ちいたるやも知れないもの、すなわち畏怖の念を感ずる程度のものであったと疑うに十分であると認められる

と判示し、積極的には害悪を加える告知が存在しなくても、暴力行為等処罰に関する法律第1条の集団脅迫の罪が成立するとしました。

岡山地裁判決(昭和39年7月31日)

 この判例は、昼間、人の存否覚知することなく、路上から人の現在する家屋内に向けて拳銃を発射した行為について、脅迫罪を認定した事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、路上から、Yほか2、3名のいる家屋内に向かい、所携(しょけい)の拳銃で数発射ち込み、もって、Yらの生命身体に害を加うべきをもって脅迫した

と判示し、拳銃を発射した行為を脅迫行為と認め、脅迫罪の成立を認定しました。

東京高裁判決(昭和46年2月24日)

 信号炎管などに「返せ樺太北方領土、学生純生同盟行動隊」などと記入した荷札を添付してソ連大使館敷地内に投擲した行為が害悪の告知に当たるとし、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反1条の脅迫の罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 本件と同種の信号炎管、保安炎管は、いずれも危険な物であることが明らかであること、本件信号炎管等の投擲された場所は、昼間は大使館職員の子供らの遊び場になっていて、本件当時も大使館員の妻子が付近におり、本件信号炎管等は、大使館員が発見したとき煙を出して燃えていたというのであるから、場合によっては、大使館職員およびその家族等が火傷する危険性があったこと、犯行の数日前にも大使館構内に瓶や石が投込まれた状況であったことを認めることができるので、被告人の信号炎管等の投擲行為は、本件脅迫の構成要件である害悪の告知にあたるものといわなければならない

と判示しました。

次回記事に続く

 次回の記事では、「害悪の告知の方法③(暗示的方法)」について説明します。

脅迫罪(1)~(35)の記事まとめ一覧

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