犯罪行為を行う者を「正犯」といいます。
「正犯」は、「直接正犯」と「間接正犯」に分けられます。
「直接正犯」は、
自分自身の直接の身体活動によって犯罪行為を実行する者
をいいます。
「間接正犯」は、
他人を道具として利用し、他人に犯罪行為をやらせ、犯罪を実現する者
いいます。
実際に起こる犯罪のほとんどは「直接正犯」です。
テレビ報道される万引き、殺人などの犯罪は、ほぼすべて「直接正犯」の犯罪形態になっています。
これに対し、「間接正犯」は稀な犯罪形態であり、あまり見聞きしません。
そこで、今回は、「間接正犯」について深掘りして説明します。
間接正犯とは?
間接正犯は、人を道具として使って犯罪を実行することをいいます。
たとえば、善悪の判断ができない子供に「あのコンビニからチョコレートをとってきて」と言って、子どもを使って万引きをすれば、窃盗罪の間接正犯となります。
犯人自身は、直接手を下して万引きはしていません。
しかし、間接正犯という考え方があることで、犯人を、万引きを間接的に実行した犯人として処罰できるのです。
間接正犯と教唆犯との違い
教唆犯(刑法61条)とは、他人をそそのかして、犯罪を実行させる気にさせ、他人に犯罪の実行行為をさせる犯罪形態です。
教唆犯の場合は、自分の代わりに犯罪の実行行為をさせる相手にも、「犯罪をやってやる!」という犯罪を実行する意思があるのです。
これに対し、間接正犯の場合は、人を道具として犯罪を実行するので、犯罪の実行行為をする相手には、「犯罪をやってやる」という意志がありません。
間接正犯の『人を道具として使う』という意味は、犯罪の実行行為をする相手には、犯罪を犯そうとする意思がないことを意味するのです。
この点が、間接正犯と教唆犯の違いになります。
間接正犯における「道具として使われる他人」とは?
間接正犯で利用される『道具として使われる他人』は、具体的には、
- 善悪の判断ができない子供
- 善悪の判断ができない精神障害者
- 脅されるなどして、意志を抑圧されている人
- 犯罪を行う故意がない人
をいいます。
「善悪の判断ができない子供、精神障害者」について
先ほどの万引きの例のように、善悪の判断ができない子供や精神障害者を利用して万引きすれば、万引きをした子供や精神障害者ではなく、万引きをさせた人が窃盗罪を実行した者(窃盗罪の間接正犯)として処罰されます。
「脅されるなどして、意思を抑圧されている人」について
たとえば、暴力を振るうなどして、恐怖で萎縮している相手に対し、「万引きをしてこい!」と命令して万引きをさせれば、間接正犯が成立し、万引きを命じた犯人に対して窃盗罪が成立します。
これを「意思抑圧型の間接正犯」といいます。
「意思抑圧型の間接正犯」には判例があります。
事件の内容
顔面にタバコの火を押しつけたりするなどの暴行を加え、恐怖で意思を抑圧された12歳の養女に命令して、窃盗を行わせた事案
判決の内容
裁判官は、
『日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている12歳の養女を利用して窃盗を行ったと認められるの事実関係のもとにおいては、たとえ養女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、利用者につき、窃盗の間接正犯が成立する』
と判示しました。
ちなみに、善悪の判断能力があり、意思を抑圧されていない人に命じて万引きをさせても、間接正犯は成立しません。
この場合、窃盗の共犯が成立します(万引きを命じた人と命じられた人の両方に対して窃盗罪が成立)。(最高裁判所判例 平成13年10月25日)。
「犯罪を行う故意がない人」について
犯罪を行う故意がない人を使った間接正犯とは、たとえば、医師が、患者を毒殺するために、事情を知らない看護師を使って、患者に毒薬を飲ませて殺害したケースが当てはまります。
まとめ
間接正犯の理解は、「他人を道具として使う」という点がポイントになります。
他人に命じて、他人を道具として使って犯罪を実行するので、犯罪の実行を命じられた他人に罪はなく、犯罪の実行を命じた人にすべての罪があるとされます。
自分の手を汚していなくても、犯罪の実行を他人に命じた人こそが、犯罪の実行行為を行った者という認定になるのです。
これが間接正犯の考え方です。