刑法(虚偽告訴罪)

虚偽告訴罪(8)~「『虚偽の告訴、告発その他の申告』とは?その5」を説明

 前回の記事の続きです。

虚偽の告訴、告発その他の申告は自発的でなければならない

 虚偽告訴罪(刑法172条)において、「虚偽の告訴、告発その他の申告」は自発的でなければなりません。

 捜査機関、懲戒権者などの取調べを受けて虚偽の回答をするのは、「虚偽の告訴、告発その他の申告」に当たりませんが、証拠隠滅罪刑法104条)が成立する可能性はあります。

 ある犯罪に関して取調べを受けているうちに、全く別個の他人についての虚偽の犯罪事実を進んで申告した場合には虚偽告訴罪の申告に当たると解されています。

虚偽の告訴、告発その他の申告方法に制限はない

 虚偽の告訴、告発その他の申告方法は、

  • 告訴・告発の形式のいかんを問わない
  • 書面でも口頭でもよい
  • 匿名による場合でもよい
  • 他人名義又は仮名による場合でもよい

とされ、申告の方法に特段の制限はありません。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(明治42年4月27日)

 公民有権者名義の告発書を郵送して虚構の事実を申告した事案です。

 裁判所は、

  • 誣告罪(虚偽告訴罪)人をして処罰を受けしむるため虚偽の事実を当該官に申告するをもって成立するものにして、その申告は、ロ頭によると書面によるとを問わず、また、書面によると場合に在りては、署名あると匿名なると、また他人の名義を用いたるとを論ぜす、同じく誣告罪を構成すべきものとす
  • 何となれば、虚偽の事実を当該官に申告するよりては犯罪を構成するが故に、その申告の方法若しくは形式の如きは特にこれを問うの必要なければなり
  • かつ、刑事訴訟法上、書面をもって告訴又は告発を為すときは、その書面に署名捺印すべき旨の規定存するも、これに違背したる場合においてはその書面を無効と為すべき旨の規定なければ、本件の告発書は被告の署名を欠くをもって当然無効なりというを得ず
  • たとえこれを無効なりとするも、ために当初により申告を為さざりし同一状態に在りて犯罪は成立せずと論ずるは、蓋し穩当の見解に非ず
  • 何となれば、当該官は告発書の有効なると無効なるとを論ぜず、告発により犯行ありと思料したるときは、直ちに捜査若しくはその他の取調べに着手すべく、これに伴い誣告せられたる者は、名誉そのほかの法益を害せらるるを免れず
  • 故に、当該官の錯誤惹起し、また誣告せられたる者に煩累を及ぼしたる罪責は告発書の有効と無効との間に毫も選ぶところなければなり
  • 原審が本件の告発書に告発人の署名捺印を欠くもなお誣告罪の成立を妨げずと為し、有罪の判決を下したるは相当

と判示しました。

大審院判決(大正元年11月19日)

 上記判例と同種の事案について、裁判所は

  • 苟も人をして刑事又は懲戒の処分を受けしむる目的をもって当該官に虚偽の事実を申告するにおいては、誣告(虚偽告訴)の罪は完全に成立すべく、その申告の方法又は形式等の如何は本罪の成立に影響なきものなれば、本件被告の如く匿名の告発書を当該官に虚偽の事実を申告したる場合といえども誣告罪は直ちに成立する

と判示し、虚偽の事実を担当官署に申告すれば足り、匿名であろうと他人名義であろうと虚偽告訴罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和31年3月14日)

 他人名義の脅迫状を第三者に送り付け、その第三者をして当該名義人が脅迫を行った旨を所轄官庁に申告させた事案です。

 裁判所は、

  • 誣告罪(虚偽告訴罪)は人をして刑事又は懲戒の処分を受けしむる目的をもって虚偽の申告を為すことにより成立する犯罪であるところ、おおよそ人をして脅迫罪の嫌疑により刑事処分を受けしむる目的をもって他人の氏名を冒用し第三者に対する脅迫罪を構成する内容の私文書を偽造し、これをその第三者に郵送到達せしめ、右偽造私文書作成名義人が脅迫行為をなした旨誤信した第三者をしてその旨の申告を所轄官庁になさしむることもまた誣告罪を構成すると解すべきである

と判示しました。

 この判決は、故意のない者を道具として利用した虚偽告訴罪の間接正犯として、虚偽告訴罪が成立すると捉えたものと考えられています。

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