前回の記事の続きです。
公然陳列の「陳列」とは?
1⃣ わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の行為の内容は、
- わいせつ物・電磁的記録に係る記録媒体その他の物の頒布又はこれらの公然陳列(1項前段)
- 電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布(1項後段)
- 有償頒布目的でのわいせつ物の所持・電磁的記録の保管(2項)
です。
この記事では、①に関し、
- 公然陳列の「陳列」
を説明します。
2⃣ 公然陳列の「陳列」とは、通説によれば、
観覧することのできる状態に置くこと
とされます。
「陳列」に当たる場合として、
- わいせつ映画の映写(大審院判決 大正15年6月19日、最高裁決定 昭和32年5月22日))
- わいせつ録音テープの再生(東京地裁判決 昭和30年10月31日)
- わいせつな音声を録音した録音再生機を設置する行為(大阪地裁判決 平成3年12月2日)
が挙げられます。
③の大阪地裁判決(平成3年12月2日)の内容は以下のとおりです。
「ダイヤルQ2」の回線を利用したアダルト番組(わいせつな音声)を流すために、電話と接続された録音再生機をマンションの一室に設置し、電話をかけてきた不特定多数の聴取者にわいせつな音声を再生して聴取させた行為について、わいせつ物陳列罪の成立を認めた判決です。
裁判所は、
- 本件では、わいせつな音声を記憶させた録音再生機を岐阜市内のアパートの一室に設置していたのであるが、遠隔地にいる聴取者は、所定の電話番号のところに電話をかけることによって、再生機を作動させ、電話回線を通じてその録音内容を聞くことができた
- しかも、本件録音再生機は最高15人が同時に同じ録音内容を聞ける仕組みになっていた上、平成2年11月28日ころから翌3年5月27日までの間、常に電話をかけて録音内容を聞ける状態にあった
- なお、被告人両名は、新聞や雑誌などで本件テレホンサービスを広告していたため、実際にも、多数の聴取者が本件テレホンサービスを利用し、録音再生機に記憶された録音内容を聞いていたことが認められる
- このように、誰でも、いつでも、どこからでも、所定の電話番号のところに電話をかけることによって、本件録音再生機に記憶された録音内容を聞くことができる状態にしたのであるから、不特定、多数の人に本件録音内容を聴取できる状態にしたというべきである
- 従って、被告人両名は、わいせつな物を公然陳列したと認められる
と判示しました。
3⃣ 公然陳列の「陳列」とは、「観覧することのできる状態に置くこと」ですが、ここにいう「観覧」は、
視覚に訴える方法以外の方法(例えば、聴覚)を含む広い概念であり、その内容を感知できる状態に置くこと
を意味するものと理解すべきとされます。
このように解さないと、わいせつ録音テープの再生が陳列に当たることを説明できないし、わいせつ文書を公衆に対して朗読する行為も陳列から除外されることとなってしまいます。
このように「観覧」の意味を解すると、わいせつ性のある録音テープを電話により聞かせる行為も、当該テープがわいせつ物に該当し、かつ、不特定又は多数の者が聞くことができる場合にはわいせつ物陳列罪に当たることとなると解することができます。
4⃣ わいせつな肉声を発する場合については、わいせつ物陳列罪(刑法175条1項前段)ではなく、公然わいせつ罪(刑法174条)が成立すると解されています。
いったん録音したわいせつ音声を再生させた場合にはわいせつ物の公然陳列罪が成立するのに、公然性を有する実演(肉声)が公然わいせつに該当しないのは均衡を失する上、わいせつな行為に言語を用いることを含ませても文理上不自然ではないので、公然わいせつ罪が成立すると解されています。
5⃣ ストリップショーについては公然わいせつ罪が成立し、わいせつ物陳列罪は成立しないとするのが判例です。
裁判所は、
- 劇場で約200名の観客を前にし、舞台中央に幅約2mの薄い幕を垂下し、頭上に200燭光の電灯2個を点じ観客の方からその幕を透して、電灯の照明により十分その形、動作、肉体が透視できるようにした舞台の上に、女優が始めは全裸で紅絹の布切を胸の辺から垂らして持った姿で立ち、開演するとその布切を下に落して全く一糸をまとわない裸体を観客の方に向け約1分30秒間あるポーズを取って立っていた行為は公然わいせつの行為をなしたものである
と判示しました。
6⃣ わいせつ物陳列罪と公然わいせつ罪の差異について、
「両者区別の標準は、その法益侵害が公然わいせつ罪にあっては人の動作を他人に知覚させることにより行なわれ、わいせつ物陳列罪にあっては物を他人に知覚させることにより行なわれる点に存するものと認めるのを相当とする」
とした裁判例(東京高裁判決 昭和27年12月18日)があります。