前回の記事の続きです。
本罪の客体(わいせつな電磁的記録、その他のもの)」を説明)
わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の客体は、
- わいせつな文書(1項前段・2項)
- わいせつな図画(とが)(1項前段・2項)
- 電磁的記録に係る記録媒体、その他のもの(1項前段・2項)
- 電磁的記録、その他の記録(1項後段・2項。ただし、2項は「電磁的記録」のみ)
です。
この記事では、
- 電磁的記録に係る記録媒体、その他のもの
- 電磁的記録、その他の記録
を説明します。
「電磁的記録に係る記録媒体、その他のもの」の具体例
「電磁的記録に係る記録媒体、その他のもの」には、
- わいせつな画像データを記憶・蔵置させたハードディスク
- わいせつな彫刻物、置物、 レコード、録音テープ
などが含まれますが、
- 人の身体そのもの
は含まれません。
具体例として、
(なお、この判決は、性器あるいは性交を表現している秘仏がわいせつ物に該当するので、その写真もわいせつ物であると認定したものであって、秘仏自体がその他の物とされたものではない)
② 性交時の情景を露骨に想像させる性交時の会話及びその際発する音声などを模した会話、音声などを録音したカートリッジテープ(名古屋地裁判決 昭和46年4月1日、東京高裁判決 昭和46年12月23日、東京高裁判決 昭和48年8月29日)
③ 模造性器(最高裁決定 昭和34年10月29日)
④ 「ダイヤルQ2」の回線を利用したアダルト番組を流すための電話と接続されたわいせつな音声の再生機(大阪地裁判決 平成3年12月2日)
があります。
「電磁的記録、その他の記録」の説明
1⃣ 「電磁的記録」とは、
電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの
をいいます(刑法7条の2)。
- 電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする
と規定します。
「その他の記録」について、わいせつな画像等をファクシミリで送信した場合には、頒布先において電磁的記録以外の形態による記録として存在するに至ることもあり得るから、「その他の記録」も本罪の客体として、刑法175条1項後段(わいせつ電磁的記録等送信頒布罪)に掲げられました。
「電磁的記録その他の記録」の「頒布」とは、
不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめること
を意味します。
ここでいう「頒布」は、有償でも無償でもよいです。
「不特定又は多数の者」の考え方は、
単に、特定かつ少数の者に電子メールでわいせつな電磁的記録を送信し、これを受信させたとしても、「頒布」には当たらないが、不特定又は多数の者に送信する行為の一環として、あるいは、不特定又は多数の者に対して送信するという反復の意思をもって、これを受信させれば、「頒布」に当たり得る
と考えられています。
2⃣ 「頒布」に当たるためには、単に送信しただけでは足りず、
相手方の記録媒体上に「電磁的記録その他の記録」として存在するに至らしめることが必要
とされます。
そのような状態に至っていない場合には、「頒布」には当たりません。
具体的には、例えば、電子メールにわいせつな画像データを添付して送信するような場合は、メールサーバのメールボックスに到達した時点で、本罪は既遂に達すると考えられています(「既遂」の説明は前の記事参照)。
このように考えられている理由は、
- 相手方がこれを手元のパソコンにダウンロードすることが必要であるとすると、GmailなどのWebメールの場合には、そのメールボックスに記録されるにとどまっている限り、本罪(刑法175条1項後段:わいせつ電磁的記録等送信頒布罪)は成立しないこととなり、処罰範囲が不当に狭くなる
- メールサーバのメールボックスに電子メールが届いた状態は、手紙が郵便受けに入って受信者の支配下に入った場合と同視し得るから、その時点で既遂に達するといえる
ためです。
3⃣ また、例えばテレビ放送によりわいせつな画像を送信した場合については、通常は、受信させる映像はテレビ受信機に記録されるわけでないので、本罪(刑法175条1項後段:わいせつ電磁的記録等送信頒布罪)は成立しないと考えられています。
なお、この場合において、本罪(刑法175条1項前段:わいせつ物陳列罪)又は公然わいせつ罪(刑法174条、テレビの生中継で放映したような場合)が成立する場合があり得ます。