刑法(不同意性交等罪)

不同意性交等罪(2)~「保護法益(個人の性的自由)」「主体(犯人)」「客体(被害者)」を説明

 前回の記事の続きです。

保護法益(個人の性的自由)

 不同意性交等罪(刑法177条)の保護法益は、「個人の性的自由」という個人的法益になります。

 一般人に対する性的感情の保護という社会的法益の側面もなくはありませんが、個人的法益の側面が強いです。

主体(犯人)

 主体(犯人)については制限はなく、男女を問いません。

客体(被害者)

客体(被害者)は、性別・年齢を問わない

1⃣ 不同意性交等罪の客体(被害者)は、男女を問わず、年齢も問いません。

 不同意性交等罪は、客体(被害者)に対し、不同意わいせつ罪の条文である刑法176条1項の1~8号に記載される事由である

1号 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと

2号 心身の障害を生じさせること又はそれがあること

3号 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること

4号 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること

5号 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと

6号 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること

7号 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること

8号 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること

により同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態で性交、口腔性交、肛門性交等をした場合に、客体(被害者)の性別・年齢を問わず成立します。

2⃣ なお、刑法177条3項において、

16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする

と規定されており、これは、客体(被害者)が「16歳未満の者」である場合には、上記1~8号の要件の有無に関係なく(1~8号の要件がなくても)、不同意性交等罪が成立することを意味します。

 これは、「16歳未満の者」については、性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっているとはいえないことから、上記1~8号の要件の有無に関係なく、「16歳未満の者」の者に対して性交、口腔性交、肛門性交等をすれば、不同意性交等罪が成立するとされたものです。

客体(被害者)は生存していることを要する

 客体(被害者)は生存していることを要します。

 死体に対して性交、口腔性交、肛門性交等を行っても、不同意性交等罪は成立しません。

 ただし、被害者を不同意性交等する目的で暴行を加えて死亡させ、その直後に不同意性交等した場合については、不同意性交等の行為が被害者の死亡後であって、被害者の死亡と不同意性交等の行為を包括して不同意性交等致死罪(刑法181条2項)が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

 以下の裁判例は改正前刑法の強姦致死罪の判例ですが、考え方は不同意性交等罪にも適用できます。

最高裁判決(昭和36年8月17日)

 裁判所は、

  • 姦淫の目的のため、その手段として暴行脅迫を用い、結局、被害者を窒息死に至らしめ、姦淫の目的を遂げたという趣旨を認定しているのであって、本件の場合は、姦淫行為が殺害の直後であったとしても、これを包括して強姦致死罪(現行法:不同意性交等罪)と解すべきである

と判示しました。

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