前回の記事の続きです。
賭博罪の既遂時期
賭博罪(刑法185条)は単純行為犯であり、
実行の着手と同時に既遂に達する
とされています。
つまり、賭博罪の成立には、
勝敗の確定又は財物の得喪は不要
です。
結果的に何らかの事情(引き分け、賭博中の警察官による摘発、錯誤等)で勝敗が決まらなかったとしても、既に賭博の実行の着手が認められる限り、このことが一旦成立した賭博罪に影響を及ぼすことはないとされます。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(明治43年5月27日)
裁判所は、
- 必ずしも常に輸贏(勝敗)の決定せらるることを要せず
- 従って、苟もその博戯又は賭事にして勝敗を決し得べき性質のものなる以上は、たとえこれを為したる者の間において勝敗なくして了したる場合においても、これがため詐欺罪の成立を防ぐべきものにあらず
と判示しました。
大審院判決(明治44年2月16日)
裁判所は、
- 勝敗の結果の如きは、犯罪の成否に影響なきをもってこれを判示するを要せず
と判示しました。
大審院判決(大正6年11月8日)
裁判所は、
- 賭博罪の成立には、博戯又は賭事につき勝敗の結果として財物を得喪せられたることを必要とせず、また勝敗が決せられたること必要とせず
と判示しました。
大審院判決(大正12年12月20日)
裁判所は、
- 現実に勝敗の決したること若しくは財物の授受ありたることの如きは右犯罪の成立に必要ならず
判示しました。
大審院判決(大正13年6月14日)
裁判所は、
と判示しました。
大審院判決(昭和8年4月17日)
裁判所は、
- 博戯が既に実行の範囲に入りたる以上は、たとえ未だ勝敗の結果を見るに至らず事発覚したりとするも、賭博罪の成立につき欠くるところなきものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和13年8月30日)
ビン倒しと称する撞球賭博の事案で、裁判所は、
- 撞球競技を開始したるときは、既に賭博の実行行為を為したるものなれば、未だピン棒倒回の事実なく撞球競技結了せざるも、賭博罪成立するものとす
と判示しました。
裁判所は、
- 賭博罪は、偶然の勝敗に関し財物をもって賭事又は博戯をするによって成立し、その結果として勝敗の既に決したことは賭博罪の成立に必要な事柄ではない
- これは、国民の健全な風教維持のため賭博を刑罰制裁をもって禁止せんとする立法の趣旨から見て明らかなところである
- 所論のように、勝敗の決しない場合をもって全て未遂とし無罪とすべきものとすることこそ、むしろ社会の通念に反し賭博禁止の法の精神に戻るものと言わなければならぬ
- それ故、賭博の着手をもってその実行の範囲に入ってものと解しとれを既遂とすることは、賭博罪の性質から由来するところであって、所論のごとくこれを罪刑法定主義に反するものと説くのは適当ではない
と判示しました。
裁判所は、
- 金銭を賭けて麻雀遊技をした以上、勝敗を決するに至らず、また賭金の授受がなされるに至らなかったとしても、賭博罪の成立に欠けるところはない
と判示しました。
福岡高裁宮崎支部判決(昭和60年8月20日)
裁判所は、
- 単純賭博罪は、いわゆる単純行為犯ないしは行態犯と呼ばれるものに属し、偶然の輸えい(勝敗)に関し、当事者間において相互に財物の得喪についての合意が成立すれば足り、賭事又は博戯の開始があれば同時に既遂に達し
と判示しました。
大審院判決(明治44年5月15日)、大審院判決(明治44年5月23日)
裁判所は、
- 当事者の予想に反し勝敗の決せざる場合あり得べしとするも、その行為は賭博たるの性質を失うものに非ず
と判示しました。
大審院判決(大正2年12月19日)
裁判所は、
- たとえ賭博の実行に着手し、未だ勝敗を決するに至らず、若しくは勝敗を決すること能わざりしとするも、賭博罪は未遂状態に在るものに非ず
と判示しました。
大審院判決(大正3年5月12日)
空米賭博において錯誤により胴元と客が同一の売買申込みをしていた事案で、裁判所は、
と判示しました。
大審院判決(大正12年4月2日)
闘鶏賭博で闘鶏が引き分けとなった事案で、裁判所は、
- たとえ闘鶏の結果勝敗は決せざりしとするも賭博罪は既遂として完成するものにして、またその方法による賭事が勝敗の結果を生ずることをは決して不能に非ざるをもって勝敗の結果を生ぜざりし場合の指して不能犯なりと論ずるは当たらず
と判示しました。
大審院判決(大正13年6月25日)
闘鶏賭博で闘鶏が引き分けとなった事案で、裁判所は、
と判示しました。