前回の記事の続きです。
博徒結合図利罪とは?
博徒結合図利罪は、刑法186条2項において、
- 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
なお、「賭博場を開張して利益を図った」場合は、賭博開張図利罪が成立します。
博徒結合図利罪の成立要件
博徒結合図利罪は、利益を図る目的をもって、博徒を結合することによって成立します。
本罪については、賭場開張図利罪と密接な関連があり、その前段階をなす場合が多いとされます。
「博徒」とは?
「博徒」の意義について、学説において、
- 常習的賭博者をいうとする見解
- 常習的又は職業的に賭博を行う者をいうとする見解
- 親分、子分の関係をなし、一定の縄張り内において、その団結の威力を発揮する常習賭博者であるとする見解
があります。
③の見解については、多少継続的な人間関係があれば、親分、子分の関係があることを要しないとするのが通説・判例の立場です。
大審院判決(大正15年11月25日)
裁判所は、
- 刑法第186条第2項にいわゆる博徒は、常習として賭博を為す者を指称し、所論の如く親分、子分の開係あるものなうことを要せざる
と判示しました。
「結合」とは?
「結合」とは、
犯人自らが中心となって博徒との間に親分、子分又はこれに類する人間関係を結び、一定の区域(縄張り)内において随時に賭博を行う便宜を提供すること
をいいます。
必ずしも日時・場所を特定して直接に博徒を招結して賭博をさせることを要せず、博徒がその縄張内の随時、随所に集合し賭博を行うことができる便宜を提供する場合でもよいとするのが判例の立場です。
大審院判決(明治43年10月11日)
裁判所は、
- 犯人において、日時場所を特定して直接い博徒を招結し、賭博を為さしめたることを必要とせず、犯人が博徒を集合し、一定の区域内において随時随所に集会して賭博を為すの方便を授けたる場合においてもまた本罪の成立を見るに至るべき
と判示しました。
大審院判決(大正15年11月25日)
裁判所は、
- 犯人において自ら博徒を招集することを必要とせず、犯人が博徒をして自己の支配する縄張地域内おいて随所に集合して賭博行為を為すことを得せしめ、その縄張地内において事実上享有する実力をもって賭博者を保護したる場合にもいわゆる博徒を結合したるものに該当すること論を俟たず
と判示しました。
「利益を図る」とは?
「利益を図る」とは、
寺銭、手数料等の名義をもって、賭場開設の対価として、不法な財産的利得をしようとする意思のあること
をいいます。
「利益を図る」の意義は、賭場開張図利罪と同じであり、より詳しくは賭博開張等図利罪(4)の記事参照。
継続犯
継続的人間関係において結合者たる地位にある限り、博徒結合図利罪は継続し、その意味において本罪は継続犯であると解されています。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(明治43年10月11日)
裁判所は、
- 被告が縄張を構え、その乾兒(※子分のこと)らとの間において、その縄張内において賭博をなさしめ、賭場開張によりて得たる財物を徴収するの契約成立したると同時に、博徒を結合して利を図る所為ありたるものにして犯罪はこの時において成立し、この状態において変更せざる限りは、すなわち被告が親分としての地位を失脚せざる間は、依然として継続するものにして
と判示しました。
博徒結合図利罪における幇助犯
博徒結合図利幇助罪を認めた判例があります。
大審院判決(明治44年6月23日)
事案は、年度金の取立て、紛争の裁断・仲裁、親分の指揮命令の伝達等の行為は結合罪の正犯を幇助するものであるとした事例です。
裁判所は、
- 乾兒(※子分のこと)たる博徒らより親分に送付する年度金の取立、乾兒間に生じたる紛議の裁断及び仲裁、親分より乾兒に対する指揮命令の伝達等を為すは、いずれも博徒結合図利罪の正犯を幇助するものにして博徒結合図利罪の従犯をもって論ずべきなり
と判示しました。
博徒結合図利罪の罪数の考え方
1⃣ いったん博徒を結合させる行為があった後は、賭博の開張、財物の徴収が数回にわたる場合であっても全体が不可分単一の行為として一罪となり、1個の博徒結合図利罪が成立します。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(明治43年10月11日)
裁判所は、
- 被告が縄張を構え、その乾兒(※子分のこと)らのと間において、その縄張内において賭博をなさしめ、賭場開張によりて得たる財物を徴収するの契約成立したると同時に博徒を結合して利を図るの所為ありたるものにして犯罪はこの時において成立し、この状態において変更せざる限りは、すなわち被告が親分としての地位を失却せざる間は、依然として継続するものにして、その当初において博徒を結合するの所為ありたるのほか、被告において何らの行為をなすことを要せざるのみならず、原院もまた被告に数個の所為ありたることを認めたるにあらざるをもって、たとえ賭博の開張財物の徴収が数度にわたるも、なお不可分単一の所為として刑法第186条を適用し、刑法第55条を適用せざりしは相当なり
と判示しました。
2⃣ 博徒結合図利罪の行為者が、自ら賭場開張図利罪を実行した場合について、判例は、博徒結合図利罪と賭博開張図利罪にの両罪が成立した上、両罪は併合罪の関係になるとします。
大審院判決(明治43年12月9日)
裁判所は、
と判示しました。