前回の記事の続きです。
「開張」とは?
賭博開張図利罪は、刑法186条2項において、
- 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
この記事では、「開張」の意味について説明します。
「開張」とは、
- 賭博場の設営に当たって主宰的地位に立つこと
つまり、
- 主催者として賭博場を設け、その支配・管理の下に賭博の機会を与えること
をいいます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正15年9月25日)
裁判所は、
- 賭博開張罪は、犯人が利益を得るの目的をもってその支配の下に賭博を為さしむべき場所を開設するによりて直ちに成立する犯罪にして、その犯人に博徒又は賭博常習者たる身分あることを要するものに非ず
と判示しました。
大審院判決(昭和7年4月12日)
裁判所は、
- 株式取引所の参観席の如き場所といえども、犯人が主催者となりて、その場所に賭博者を集め、取引所によらず単に取引所の相場の高低によりて差金の授受を為し、偶然の利益を僥倖すべき賭銭博奕を為さしめ利を図りたる場合においては、該所為は賭博開張罪を構成するものとす
と判示しました。
裁判所は、
- 賭場開帳図利罪は犯人が自ら主宰者となり、その支配下に賭博をさせる一定の場所を提供し、寺銭入場料等の名目で利益の收得を企図することによつて成立するのであつて、所論のごとく慣行犯と解すべきいわれはない
と判示しました。
賭博開張図利罪の成立を認めるに当たり、受動的に賭場を提供するだけでは十分ではありませんが、賭場の開設が自らの発案によることまでを要するものではなく、他人が設営した場所であっても主宰者となり得ます。
また、賭博開張図利罪の成立を認めるに当たり、
- 賭博者の招集・誘引まで行うことは要しない
- 開張者が、賭博行為に加わることは必要ではない
- 賭博場の整理をしたり、賭博行為の進行指図といったことまで行う必要はない
とされます。
これらの点に関する以下の判例があります。
受動的に賭場を提供するだけでは十分ではないことについて
大審院判決(昭和2年11月26日)
裁判所は、
- 単に受動的に他人が賭博を為すを知りて賭場に充つべき房屋を給与したるに過ぎさる場合の如きは、たとえ賭博より利の供与を受けたるとするも、賭博罪を幇助したるものとして従犯をもって論ずべく賭場開張罪に問擬(もんぎ)すべきものに非ざるや論を竣たずといえども、苟も犯人が利を得る目的をもって他人をして賭博を為さしむるため、自己支配下の下に賭場を開設したる以上は、直ちに賭揚開張罪を構成し、賭博の幇助罪となるものに非ず
と判示しました。
名古屋高裁判決(昭和25年3月15日)
裁判所は、
- 若干の謝礼をもらい受ける約束の下に賭場として自宅裏の厩舎階上を提供し、同人らは同所において俗に狐ちよぼーという賭銭博奕をしたという事実を認め得るだけであって、被告人が主宰者となって同賭場を開設しその支配の下にAらをして賭博をなさしめたという事実は認められない
- もっとも被告人は同人らの依頼によって、ろうそく、握り飯、塩せんべいを提供し、また賭具の一部を貸与した事実は明かであるが、かかる事実をもって直ちに被告人がその賭場を開設支配したものとは速断できない
と判示しました。
賭場の開設が自らの発案によることまでを要するものではないことについて
大審院判決(昭和9年9月11日)
裁判所は、
- その場所開設については、賭博の開始ありたる以前にその設備を為すと否と、また、当初自己の発意に出でず他より執拗に勧誘を受けて場所を供与するに至りたると否とにかかわらず、苟も利を図る目的に出つるにおいては賭博開張図利罪を成立すべく
と判示しました。
他人が設営した場所であっても主宰者となり得ることについて
裁判所は、
- その場所は必ずしも犯人自らが設営したものに限らず、他人のあらかじめ設営した場所を利用することを妨げず
と判示しました。
賭博者の招集・誘引まで行うことは要しないことについて
大審院判決(明治45年5月23日)
裁判所は、
- 賭博者を招集し、または現実に利益を取得することは、その(賭博開張図利罪)構成要件にあらず
と判示しました。
大審院判決(大正2年3月18日)
裁判所は、
- 賭博者団を招集するが如きは、その構成要件にあらざる
と判示しました。
大審院判決(大正2年12月19日)
裁判所は、
- 賭博者を誘引したる事実の如きは、これを説示するの要なし
と判示しました。
大審院判決(大正5年10月6日)
裁判所は、
- 博徒の誘引招集等を要せざることは夙に本院判例の説示…
と判示しました。
大審院判決(大正12年2月28日)
裁判所は、
- 賭博者を誘引することは、その構成要件に非ず
と判示しました。
大審院判決(大正13年1月22日)
裁判所は、
- 賭博者を招集し、自己監督支配の下に賭博者の便利なる機会を与ふるか如きは、その構成要件に非ず
と判示しました。
大審院判決(昭和6年11月9日)
裁判所は、
- その賭博を為すべき者を招致すると否とは、該犯罪の消長を来すべきものに非ざる
と判示しました。
札幌高裁判決(昭和31年5月29日)
裁判所は、
- 賭博者を招集(中略)することはその構成要件ではないと解するを相当
と判示しました。
裁判所は、
- 自ら賭客を招集することも要しないものと解すべきである
と判示しました。
裁判所は、
- 賭博者を誘引し、招集することは、その構成要件ではなく
と判示しました。
開張者が、賭博行為に加わることは必要ではないことについて
東京高裁判決(昭和44年11月5日)
裁判所は、
- 開張者自身が賭博行為に加わることも必要ではないと解すべき
と判示しました。
賭博場の整理をしたり、賭博行為の進行指図といったことまで行う必要はないことについて
広島高裁松江支部判決(昭和27年2月11日)
裁判所は、
と判示しました。
主宰性の認定
1⃣ 賭博開張図利罪の成立を認めるには、賭場開張の「主宰性」が必要になります。
賭場を開張した犯人が主宰的地位にあったか否かの認定に当たっては、賭場の支配・管理、寺銭、犯人の役割等に係る種々の事情が考慮されます。
特に、寺銭徴収の事実は有力な資料とされている判例・裁判例が多いです。
この点に関する以下の判例・裁判例があります。
大審院判決(昭和6年11月9日)
裁判所は、
- 賭博場を開設して賭博を為さしめ、寺銭を徴収したる事実の存する以上、自らその主宰者となり図利の目的をもって賭博場を開張したるものと解するに足る
と判示しました。
大審院判決(昭和9年9月11日)
裁判所は、
- 該賭場において寺銭を徴収したるときは、自らその主宰者となり利を図りたるものに該当すべく
と判示しました。
仙台高裁判決(昭和25年11月25日)
裁判所は、
- 既に寺銭を徴収した事実が認められる以上、自らXらにおいて賭博場を主宰し利を図りたるものと認められることは寺銭の性質に鑑み多言を要しない
と判示しました。
2⃣ 寺銭以外の事情をも併せて考慮し主宰者性を認定した事案として、以下の裁判例があります。
高松高裁判決(昭和43年10月21日)
裁判所は、
- 被告人方において賭銭博奕をなさしめ、その間被告人は自ら賭博をせず、合力をかねて胴元として(中略)、3万円位の寺銭を取得している経緯に徴すると、右の賭博場は、臨時の思いつきで席の用意も充分でなく、寺銭も正規(賭金の1割という)の額ではなく、被告人のいう本式のものではなかったとしても、単に場所を提供し、場所代を受け取ったというにとどまらず、被告人自ら主宰者となって、利益を得る目的で、その支配下に賭博をさせる場所を開設したものと認定するのが相当であり
と判示しました。
広島高裁判決(昭和49年4月2日)
裁判所は、
- 右賭博にあっては、他の賭博場におけると同様、賭博を催した当家、すなわち、被告人方の賭具を使用して賭博がおこなわれ、その過程で前記の如き寺銭と称する金員を一定の割合で徴収し、これを被告人が取得したうえ、自己の賭金の一部にあてたり、集った賭客への招待の費用にあてるなどしで、自由に費消処分していたものであって、これらの事実を合わせて考慮すると、被告人は、前記のごとく自宅で催された賭博場の開設に関し、主宰的地位に立ち、その支配管理のもとに集った賭客に賭博の機会を与えるなど賭客が賭博をすることについての便宜を与え、その対価として寺銭を取得したものと認めるのが相当であって、被告人の右所為は、賭博場を開張して利を図った行為に該当するものというべきである
と判示しました。
東京高裁判決(昭和52年1月25日)
裁判所は、
- 土台金の調達、賭場の交渉、賭客の招集をした上、賭場においても、寺銭を集め、これを保管したうえ、貸付けたり、帳づけし、戻り銭を賭客に渡すこと等を分担、あるいは単独で行なっていたことを認定するに難くなく、共同開張者については「上り」を一定の割合で分配していることも明らかであって、(中略)関係被告人らの賭場開張図利罪の成立を否定し去ることはできない
と判示しました。