前回の記事の続きです。
賭博開張図利罪における幇助犯
幇助犯とは、
正犯(犯罪の実行者)を手助けした者
をいいます(刑法62条1項)。
幇助とは、正犯(犯罪の実行者)を手助けし、より簡単に犯罪を実行できるようにすることです(幇助犯の詳しい説明は前の記事参照)。
賭場開張を容易にする幇助行為を行った場合、賭博開張図利幇助罪が成立します。
幇助者の主観的要件として、本犯者(賭博開張者)が賭場開張図利罪を犯すものであることを認識している必要があり、賭博が行われるとの認識があるだけでは足りず、この場合、賭博開張図利幇助罪は成立しません。
賭場開張図利幇助罪の成立が認められた判例
判例において賭場開張図利幇助罪の成立が認められた事案として、
が挙げられます。
① 賭博場の提供の事案
大審院判決(大正2年7月9日)
裁判所は、
- 房屋を供することは、その実行上開張の便宜を与ふるものなることは疑なき
と判示し、賭場開帳図利幇助罪が成立するとしました。
裁判所は、
- 被告人CがBから賭博場を開帳するに適当な場所を世話してもらいたい旨の依頼を受け同人のために賭博場を世話してこれを幇助した事実を認定し得られるのである
と判示し、 賭場開帳図利幇助罪が成立するとしました。
② 賭博場の下足番の事案
大審院判決(大正11年10月6日)
裁判所は、
- 下足番その他諸般の手伝いを為す如き行為は、賭場開張罪の実行に必要欠くべからざるものに非ずといえども、賭場開張に便宜を与え、その犯罪を容易ならしむる所為なれば、被告人Xの判示犯罪事実は当然賭場開張罪の従犯をもって論ず
と判示し、 賭場開帳図利幇助罪が成立するとしました。
③ 賭博者の誘引の事案
大審院判決(大正9年11月4日)
裁判所は、
- 賭者の誘引は、賭場開張者をして利を図るの便を得せしむるものなれば、その所為は賭場開張幇助罪に該当し、賭博幇助罪を構成せざることは当院判例の旨趣とするなり(大正6年(れ)第2753号賭場開張幇助取引所法違反被告事件参照)
と判示し、 賭場開帳図利幇助罪が成立するとしました。
④軍鶏の販売
大審院判決(昭和7年9月26日)
裁判所は、
と判示し、 賭場開帳図利幇助罪が成立するとしました。
賭場開帳図利幇助罪の成立が否定された裁判例
賭博開張の幇助行為性が否定され、賭場開帳図利幇助罪の成立が否定された裁判例として以下のものがあります。
① 縁起のために塩をまく行為
名古屋地裁判決(昭和33年8月27日)
裁判所は、
- そもそも丁半賭博においては、1と6、あるいは2と6の目が出た場合、開張図利をなす者が賭銭の幾割かを寺銭として徴収する例のようであるところ、右の目が出ない場がつくと縁起のためその目が出るように塩をまくことがたまたま行われること及び被告人Xが右賭博場において塩まきをなしたことは証拠上認めうるのであるが、右塩まきは単に縁起のものであってその行為が直ちに賭博開張図利行為を容易にならしめるもの、すなわち本件起訴にかかるような当該犯罪構成要件に該当するものとは到底認めがたい
と判示し、賭場開帳図利幇助罪の成立を否定しました。
② 賭博終了後に賭客を送る行為
東京高裁判決(昭和50年1月22日)
裁判所は、
- 賭客を自動車で迎えに行く行為はともかく、賭博の終了後、賭客を賭場から送って行く行為は、所論の指摘するように正犯の終了後の行為であり、従犯は少なくとも、正犯の実行行為の終了前に行われることを要するものと解するのを相当とするから、右賭場から賭客を送る行為につき、賭場開張の従犯の成立する余地はないものといわなければならない
と判示し、賭場開帳図利幇助罪の成立を否定しました。