前回の記事の続きです。
この記事では、刑法190条の罪(死体遺棄罪、死体損壊罪、死体領得罪、遺骨等遺棄罪、遺骨等損壊罪、遺骨等領得罪、棺内蔵置物遺棄罪、棺内蔵置物損壊罪、棺内蔵置物領得罪)を「本罪」といって説明します。
本罪と殺人罪との関係
この記事では、本罪(刑法190条)と殺人罪(刑法199条)との関係を説明します。
殺人犯人が被害者の死体を現場にそのまま放置するのは、犯人がとくに葬祭の義務を有する者でない限り、殺人罪とは別に死体遺棄罪(刑法190条)は成立しません。
しかし、
- 死体を他に移し、犯跡を隠蔽するためこれを焼損すること
- 死体を全裸体とし、その頭部・左右上下肢を切断し、胴体を雑木林の中に、頭部を渓流の中に隠匿すること
- 犯跡隠蔽の目的で死体を地中に埋没すること
- 床下に隠匿すること
といった行為は、殺人罪のほかに死体遺棄罪を構成します。
そして、死体遺棄の結果は殺人行為から当然生ずべき結果ではないから、殺人罪と死体遺棄罪の関係は牽連犯ではなく併合罪となります。
この考え方は、死体損壊罪(刑法190条)の場合も同様です。
死体損壊罪の結果は殺人行為から当然生ずべき結果ではないから、殺人罪と死体損壊罪の関係は牽連犯ではなく併合罪となります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(明治44年7月6日)
裁判官は、
- 死体遺棄の行為は、常に必ず殺人行為に伴うものにあらざるをもって、人を殺したる後、更に死体を遺棄するにおいては、殺人罪のほかに、なお死体遺棄罪を構成するものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和8年7月8日)
裁判官は、
- 人を殺害したる上、死体を全裸体となして、その頭部及び左右上下肢を順次切断したるにとどまらず、胴体を雑木林の中に、また頭部を渓流中に隠匿するがごとき場合においては、殺人罪のほか、死体損壊遺棄罪を構成するものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和13年6月17日)
裁判官は、
- 人を殺害したる後、罪証隠滅の目的をもって、死体を地中に埋め、又はこれを支解折割するときは、殺人の罪と死体遺棄又は損壊罪との併合関係を生ずるものとす
と判示しました。
裁判官は、
と判示し、殺人罪のほか、死体遺棄罪も成立するとしました。
裁判官は、
- 旅館の客室で人を殺した者がその死体を客室の床下に投棄秘匿する場合には、殺人罪のほかに死体遺棄罪が成立することは明らかである
と判示しました。
大審院判決(明治43年11月1日)
裁判官は、
- 被告人は、Kの殺害しようと決意し、棍棒及び鍬をもってKの頭部を乱打して死に至らしめ、これが死体をK方西側の井戸の中に投棄した
- 死体遺棄の犯罪は、殺人罪より当然の結果として生じたる行為にあらずして、被告がKを殺害し、進んでその死体を井戸の中に投棄したるものなれば、これは目して直ちに刑法第54条を適用すべきものにあらざるや明らかなり
と判示し、殺人罪と死体遺棄罪は手段と結果の関係にないので牽連犯にならず、殺人罪と死体遺棄罪はそれぞれ独立して成立し、併合罪になるとしました。
大審院判決(昭和11年1月29日)
裁判官は、
- 強盗殺人罪を犯したる者が、その犯跡を隠滅せむがため、死体を他の場所に運搬し、ひとかにこれを土中に埋蔵するがごときは、刑法第190条の死体を遺棄したるものに該当す
- 強盗殺人罪と死体遺棄罪とは、刑法第54条の牽連犯を構成すべきものにあらず
と判示し、強盗殺人罪(刑法240条)と死体遺棄罪は牽連犯ではなく、併合罪の関係になるとしました。
大審院判決(昭和9年2月2日)
裁判官は、
と判示しました。