刑法(贈収賄罪)

受託収賄罪(4)~請託とは?③「『請託』は、将来の特定職務行為に対して包括的になされるものでもよい」を説明

 前回の記事の続きです。

「請託」は、将来の特定職務行為に対して包括的になされるものでもよい

 受託収賄罪(刑法197条1項後段)における「請託」は、

  • 公務員に対して、一定の職務行為を行うよう依頼すること

をいいます。

 「請託」は、将来の特定職務行為に対して包括的になされる場合でも足ります。

 この点について判示した以下の裁判例があります。

大阪高裁判決(昭和32年11月9日)

 裁判所は、

  • 「請託」とは職務行為の事前になければならないこともちろんであるが、必ずしも利益授受の際に請託しなければならないものでなく、公務員の職務行為が将来多数回にわたって継続することが予想される場合に、その将来の職務行為を目標としてあらかじめ請託が行われ、これを承諾したときには、その将来の個々の職務行為について一々明示の依頼がなくても右あらかじめ目標とした職務行為がなされ、これについて利益の授受があった以上請託贈賄、同収賄の各罪が成立する

と判示しました。

大審院判決(大正3年3月31日)

 裁判所は、

  • 贈賄者が将来の利益を期待したるに過ぎざる場合といえども、苟も公務員がその職務に関し、賄賂を収受したる以上は収賄罪の成立を妨げるものに非ず

と判示しました。

最高裁決定(昭和36年2月9日)

 公務員の将来命ぜられるべき職務に関し収賄罪が成立するとした事例です。

 裁判所は、

  • 葉たばこ収納に際し専売公社地方局長の任命により鑑定人としての職務を執行する権限を有すべき同公社支局技術課長が、その具体的職務の執行を予期し、これに関し不正の利益を収受したときは、たとえ右具体的職務の執行が地方局長の任命といえ条件にかかつていたとしても、収賄罪の成立を妨げるものでない

と判示しました。

最高裁決定(昭和61年6月27日)

 市長の再選後に担当すべき職務に関し受託収賄罪が成立するとされた事例です。

 裁判所は、

  • 市の発注する工事に関し入札参加者の氏名及び入札の執行を管理する職務権限をもつ市長が、任期満了の前に、再選された場合に具体的にその職務を執行することが予定されていた市庁舎の建設工事の入札等につき請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立する

と判示しました。

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