前回の記事の続きです。
事前加重収賄罪の成立時期
事前加重収賄罪(刑法197条の3第1項)は、
に成立し、犯罪が既遂に達します(既遂の説明は前の記事参照)。
ただし、その成立の時期には検討すべき点があります。
1⃣ 不正な行為が、単一の作為からなる場合には、当該行為の終了によって事前加重収賄罪が成立しますが、複数の作為からなる場合、その一部を行っただけで事前加重収賄罪が成立するか否かが問題になります。
この点、参考となる裁判例として以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和34年12月17日)
税務署所得税係が不当に減額した所得税の確定申告書を提出させてこれを受理し、署長にその旨進達する行為は不正な行為をしたものとして、事前加重収賄罪の成立が認められた事案です。
この判決は、事前加重収賄罪の成立時期について、
- 不当に減額した確定申告書を税務署に提出させて受理することだけで不正な行為をしたと認められ、その時点で事前加重収賄罪が成立する
と解しています。
確定申告書の受理は、形式的なもので、実質的に内容を審査するものではありませんが、不正な申告内容であることを知っていれば、受理すべきでない職務上の義務が存在し、そのような申告書の受理は職務違反行為となることから、申告書の受理の時点で事前加重収賄罪が成立するという考え方になります。
さらに進んで考えると、確定申告書を受理した上でこれを上司に伝達するなど不正な行為を重ねた場合は、その後の不正な行為も事前収賄罪の不正な行為に含まれ、収賄行為と因果関係のある不正な行為がすべて終了した時点で事前加重収賄罪が終了するという考え方になります。
2⃣ 不作為(相当な行為をしないこと)によって事前加重収賄罪をなす場合は更にその成立時期が問題となります。
作為義務に時期的限界があることが明らかな場合には特段の問題はなく、その限界を超えれば、相当の行為をしなかったことになります。
しかし、多くの場合、必ずしも時期的限界は明確ではないと考えられます。
それを踏まえ、不作為による事前加重収賄罪の成立時期については、
- 相当な行為をなすべきことが期待されている通常の時期までに作為をしなかった
というのが一応の基準となると考えられています。
このほかの不作為による事前加重収賄罪の成立時期の判断基準として、
- 不作為の意思が外部に現れた場合
には、その時期的限界内であっても、不作為があったとすべきという考え方があります。
例えば、警察官が犯罪を上司に報告しなかった事例(大審院判決 昭和6年9月12日)でいえば、通常の報告の時間的限界の他に、上司に報告をする機会があったのに報告しなかったという事実によって、不作為の行為が明らかになると考えられます。