前回の記事の続きです。
あっせん収賄罪の故意
あっせん収賄罪(刑法197条の4)は故意犯です。
なので、あっせん収賄罪の成立が認められるためには、あっせん収賄罪の行為を実行する故意が必要になります(故意の詳しい説明は前の記事参照)。
あっせん収賄罪は、
- 公務員(あっせん公務員)が、請託を受け、他の公務員(職務公務員)をしてその職務上不正な行為をさせ、又は、相当な行為をさせないようにあっせんし、又はあっせんしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束する罪
です。
あっせん収賄罪の故意の内容は、
- あっせん公務員、職務公務員が共に公務員であること
- あっせん行為が不正行為又は、相当な行為をさせないことに関するものであること
- 収受・要求・約束する利益があっせんすること又はしたことの報酬であること
の認識であり、いずれも存在する必要があります(なお、刑法198条のあっせん贈賄罪も同じ)。
あっせん公務員において賄賂の収受等が行われた時点で職務公務員の氏名等を具体的に認識している必要はなく、一般的に、職務公務員にあっせんをするとの犯意を有していれば足りると解されています。
②の「あっせん行為が不正行為又は、相当な行為をさせないことに関するものであること」の認識について
1⃣ 職務公務員に働きかける内容が不正な行為をすること又は相当の行為をしないことに当たることをあっせん公務員も贈賄者も知らない場合は、単に知らないというだけでは故意を阻却しません。
職務公務員の職務上の行為は、通常、技術的な行政法規により規制されており、大幅な裁量権を認められていることが少なくありませんが、何が不正な行為をすることに当たり又は相当の行為をしないことに当たるかは
客観的に定まる
ことになります。
したがって、客観的には不正な行為をすること又は相当な行為をしないことに当たる作為・不作為を働きかけることについての認識がある以上、当該作為・不作為が不正な行為をすること又は相当な行為をしないことに当たるかどうかは、法的評価の問題になるので、通常は事実の錯誤に当たらず、一般には故意を阻却しません。
2⃣ 働きかけの内容である作為・不作為について、正当な行為をすることであり又は相当な行為をしないことではないと信じていた場合で、そのように信じたことが、事実を誤解した結果である場合には故意を阻却しますが、単に法令を誤解したことによりそのように信じた場合には故意は阻却しません(法律の錯誤は故意を阻却しないことは違法性の意識とはの記事参照)。
3⃣ あっせん公務員において、請託内容が職務公務員に不正行為をさせることの認識があり、贈賄者において、事実の錯誤で、何ら不正行為ではない旨の認識があり、それでもあっせんに対する謝礼として賄賂が収受された場合、又は逆の場合、一方にあっせん収賄罪又はあっせん贈賄罪が成立し、他方は、故意を阻却される場合があり得えます。
4⃣ 不正行為等の認識があっても、実際には不正行為でない場合に、あっせん収賄罪は成立しません。
③の「収受・要求・約束する利益があっせんすること又はしたことの報酬であること」の認識について
1⃣ あっせん収受罪・あっせん贈賄罪の賄賂は、あっせんをすること又はしたことの報酬として授受・要求・約束されることを要するので、収賄者に、その旨の認識があることが故意の内容として必要となります。
授受された賄賂が、あっせん行為に対する報酬ではなく、職務公務員に対する賄賂であり、単にそれを仲介するにすぎないと信じていたとして、そのように信ずるにつき、事実の錯誤があるとすれば、故意を阻却することになると考えられます。
2⃣ 授受された賄賂が全て職務公務員に直ちに渡っていれば、あっせん収賄の成立の余地はありません。
3⃣ 賄賂があっせん公務員に対する分と職務公務員に対する分とを含み、職務公務員に対しその分があっせん公務員から渡された場合には、あっせん公務員については、あっせん収賄の成立のほか、その立場と事情によって、職務公務員の収賄罪(単純収賄罪、受託収賄罪)かこれに対する贈賄罪の共同正犯となると考えられます。