前回の記事の続きです。

収賄罪が共犯で行われた場合に誰から賄賂を没収・追徴すべきか?その2

 賄賂の没収・追徴で問題になるのが共犯者がいた場合です。

 収賄罪が犯したのが収賄者一人であれば問題はありませんが、共犯者がいた場合に賄賂を誰からいくら没収するかという問題が生じます。

 賄賂を複数人が共同して収受した場合には、その態様によって、没収・追徴の相手方や考え方が異なるところ、以下の①~⑤の項目に分けて説明します。

  1. 共同収受した賄賂を共犯者間で共有している場合
  2. 共同収受した賄賂を共犯者のうちの一人が取得している場合
  3. 賄賂を共犯者間で分配して費消した場合
  4. 非公務員が共犯者であった場合
  5. 賄賂が教唆者、幇助者に分配された場合

 この記事では③について説明します。

③ 賄賂を共犯者間で分配して費消した場合

1⃣ 共同して収受した賄賂を分配し、その後各自が費消した場合は、没収不能として追徴することになりますが、この場合、追徴額が問題となります。

 この点について、判例は、各自の分配額に応じて追徴すべきとしています。

大審院判決(昭和9年7月16日)

 裁判所は、

  • 多額の分配を受けたる者をして不正の利益を保持せしめ少額の分配を受けたる者をして過度の負担を為さしむるが如き不公平なる結果を生ずるが故に、追徴は共犯者各自の分配額に従ってこれを行うを適当なりとす

と判示しました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和34年3月31日)

 裁判所は、

  • 多数の者に対して一定金額の賄賂が贈られ、その一人がこれを収受して、その一部を自己のために、その余を贈与を受けた他の者のためにそれぞれこれを費消した場合、該賄賂を現実に収受した一人の者に対し、基の全額の追徴を命ずべきでなく、その者が事実上受益した範囲において、その追徴を為すべきであると解する

と判示しました。

2⃣ なお、上各自の分配額に応じて追徴するという考え方は、共犯者がそれぞれ享受した賄賂の利益に応じて分割して追徴するというものであり、共同で収受した賄賂を分割せずに共同費消した場合には、平等に利益にあずかったと考えられるので、平等に分割した額を追徴することになると考えられています。

3⃣ また、供応接待の場合にまま見られるように、贈賄者とも共同で費消したような場合は、共同収賄者の分だけを追徴することになると考えられています。

 つまり、収賄者が享受した利益に応じて分割して賄賂を追徴するという考え方になります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正4年3月13日)

 裁判所は、

  • A、Bの依頼により、賄賂の目的をもって加功者Cと共にDを供応したる場合において、その追徴すべき賄賂の価格は収賄者Dのために要したる部分なりとす

と判示しました。

東京高裁判決(昭和27年3月17日)

 裁判所は、

  • 原判決は被告人Aが、被告人Bから賄賂として、単独で前後七回に合計6万5000円の現金を收受し、別にCと共謀の上20万円の現金を收受した事実を認定したが、本件訴訟記録及び原裁判所が取り調べた証拠に現われた事実に徴すれば、被告人Aが単独で収受した現金6万5000円は全部同被告人が自己の用途に費消したことが明らかであり、又Cと共謀の上収受した現金20万円については、その頃同被告人がこれをCと折半しようとしたが、Cはその半額のうち3万円だけを受け取り、残り7万円は被告人Aが預かり、これと自分の分配額10万円の合計17万円の一部を大阪銀行横浜支店に預金し、残部は自宅に保管していたこと及びその後間もなく被告人Aが自宅に保管していた現金3万円と大阪銀行横浜支店から払戻を受けた4万円の合計7万円をCに返したことが明らかである
  • ところで、数人が共謀して賄賂を収受した場合の没収又は追徴は、共犯者各自が現に享有した利益により、その分配額に従ってこれを行うべきものであるから(昭和9年7月16日宣告大審院昭和9年(れ)第610号大審院第一刑事部判決、大審院判例集第12巻第972頁参照)被告人AがCと共謀して収受した現金20万円については、現実にCに渡した3万円を差し引いた残金17万円を同被告人から没収又は追徴すべき筋合であるが、そのうち3万円は、同被告人が自宅に保管していた右収賄金の中から、すでに被告人Bに返還しているのであるから、この限度においては、当然これを被告人Bから沒収又は追徴すべきものであって、被告人Aはその責を免れるものであり、また被告人Aが大阪銀行横浜支店から払い戻して被告人Bに返還した現金4万円については、銀行に預金してから旬日を経ずして払い戻を受けたものであり、かつ被告人Aにおいて、自分が預金した右収賄金の中から払い戻を受ける意図であったことが窺われるが、このような場合には、たとえ一事銀行に預金した事実があったとしても、社会通念上その収賄金たるの性質に影響を及ぼすものではないと解するのが相当であるから、この分についても、また当然被告人Bから追徴又は没収すべきものであって、被告人Aはその責を免れるものといわなければならない
  • 従って、被告人Aからは、前記20万円の収賄金の中から被告人Bに返還した7万円及びCに提供した3万円を差し引いた10万円と、単独で収賄した6万5000円の合計金16万5000円を追徴し、また被告人Bからは被告人Aの収賄金の中から返還を受けた金7万円を追徴すべきにかかわらず、これと違った判断をした原判決は結局判決の理由にくいちがいがあることに帰し、原判決は破棄を免れない

と判示しました。

4⃣ もっとも、享受した利益に応じて分割し難い場合は、平等に分割して追徴せざるを得ないことなります。

 共犯者間で分割されたことは明白でも、各自の分配額が不明な場合には、結局、現にどれだけの利益が享有されているか否か明らかでないから没収し得ないし、追徴額も確定し得ないので、共犯者各自が現に享受した利益が分明しない場合には、平等に分割してこれを各自に負担させることとするほかはないとされます。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和27年7月3日)

 裁判所は、

  • 数人が共謀して収受した賄賂の没収又は追徴については、各自が現に享受した利益に従ってこれを行うことが相当であることは論旨の指摘するとおりてあるが、このことは各自が現に享受した利益が分明しているときにはじめてなし得ることであるから、それが分明しない場合には、平等に分割してこれを各自に負担させることとするほかはないものと解さざるを得ない

と判示しました。

 賄賂が収受されたことは確定し得ても、分配があったか否か判明しない場合も同様に平等に分割してこれを各自に負担させることとするほかはないと考えられています。

5⃣ 共同収受した賄賂の使途が、共犯者各人の個人的用途ではなく、例えば課の厚生費に充てられるなど、支出責任者が一括して保管費消するような場合には、その者から没収・追徴すべきものとされています。

 例えば、公務員が単独で賄賂を収受し、その公務員が属する課のために費消したような場合は、その公務員から没収・追徴することになります。

 この点に関する以下の判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和28年12月22日)

 裁判所は、

  • 職権をもって、原審の追徴の当否について考察するに、刑法第197条の5により、犯人が収受した賄賂を没収することができないときはその価額を追徴すべきことを定めており、原審は被告人と原審相被告人A、B、Cの収受した賄賂につきその各人の収受した金額が明瞭でないから各平等の割合で追徴するのが相当であると説明し、被告人から金86万8754円を追徴しているのであるが、検察官に対するA、B、C及び被告人の各供述調書によれば被告人らがD又はEから収受した原判示各金員は被告人において別途会計として保管していたのであるがこれを支出する場合の責任者は所長であるA又はBであり、被告人は金員支出の場合の会計的事務を執ったに過ぎないのであるから、所長である同人らから賄賂の価額を追徴するのは格別、被告人から追徴すべきではないけだし、本件のような収受した賄賂の使途が共犯者各人の純然たる個人的用途ではなく、旅費手当慰安費の如く、職員全体のために用いられ、又は接待費の如く事務所としての社交的儀礼のため用いられた場合は支出の責任者から賄賂の価額を追徴すべきものと解するのを相当とする
  • したがって原審は追徴の点に関し、事実を誤認したか又は法令の適用を誤ったもので、その誤りは判決に影響すること明らかであるから原判決はこの点において破棄を免れない

と判示しました。

 このような考え方に対し、近時、最高裁決定(平成16年11月18日)は、不真正連帯債務原則説とも言うべき新たな見解を示しています。

 同決定は、公務員と非公務員が共謀して現金1億5000万円の賄賂を収受したが、両共犯者間における分配、保有及び費消の状況は不明という事案について、両被告人に均分額の7500万円の追徴を命じた一審判決を是認した控訴審判決に対する上告を棄却したものです。

 裁判所は、まず一般論として、

  • 収賄の共同正犯者が共同して収受した賄賂については、これが現存する場合には、共犯者各自に対しそれぞれ全部の没収を言い渡すことができるから、没収が不能な場合の追徴も、それが没収の換刑処分であることに徴すれば、共犯者ら各自に対し、それぞれ収受した賄賂の価額全部の追徴を命じることができる

とした上、

  • 賄賂の必要的没収・追徴の趣旨は、収賄犯人らに不正な利益の保有を許さず、これをはく奪して国庫に帰属させる点にあり、共犯者各自から賄賂の価額の全部を追徴できるとしても、重複執行は許されず、共犯者中の一人又は数人について全部の執行が了すれば、他の者に対しては執行し得ないことからすると、不正な利益の保有を許さないとの要請が満たされる限り、必要的追徴であるからといって、共犯者全員にそれぞれ価額全部の追徴を常に命じなけれはならないものではない
  • 共犯者らに追徴を命じるに当たって、賄賂による不正な利益の共犯者間における帰属、分配が明らかである場合にその分配等の額に応じて各人に追徴を命ずるなど、相当と認められる場合には、裁量により、各人にそれぞれ一部の額の追徴を命じ、あるいは一部の者にのみ追徴を科すことも許される

としました。

 この決定の一審、二審は従来の考え方に基づいて均分額の追徴を命じており、従来の解釈に基づいてこれを維持できたものですが、同決定は、明示的な判例変更はしていないものの、あえて、共同収受された賄賂の価額追徴に関する従来の解釈を改めたものです。

 この決定は、その背景事情には言及していませんが、従来の考え方には、

  • 分配額に応じた分割追徴を原則としつつ、本件のように分配の有無あるいは分配額が明らかでない場合の追徴額を均分額とするのは、一種の割り切りと言わざるを得ないこと
  • 追徴額を確定するには分配の有無及び額を確定し、これが確定されないときには、平等追徴の前提として共犯者の数を確定する必要があるが、罪体や重要な犯情との関係が希薄な点についての審理に精力を費やすことを余儀なくされたり、常に明らかになるとは限らない共犯者の内部関係により追徴額が動揺する懸念があること
  • 死亡や所在不明等の事情により共犯者の一部に追徴を命じることができない場合には、同人から追徴すべき額は他の共犯者から追徴することはできず、賄賂の全部又は一部をはく奪できない事態が生じ得ること

などの問題点があったところ、この決定の不真正連帯債務原則説とも言うべき新たな解釈ではこれらを回避できることになります。

 この新たな解釈は、裁判所の裁量権行使の範囲・基準が問題となりますが、この決定は、賄賂の帰属・分配が明らかである場合にその分配等の額に応じた追徴を命ずることを特に例示するとともに、共同収受した賄賂について共犯者間における分配、保有及び費消の状況が不明であるとして共犯者2名に均分額の追徴を命じた一審・二審の判断について、相応の合理性があり、各追徴額を合算すれば収受された賄賂の総額を満たすから必要的追徴の趣旨を損なうものではないとして是認しており、新たな解釈の下でも、代表的な設例で従来の考え方が導いていた結論が適正な裁量判断として是認されることを示しています。

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