前回の記事の続きです。
共同正犯、共謀共同正犯
凶器準備集合罪、凶器準備結集罪(刑法208条の2)について、共同正犯が成立することはもちろんのこと、共謀による共同正犯(共謀共同正犯)の成立も認められます。
これを判示した裁判例として、以下のものがあります。
裁判官は、
- 凶器準備集合罪は、共謀共同正犯の形をとる場合をも含むと解するのが相当であって、共謀共同正犯の成立に必要な謀議に参加した事実が認められる以上、たとえ当該犯人がその集合体に参加しなかつたとしても、共同正犯の刑責を負うべきものである
と判示しました。
東京地裁判決(昭和63年3月17日)
裁判官は、
- あらかじめ、集合方法、襲撃の方法について立てられた綿密な計画に基づく指示を受けて集合する際、集結寸前に逮捕され、自らは犯行に加わらなかった者について、自らも本件各犯行を実現しようとする意思を持って行動し、他の行動隊員の実行行為を通してその意思を実現したと認めるのに十分であるから、本件各犯行のすべてについて共謀共同正犯の刑責を免れることができない
とし、共謀共同正犯を認める根拠について、
- 凶器準備集合罪の正犯となる「集合したる者」には「共同して害を加ふる目的」が存しなければならないが、このことは、共同加害の目的を他と共同して自らも加害行為に出る目的と解すべき根拠となるものではなく、集合した者のうち二人以上の者において共同して加害行為に出ることを認識していることを要すると解すべき根拠となるにとどまる
- そして、この解釈は凶器準備集合罪が共同加害の危険性をはらみ、かつ、凶器の準備されている集合体にそのことを知りつつ参加する行為を共同加害の危険性と社会不安とを増大させる行為とみてこれを禁圧する趣旨で規定されてことに適合するばかりか、一般に将来の行為又は結果を内容とする目的犯の目的について、その行為又は結果が発生することの認識(予見)をもって足りると解されていることとも調和する
- このように解すると、凶器準備集合罪は共謀により共同実行することが可能な犯罪であることが明らかである
と判示しました。
東京高裁判決(平成元年7月6日)
凶器準備集合罪の共謀共同正犯の成立を認め、これに対する現行犯逮捕を適法とした事例です。
裁判官は、
- 現行犯逮捕が許されるのは、「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった」という状況から被逮捕者がその犯罪の犯人であることの罪証が明白であるためであるから、実行行為者及び被逮捕者たる共謀共同正犯者の挙動や犯罪現場の状況などから、現に行われ又は終了した犯罪が、共謀による共同犯行であることが明白であるときには、被逮捕者が共謀共同正犯者であるときにも、これを現行犯として逮捕することができるものと解される
と判示しました。
千葉地裁判決(平成元年10月24日)
裁判官は、
- 空港反対同盟決起集会に参加した被告人らは、遅くとも、代表の演説があり、これに応じて凶器準備集合がなされた時点において、凶器準備集合罪、公務執行妨害罪および傷害罪の各共謀が成立したものと認められる
と判示し、事前の共謀に基づく凶器準備集合罪の成立を認めました。
共犯からの離脱方法
共犯からの離脱方法についても、一般の犯罪と同様の考え方が凶器準備集合罪、凶器準備結集罪に適用されます(共犯関係からの離脱方法の説明は前の記事参照)。
犯行着手前に共犯から離脱するには、
- 離脱者が他の共犯者に「共犯から離脱する」旨の意思表示を行う
- 他の共犯者が、離脱の意思表示を了承する
の2点が必要になります(東京高裁判決 昭和25年9月14日)。
犯行着手後に共犯から離脱する要件は、犯行着手前に共犯から離脱する要件よりも厳しくなり、
- 他の共犯者が犯行を実行しないように、犯行を防止する措置を講じる
という要件が必要になります。
凶器準備集合罪の事案で、共犯からの離脱する方法について判示した裁判例として、以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和58年7月15日)
凶器準備集合罪の事案で、共犯からの離脱する方法について判示した事例です。
裁判官は、
- 組織の上部において計画、共謀された集団犯罪においても、これを了承して最終的に共謀を遂げた者は、集団がいわゆる凶器準備集合体と化す以前にその集団から離脱したとしても、単にその集団から離脱することによって共謀関係から離脱できると解するのは相当ではなく、これから離脱するためには、犯行の意思を放棄し、少なくともその意思を他の共犯者に表明することを要すると解すべきである
と判示しました。
なお、この裁判の一審は、集団の一般参加者については、集団が凶器準備集合体と化す前は、単純に集団から離脱することで共謀関係から離脱できると判示していましたが、控訴審で原審の考え方を否定したものです。